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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
五章
109/200

【109】魔王への誘い②


 一


 場所はレ・ウェールズ魔王国の南東に位置する、ドーレドドンの樹海。

 毒性の強い瘴気が漂い、強力な魔物が闊歩するここドーレドドンの樹海に近づく者は、しばしば蛮勇と称されるグランクランの戦士達の中にも殆ど居なかった。


 そんな、誰も近づかないこの秘境にて、魔王達が集う魔大陸会議は行われることになっていた。


「――――妹は来ないのか?」

「俺が死んだら誰が国を回すんだよ。それに頼んだってあいつは来ないだろうさ。普通に危ないしな」

「本当に大丈夫なんだろうな……」


 鹿羽とE・イーター・エラエノーラ、そしてテルニア・レ・アールグレイの三人は、足場の悪いドーレドドンの樹海を掻き分けながら、魔大陸会議の会場へと歩いて進んでいた。


「――――喧嘩は売らず、売られた喧嘩は買え。最低限の威厳を示せば大丈夫だ」


(そんな不良のルールみたいなこと言われても……)


 正直に言えば、鹿羽は早く帰りたかった。


「――――おっと。いきなり大物みたいだな。まあ、大物しかいないんだが」


 テルニア・レ・アールグレイはそう言うと、一人の男が茂みの中から姿を見せた。


 男は鹿羽達の存在に気が付くと、鋭い視線を鹿羽達に向けながら、静かに立ち止まった。


(……隙が無い。こいつもめちゃくちゃ強いって訳か)


「よう。フット・マルティアス。元気にしてたか?」

「…………ああ」

「相変わらず無口なことで。――――紹介するぜ。魔王候補のカバネだ」

「鹿羽だ。よろしく頼む」

「…………ああ」


 男はただ、短くそう返事をした。


(相当警戒しているな……。俺としては穏便にいきたいんだが……)


「どうだ? コイツは魔王として相応しいと思うか? 孤高の魔王さんよ」

「……決めるのは俺だけじゃない。だが……、悪くないと思う」

「――――だってよ。孤高の魔王にここまで言わせるなんてやるじゃねえか」

「新参者で右も左も分からないが、よろしく頼む」

「…………ああ」


 孤高の魔王と呼ばれた男――フット・マルティアスは、淡々と相槌を打った。


「――――それじゃあ、また後でな」

「…………ああ」

「……? 一緒に行かなくていいのか? 同じ場所だろう?」

「孤高なんて呼ばれてるんだ。どうせ馴れ合いは嫌いだろう?」

「別に馴れ合う必要はないと思うが……、一緒に行くぐらいならいいだろう」

「ほう。随分と積極的だな。――――だそうだ。構わないか?」

「…………ああ」


 フット・マルティアスは、ただそう答えた。


(……一応、話は聞いているんだよな?)


 同じような返事しかしないフット・マルティアスに対し、鹿羽はキチンと話を聞いているのか不安になったが、黙々と後ろから付いて来るフット・マルティアスの様子を見て、それが杞憂であったことを悟った。


「ふわ……? もしかして、お腹、空いているの?」

「…………」

「これ、食べる? 美味しいよ?」

「…………いいのか?」

「うん」

「…………感謝する」


 フット・マルティアスはE・イーター・エラエノーラからお菓子を受け取ると、静かにそれを食べ始めた。


「――――お前の部下……。やるな……」

「そうみたいだな……」


 E・イーター・エラエノーラの意外なコミュニケーション能力に、鹿羽とテルニア・レ・アールグレイは静かに感心した。


 二


 道中で出会った孤高の魔王――フット・マルティアスが加わった形で、鹿羽達は魔大陸会議が行われるという大きな砦に辿り着いていた。


「テルニア・レ・アールグレイ様とフット・マルティアス様ですね。どうぞ」

「はいはい。どーも」

「――――お待ちを。この先は魔王様しか立ち入ることが出来ません。ご理解を」


 テルニア・レ・アールグレイ達と同様に、鹿羽も中に入ろうとしたが、砦の出入り口に立っていた男性に呼び止められてしまっていた。


「俺とE・イーターは入れないみたいだが……」

「あん?――――おい。話は聞いていないのかよ」

「……魔大陸会議の内容に関しましては、私共は何も知りません」

「ち、面倒だな……。――――この二人は見識の魔王テルニア・レ・アールグレイが魔大陸会議に正式に招いた。このことは他の魔王にもキチンと通達されている筈だ。だよな? フット・マルティアス」

「…………ああ」


 フット・マルティアスは淡々とそう返事をした。


「だとよ。それでもなお、入れねえってことか? 俺に喧嘩を売ってるってことでいいのか? おい」

「……とんでもありません。どうぞ」

「たく……。どうせこうなるんだから、面倒臭い”手続き”を踏ませるんじゃねえよ……」


 テルニア・レ・アールグレイは苛立った様子でそう吐き捨てた。


 穏やかとは言い難い悶着があったものの、鹿羽達は無事に砦の中へと足を踏み入れた。


「――――魔王って、あんな感じに振舞わないといけないのか?」

「まあな。それにさっきのは決まり切った”儀式”みたいなもんだ。魔大陸会議には魔王しか出られない。だが、魔王になる為には魔大陸会議で顔を出すしかない。魔王になる奴も、そして魔王として推薦する奴も、ああやって無理矢理魔大陸会議に押し入るのが伝統みたいなもんだ。――――悪いな。気分悪かったか?」

「いや、少し驚いただけだ」

「ならいい。正直言ってこの程度でビビってもらったら、この後死ぬだろうからな……」

「……」


 テルニア・レ・アールグレイの不吉な物言いに、鹿羽は顔をしかめた。


 テルニア・レ・アールグレイを先頭に鹿羽達は広い砦の中を歩いていると、聞き覚えのある声が鹿羽の耳に届いた。


「――――おお! やっぱり来たのか!」

「うげ。始まる前に面倒なのと会っちまったな……」

「ふわ……。久しぶり?」


 暴虐の魔王――アイカは、親しい友人を見つけたかのように駆け寄って来た。


「なあなあ! お前! あの時何したんだ!? 気が付いたらビューンって! 変なところにいたぞ!」

「魔法で飛ばしたんだ。大丈夫だったか?」

「おう! 私は大丈夫だ!――――それで! 私にもビューンって出来るか!?」

「魔力はありそうだし……、頑張れば出来るんじゃないか?」

「おい。カバネ。あんまり下手なこと言うとだな……」

「じゃあ約束だ! 私に絶対教えるんだぞ!?」

「あ、ああ。――――その内な……」


 思わぬ約束を取り付けられた鹿羽は、お茶を濁すようにそう言った。


「その約束、後で高くついても知らねえからな……」

「それで二人は魔王になるのか!? 魔王になるなら私は大賛成だぞ! だって強いからな!」

「魔王になるのは俺だけみたいだ。――――E・イーターもなりたかったか?」

「ふわ……。いい、です。カバネ様と同じは、畏れ多い、です」

「まあ、この場でいきなりなりたいとか言われても困るんだけどな。なりたいならお前が魔王になった時に好きに推薦してやってくれ。俺はこれ以上死ぬ確率を上げたくない」

「俺も死にたくないんだが……」

「強ければ死なないぞ! 良く分かんないけど大丈夫だ! ふははは!!」


 アイカの笑い声は石造りの壁に反射して、よく響いた。


「――――そんじゃ、今の内に注意事項を確認しておくか。死にたくなかったらよく聞いておけよ」

「……」

「良い表情だな。――――先ずはお前達二人だな。用意された席に着いたりとか、あたかも魔王みたいな振る舞いはするなよ? そういう形式的なことにうるさい奴がいるんだ。絶対ぶっ殺せる確信があるならやってもいいが、多分無理だろうからやめておけ」

「まだ魔王じゃないから、ということか?」

「察しが良くて助かる。魔王になったら堂々と座ってやれ。――――次は注意すべき人物の紹介だな。一番分かりやすくて面倒なのは、煉獄の魔王エーマトンって奴だ。見た目は可愛いガキだが、キレやすい上に相当強い。――――一応男だから、手を出そうとか変なことは考えんなよ?」


 テルニア・レ・アールグレイは冗談めいた様子でそう言ったが、対する鹿羽は何とも言えない表情を浮かべていた。


「……続けてくれ」

「せっかく冗談で場を和ませてやろうと思ったのにガン無視か……。――――次は騎士の魔王アルヴァトラン・ジェノベーゼだ」


(騎士の魔王……。アルヴァトラン……)


 聞き覚えのある言葉に、鹿羽は少しだけ頭を捻った。


「もしかしてアルヴァトラン騎士王国の魔王か?」

「その通りだ。こいつは単純に俺の敵だから関わらないでくれ。というか俺の推薦で魔王になるんだから、向こうからいきなり攻撃してきてもおかしくはない。気を付けろ」

「まあ、それは仕方のないことか……。――――それで次は誰だ? そもそも魔王は何人いるんだ?」


 この場だけでも、見識の魔王テルニア・レ・アールグレイ、暴虐の魔王アイカ、孤高の魔王フット・マルティアスという三人もの魔王が姿を見せていた。

 更には、要注意人物として、テルニア・レ・アールグレイの口からは、煉獄の魔王エーマトン、騎士の魔王アルヴァトラン・ジェノベーゼの計二人の名前が挙がっていた。

 鹿羽からすれば魔王というものは唯一無二というイメージであったが、魔王の数は既に五人にのぼっていた。


「俺含め、魔王は全員で九人だった筈だ。あと一応気を付けて欲しいのは恐怖の魔王ダイヤモードだな。見た目は優しそうなおっさんだが、情報が全く無い。噂では吸血鬼らしいんだが、それすらも本当かどうかは分からん。とにかく得体が知れないから関わらない方が良いっていう、俺からの親切な忠告だ。関わるんなら俺の知らないところでやって、分かったことを後で教えてくれ」

「……はあ。分かった」

「あと、最後に注意して欲しいのは……」


 そしてテルニア・レ・アールグレイは、静かにアイカへと視線を投げ掛けた。


「アタシに何か用か!?」

「――――まあ、一応気を付けておけ。見た目通りの奴だ」

「……ああ」


 アイカは何が何だか分からないといった様子で、大袈裟に首を横に傾けていた。


「まあ、こんなもんだ。後は常識を持って動いてもら――――おっと」


 テルニア・レ・アールグレイが何かに気付くと、その口を止めた。


 すると、一つの足音がゆっくりと鹿羽達の方へ近付いてきていた。


「――――ふほほほ。最近の若いのは時間よりも早く来て、しっかりしとるの」


 老人のものと思われる声が、砦の中で響き渡った。


「お主が新しい魔王候補かの?」

「あ、ああ」

「――――わしは濃霧の魔王ムゲンサイ。魔大陸会議を取り仕切っている、無力な老人じゃよ」


 強大な魔力を感じさせながら、老人――濃霧の魔王ムゲンサイは穏やかな口調でそう言った。


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