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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
五章
107/200

【107】暴虐との邂逅


 一


「おう! アタシだって負けないぞ! だってアタシは魔王だからな! ふん!」

「ふわ……? 魔王……?」


 E・イーター・エラエノーラは首をかしげながら、そう呟いた。


「――――それじゃあ戦うぞ! 勝っても負けても恨みっこ無しだからな!」

「ふわ――――」


 瞬間、暴虐の魔王――アイカは風を纏いながら、高速で飛び出した。


「うおおおおおおお!!!!」


 そのままアイカの拳は、E・イーター・エラエノーラの槍と激突し、火花が飛び散った。


「やるな! お前ももしかして魔王なのか!?」

「多分、違う」

「そうか!」


 E・イーター・エラエノーラは間髪置かずに槍を振るい、アイカを引き裂こうとした。

 しかしながら、アイカは巧みに身体をくねらせて回避すると、僅かな隙間を抜けてE・イーター・エラエノーラに蹴りを繰り出した。


「う――――」

「ふははは!! どうだ!!」

「痛かった。けど、大丈夫」


 E・イーター・エラエノーラはそう言うと、近くに居た数人の戦士達の首をはねた。

 そして鮮血と共に飛び散った”何か”を掴み上げると、そのまま口に放り込み、咀嚼して飲み込んだ。


 そしてE・イーター・エラエノーラは何も無かったかのように立ち上がった。


「……? よく分かんないけど凄いな!」

「私は、生命力を食べる。だから、敵は多ければ多いほど、いい」

「凄いな! どうやってやるんだ!?」

「ふわ……。多分、私にしか出来ない」

「凄いな!」


 アイカは興奮した様子でそう言った。


「――――今度はこっちの番。私だって、負けない」


 E・イーター・エラエノーラはそう言うと、その手に握り締めた槍を構えた。


「……? 来ないのか?」

「今、行く。――――天槍」


 瞬間、轟音と共に、E・イーター・エラエノーラの槍がアイカを目掛けて放たれた。


 放たれた槍は大地をえぐりながら、まるで銃弾のように一直線に飛んでいった。

 そして次の瞬間には、アイカの髪が僅かに飛び散っていた。


 アイカは僅かに身体を傾ける形で、E・イーター・エラエノーラの槍を回避していた。


「――――危なかったぞ。凄いな、お前」

「貴女こそ、凄い。私の必殺技、当たらなかった」

「いや、当たったぞ。髪にな」

「……そう、だね」


 E・イーター・エラエノーラは微妙な表情を浮かべながら、そう言った。


 二


 場所は魔大陸。

 レ・ウェールズ魔王国とアルヴァトラン騎士王国の境界線近くにて。


 鹿羽とテルニア・レ・ストロベリの二人は、E・イーター・エラエノーラとアイカの激戦を遠くから眺めていた。


「――――貴様の部下……、E・イーター・エラエノーラと言ったか? あの暴虐の魔王相手に、よく戦えるな……」

「見直してくれたか?」

「そうだな……。少しばかり貴様らを見くびっていたかもしれない。――――暴虐の魔王を殺せそうか?」


 テルニア・レ・ストロベリは僅かな期待感を滲ませながら、鹿羽にそう尋ねた。


 しかしながら、鹿羽の表情は若干複雑なものへと変化した。


「……いや、どうだろうな。”そもそも”殺せるのか?」

「はっ! どうだろうな」


 鹿羽の返答に、テルニア・レ・ストロベリは心底納得した様子でそう呟いた。


 三


 E・イーター・エラエノーラは槍を振り回し、アイカを近付かせないように試みていた。

 しかしながら、アイカは身体全体を駆使し、避け、受け止め、そして攻撃を逸らしていった。


 アイカの戦い方は一切の規則性を感じさせない、野性的な我流の格闘術だった。

 我流の戦い方など、通常であれば研ぎ澄まされたE・イーター・エラエノーラの槍術を前に、為す術も無くやられる筈だった。

 しかしながら、アイカの持つ優れた直感と圧倒的な身体能力が我流での戦いを可能にさせ、更に言えば我流を超越した”戦法”として成立させていた。


 そしてE・イーター・エラエノーラは、予測の難しいアイカの攻撃をさばき切れないでいた。


「う――――」

「ふははは!! アタシの方が強いみたいだな!!」

「……負けない。――――<召喚:禁じられた巨人/サモンズ・アウルゲルミル>」


 瞬間、E・イーター・エラエノーラの足元の地面にヒビが入った。

 そのまま大地はひび割れながら大きく隆起すると、耐え切れなくなったように巨大な何かが姿を見せた。


「うおおおおお!!??」


 その巨大な何かに押し上げられ、気が付けばアイカは遥か高い場所にいた。

 そして地面を押し上げた”何か”は大きく身体を震わせると、その身にこびり付いた土や岩をアイカごと振り落とした。


 その正体は、信じられないほどの大きさの巨人だった。


 その名は、”禁じられた巨人/アウルゲルミル”。

 劣勢から脱する為にE・イーター・エラエノーラが召喚した、圧倒的な体力と防御力を持つ大巨人だった。


(”禁じられた巨人/アウルゲルミル”……。いつかは誰も居ないところで召喚してやろうと思っていたが、想像の三倍は大きいな……。不用意に召喚しなくて良かった……)


 E・イーター・エラエノーラが咄嗟に召喚した”禁じられた巨人/アウルゲルミル”を目にした鹿羽は、心の中でそう呟いた。


「――――凄いな! お前!」

「ふわ……。凄い、でしょ」

「こんなに大きいの初めてだぞ! 絶対倒してやるからな!」

「ふふ。負けない」


 ”禁じられた巨人/アウルゲルミル”の肩に乗っていたE・イーター・エラエノーラは静かに笑みを浮かべながら、そう言った。


「――――よし!! これならどうだ!!」


 瞬間、アイカの一撃が、”禁じられた巨人/アウルゲルミル”の巨大な身体を大きく揺るがした。


「……ふわ?」

「ふははははははは!!」


 アイカは嬉々とした様子で、ひたすら”禁じられた巨人/アウルゲルミル”を殴り続けた。


 ”禁じられた巨人/アウルゲルミル”は焦った様子でアイカを掴み上げようと手を伸ばしたが、自身の身体より遥かに小さく、そして俊敏なアイカを捕まえることは遂に出来なかった。


「――――すっごい丈夫だな! これならどうだ!」


 そしてアイカの一際大きな攻撃を最後に、”禁じられた巨人/アウルゲルミル”は大きくバランスを崩すと、下に居た戦士達を巻き込みながら倒れ、そのまま消失した。


 大地を揺るがすほどの大巨人は、暴虐の魔王の手によって数分足らずで葬り去られてしまった。


「――――強い、ね」

「ああ! なんたって”ボーキャク”の魔王だからな! 次はお前を倒すぞ!」

「ふわ……? ”ボーキャク”? よく分かんないけど、カバネ様の前だから、勝たなきゃ」


 E・イーター・エラエノーラが真剣な表情で槍を構えた瞬間。


「――――待て。この先は俺が相手だ」


 E・イーター・エラエノーラとアイカの間に割って入るように、鹿羽が姿を見せた。


「……? 誰だお前!」

「ふわ……。か、カバネ様……?」

「E・イーター。任せっきりにして悪かったな。このアイカって奴がどんな奴なのか、話を聞いていたんだ」

「え、えっと。カバネ様は、悪く、ないです」

「……そうか」


 鹿羽は苦笑しながら、そう言った。


「アタシはこいつと戦ってたんだぞ! 邪魔するならお前からやっつけるぞ!」

「それは困るな」

「じゃあどっか行け!」

「それも困る。――――どっか行くのはお前の方だ」

「……?」


 鹿羽はそう言うと、右手をアイカの方へと突き出した。


「まあ、食らっとけ。――――<強制転移/ワープフォース>」

「――――っ!」


 そして次の瞬間には、光り輝く魔法陣がアイカの身体を包み込んで、そのまま消失させてしまった。


「ふわ……。消えちゃった」

「……遠くに飛ばしただけだ。倒すのは少し大変だったようだからな」

「す、すみません。カバネ様……」

「ああ。そういう意味じゃない。E・イーターが駄目なんじゃなくて、アイツが少し規格外だっただけだ。――――こんな所で本気を出す訳にもいかないからな」


 鹿羽は淡々とした様子でそう言った。

 すると、テルニア・レ・ストロベリが慌てた様子で鹿羽達の元にやって来た。


「――――本当に暴虐の魔王をアルヴァトラン騎士王国に転移させたのか? 間違えてレ・ウェールズ魔王国に飛ばしていないだろうな?」

「きっちり教えてもらった方角に飛ばしたよ。これで上手いこと暴れてもらって、戦況が少しでも良くなるといいな」

「……そう、だな」


 鹿羽の気楽な口調に、テルニア・レ・ストロベリは若干腑に落ちない様子でそう答えた。


 四


 場所はレ・ウェールズ魔王国領内。

 アルヴァトラン騎士王国との境界線近くに設置された砦にて。


 鹿羽とE・イーター・エラエノーラが身体を休める中、テルニア・レ・ストロベリは、レ・ウェールズ魔王国のトップであり、実兄でもあるテルニア・レ・アールグレイと連絡を取っていた。


『――――おっす。生きてたか。傭兵の調子はどうだ? 無事死んだか?』

「思わぬ掘り出し物だ。暴虐の魔王を転移魔法でアルヴァトラン騎士王国に飛ばしたらしい」

『……ほう。あの鉄仮面の苛立つ顔が目に浮かぶな』

「上手く使えば、戦線を上げることが出来るかもしれない。兄者、あの二人をこのまま引き抜いてしまえ」


 テルニア・レ・ストロベリは少し興奮した様子でそう言った。

 しかしながら、テルニア・レ・アールグレイの返答は、テルニア・レ・ストロベリの様子とは対照的なものだった。


『落ち着け我が妹よ。冷静に考えろ。そんなに役立つ人材を国がホイホイ引き渡すと思うか?』

「引き渡さなくても、無理やり奪えばいいだろう」

『はあ……。ストロベリ。いいか? わざわざ海を越えてやって来たってことは、統一国家ユーエスがその二人を最悪手放してもいいほど余裕があるか、逆に手が付けられないほどあの二人が強いかの二択ぐらいだ。前者であれば下手な喧嘩を売ることになるし、後者は危険が大き過ぎる。不用意に味方に付けて良いことは無い。距離を取りつつ、友好的にやるのが一番だ』

「……魔王とは思えないほど、慎重で臆病だな」

『抜かせ。これで生き残ってきたんだよ。”見識の魔王”の名は伊達じゃねえ』

「はっ!――――分かった。兄者の意見に従おう。だが忘れるな。危険を冒さねば、何も手に入らない」

『――――おっしゃる通りで』


 通信越しに聞こえるテルニア・レ・アールグレイの口調は、どこか気楽なものだった。


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