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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
五章
110/200

【110】魔大陸会議


 一


「――――わしは濃霧の魔王ムゲンサイ。魔大陸会議を取り仕切っている、無力な老人じゃよ」


 濃霧の魔王ムゲンサイは、穏やかな口調でそう言った。


(こいつの魔力に何となく覚えがあるな……。何だったか……)


 ムゲンサイが持つ強大な魔力を前に、鹿羽は既視感のようなものを感じていた。


(――――思い出した。迷宮探索の時、最深部で出会った”屍王/リッチ”の魔力に似ている……。案外、親戚だったりするのかもな……)


「ふむ。老人はお嫌いかの?」

「……いや、申し訳ない。少し考え事をしていた」

「そうかの。まあ、緊張するのも無理はないの」


 ムゲンサイはそう言うと、そのまま奥へと歩き出した。


 周りから見れば呆然としている様子だった鹿羽に対し、テルニア・レ・アールグレイは何気なく声をかけた。


「――――何か気になることでもあったか?」

「いや、何でもない」

「そうか。なら早く行こうぜ。遅刻すると面倒だからな」

「……そうだな」


 ムゲンサイが歩いて行った方へと向かって、鹿羽達も静かに歩き出した。


 二


 場所はレ・ウェールズ魔王国の南東に位置するドーレドドンの樹海。

 魔大陸会議が行われることになっている砦にて。


 七人もの魔王が一つの円卓を囲む中、魔大陸会議が始まろうとしていた。


 そして鹿羽とE・イーター・エラエノーラの二人はテルニア・レ・アールグレイの後ろで静かに立っていた。


(魔王、か。魔大陸の中でもトップクラスの実力者達がココに集結しているという認識でいいんだろうか……)


 鹿羽は円卓を囲む魔王達を眺めながら、心の中でそう呟いた。


 鹿羽は、魔王達の実力を正確に測ることが出来ないでいた。

 無論、魔力量それ自体は誰が相手であろうと把握出来る自信があったものの、魔力量だけが強さを示す唯一の指標ではないことを鹿羽は知っていた。


(――――ローグデリカみたいな化け物もいる訳だしな……。少なくとも暴虐の魔王アイカはE・イーター・エラエノーラとタイマンを張れるぐらいには強い訳だし。慎重に、そして謙虚に立ち回ろう……)


 とりあえず、鹿羽は注意深く行動することを改めて確認した。


「――――時間、かの。では、出席者の確認でもしようかの」

「じいさん。そんなの必要あるかぁ? 見りゃ分かんだろぉ」


 ムゲンサイの言葉に噛みつくように、一人の小さな男の子がそう吐き捨てた。


 鹿羽はすぐさま、その小さな男の子が、アールグレイが真っ先に要注意人物として名前を挙げた煉獄の魔王であることを悟った。


「……エーマトン。これは大事なことじゃ」

「ち……っ」

「――――すまなかったの。では、改めて始めようかの」


 ムゲンサイは軽く咳払いをすると、再び口を開いた。


「――――濃霧の魔王ムゲンサイ。これは”わし”じゃな。では、煉獄の魔王エーマトンはおるかの?」

「……ち。さっき話したばっかだろぉ。全く意味不明だぜぇ」


 小さな男の子――煉獄の魔王エーマトンは、再び吐き捨てるようにそう言った。


「ふむ。では、騎士の魔王アルヴァトラン・ジェノベーゼはおるかの?」

「騎士の魔王アルヴァトラン・ジェノベーゼ。私はここにいる」


 鎧を身に着け、いかにも”騎士”らしい男は淡々とそう答えた。


「ふむ。では、恐怖の魔王ダイヤモードはおるかの?」

「ああ。ちゃんと私もいるよ」


 髭を生やし、優しそうな顔つきの男は穏やかな口調でそう答えた。


「ふむ。では、深淵の魔王ムゲンダイは……、おるかの?」


 ムゲンサイは一転、何かに期待するようにその名を口にした。

 しかしながら、ムゲンサイのその問いかけに返事をする者はいなかった。


「じいさん。もう何百年も姿を見せねえ奴は除外していいだろうよぉ。何回同じことを繰り返すつもりだぁ?」

「……生きている筈なんじゃが、心苦しいのう。――――深淵の魔王ムゲンダイ、欠席じゃな。では、暴虐の魔王アイカはおるかの?」

「おう! 私はいるぞ!」


 アイカはハツラツとした様子で元気に叫んだ。


「ふむ。では、孤高の魔王フット・マルティアスはおるかの?」

「…………ああ」


 フット・マルティアスは短くそう答えた。


「ふむ。では、見識の魔王テルニア・レ・アールグレイはおるかの?」

「ちゃんと出席しておりますっと。――――俺が来なかったらやべえだろ」


 テルニア・レ・アールグレイは冗談めいた様子でそう言った。


「ふむ。では、冷血の魔王ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアはおるかの?」


 再び、ムゲンサイの問いかけに返事をする者はいなかった。


「――――あの女……。新顔の癖して、二回目からすっぽ抜かすとは良い度胸じゃねえかぁ」

「あやつは二度と来ないと宣言していた。宣言通りという訳だ」

「おい騎士野郎。テメーが推薦した魔王だろうよぉ。舐めてんのかぁ?」

「私は魔大陸の基本方針に従い、然るべき人物を魔王に推薦しただけだ。あやつがどうしようと私には関係ない」

「ち……っ」


 騎士の魔王アルヴァトラン・ジェノベーゼの言葉に、エーマトンは心底苛立った様子で舌打ちをした。


「冷血の魔王ラルオペグガ・ポートシア・フロスティアは欠席のようじゃの。若いのが来ないというのは寂しいことじゃのう」


 ムゲンサイは嘆くようにそう言った。


「はぁ。じいさんの面倒臭い時間は終わりだ。――――おい、テメー。テメーが俺達を呼んだんだからよぉ。その辺、キチンと説明しやがれ」


 エーマトンはテルニア・レ・アールグレイを睨みつけながら、吐き捨てるようにそう言った。


 対するテルニア・レ・アールグレイは怖気づく様子も無く、淡々と応じた。


「はいはいっと。――――今回皆様方をお呼びしたのは事前の通達通り、新たな魔王の推薦だ。――――おい。自己紹介してやれ」


 テルニア・レ・アールグレイにそう言われた鹿羽は静かに前に出ると、淡々と口を開いた。


「俺の名は鹿羽。よろしくお願いする」

「テメー……。女を連れて来るなんて良い度胸じゃねえかぁ?」

「ふわ……?」

「……彼女は大切な仲間だ。不快にさせたなら謝る」

「ほぉ……。謝るってことはぁ、俺より格下であることを認めるってことかぁ!?」


 瞬間、鹿羽はテルニア・レ・アールグレイから言われた言葉を思い出した。

 ”喧嘩は売らず、売られた喧嘩は買え。最低限の威厳を示せば大丈夫だ”、と。


「――――彼女を連れてきたことに関して謝罪しただけだ。それとこれとは話が違う」

「……言うじゃねえかぁ。面白い」


 脅すように声を荒げたエーマトンだったが、動じない鹿羽に対し、感心した様子でそう呟いた。


「エーマトン相手に引き下がらぬとはな……。魔王として相応しい度胸はありそうじゃの」

「カバネはビューンって出来て! 凄いんだぞ!」

「――――では、本当に魔王として相応しいかどうか、決を採ろうかの」


 ムゲンサイは淡々とした様子でそう言った。

 魔大陸会議は、今回の招集の目的である、鹿羽を魔王として認めるかどうかという議題に移ろうとしていた。


(確か出席者の過半数だよな……。つまり、七人中四人が賛成してくれればいいってことか……)


「では順番に聞いていくとしよう。――――濃霧の魔王ムゲンサイ。わしは”反対”じゃ」


 ムゲンサイは穏やかな口調ながらも、ハッキリとそう言った。


「煉獄の魔王エーマトンはどうかの?」

「――――”反対”」

「騎士の魔王アルヴァトラン・ジェノベーゼはどうかの?」

「……”反対”」


(おいおい……)


 魔王として承認される為には、出席している魔王の過半数の賛成を獲得する必要があった。

 しかしながら、既に七人中三人が反対に票を投じている事実に鹿羽は嫌な予感を覚えた。


「恐怖の魔王ダイヤモードはどうかの?」

「そうだね……」


 ダイヤモードは穏やかな表情を浮かべながら、鹿羽を一瞥した。


(魔王として承認されなかったら、どうなるんだ……?)


 鹿羽が逃げることも必要だろうと考え始めた時、恐怖の魔王ダイヤモードは再び口を開いた。


「――――私は”賛成”かな」


 ダイヤモードはハッキリとそう言った。


「では、暴虐の魔王アイカはどうかの?」

「大”賛成”だぞ!」

「孤高の魔王フット・マルティアスはどうかの?」

「…………”賛成”だ」

「見識の魔王テルニア・レ・アールグレイはどうかの?」

「推薦しといて反対するような真似はしねえよ。――――”賛成”だ」


 テルニア・レ・アールグレイはそう言うと、張り詰めた空気の中で楽しそうに拍手をした。


「……反対が三、賛成が四。――――決まりじゃの」


 ムゲンサイはハッキリとそう言った。


 瞬間、鹿羽は心の中で安堵の溜め息をついた。


(心臓に悪い多数決だったな……。アールグレイの奴、ちゃんと根回しはしてたのか……?)


「おい。ダイヤモード。テメーが賛成するなんて珍しいじゃねえかよぉ。どういうつもりだぁ?」

「単なる気まぐれだよ。深い意味は無いさ」

「ち……っ」

「――――では、新たな魔王の誕生を祝って、新たな二つ名を考えなくてはいけないのう。――――して、お主。何か大切にしている言葉は無いのかの?」


 ムゲンサイは鹿羽にそう問いかけた。


「……急に言われても思い付かないな」

「――――信仰の魔王、或いは偏愛の魔王なんてものはどうかな。彼にピッタリだ」

「ダイヤモード……。テメー……」

「どうせなら強そうな名前が良いな! アタシと同じ”ボーキャク”なんてどうだ! ふははは!!」

「おいおい。一応魔術師なんだから、知的な奴が良いだろ。――――ちょうど俺みたいな」

「色々な意見があって決めるのは大変そうじゃの。――――ふむ。孤高の魔王フット・マルティアス。お主からは何かないのかの?」

「…………俺、か?」

「何か言いたげな顔をしていたからの」

「…………そうだな」


 フット・マルティアスは考え込むような素振りを見せると、再び口を開いた。


「――――――――”意志の魔王”、というのはどうだろうか」

「ほう……。”意志”、とな。それはなにゆえに?」

「…………強い“意志”を感じたからな。――――忘れてくれ。本人が決めるといい」


 フット・マルティアスは若干恥ずかしそうに、首を横に振りながらそう言った。


「――――いや、それで頼む。気に入った」

「ふむ。気に入った理由を話してもらっても構わないかの?」

「些細なことだ。話すほどのことじゃない」

「……そうかの」


 ムゲンサイはつまらなさそうにそう言った。


(――――楓と麻理亜。二人を守りたいっていうのが俺の”意志”なんだとしたら、別に間違ってないよな)


 鹿羽の脳裏には二人の少女の姿が浮かんでいた。


 鹿羽はこの世界に来てからも、更に言えばこの世界に来たからこそ、自身が持つその二人の少女を守りたいという気持ちは強くなっていた。


(改めて考えてみると恥ずかしくなってきたな……。あくまで友人として、だ……。うん)


「――――では、意志の魔王カバネ。たった今、お主は魔大陸に君臨する十人目の魔王となった。良いな?」

「ああ」


 そして鹿羽は、魔王になった。


 二


「――――いやー、あの多数決は流石の俺もビビったぜ」

「……魔王になれなかったらどうなるんだ?」

「煉獄の魔王エーマトンに殴られて死ぬだけだ。そっちの方が面白かったかもな」


 テルニア・レ・アールグレイの気楽な言葉に、鹿羽は顔をしかめた。


「はっ! 結果さえ良ければいいんだよ。これでお前も晴れて魔王だ。そうだろ? 意志の魔王さんよ」

「勘弁してくれ……」


 鹿羽は呆れた様子でそう言った。


「――――よぉ。ちょっと面貸せよ新人」


 瞬間、若い男の子の声が響き渡った。


 魔大陸会議を無事に終え、レ・ウェールズ魔王国に戻ろうとしていた鹿羽に対し、煉獄の魔王エーマトンが声をかけていた。


「……何か用か?」

「俺と戦え。俺に勝ったら魔王として認めてやる。どうだぁ?」

「ちょっと待てよ。魔大陸会議で過半数の賛成を得て、こいつは正式に魔王になった。今更認めるとか認めないとか、そういうのは無しだろ」

「あん? 魔王は戦うんもんだろぉ? 違うかぁ?」

「ち……。結局こうなるのかよ……」


 気楽な様子を見せていたテルニア・レ・アールグレイは一転して、苛立った様子でそう吐き捨てた。


「ふわ……。私が、相手します」

「いや、それじゃ意味が無い。――――言い分は分かった。戦おう。どうせこうなる気はしていた」

「へ……。話が分かるじゃねえかぁ」


 エーマトンは高揚とした様子でそう言った。


「――――カバネ。殺すつもりでいけ。間違っても手加減だとか、変なことは考えるなよ」

「本気を出してもいいのか?」

「おいおい……」


 鹿羽の不敵な笑いに、テルニア・レ・アールグレイはそう呟いた。


「――――舐めんじゃねえぞぉ。”新人”」

「冗談だ。手加減なんてしない。――――殺すつもりでいく」


 そう言い終えた時には、鹿羽はもう笑っていなかった。


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