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ハイゲーマー・ブラックソウル  作者: 火野ねこ
五章
105/200

【105】信仰の魔女


 一


 場所はギルド拠点内部、

 麻理亜の自室にて。


「――――また鹿羽殿は勝手に居なくなったのであるか!?」


 椅子に腰掛けながら書類に目を通す麻理亜を前に、不満そうな表情を浮かべる楓と、どうでも良いといった様子で腕を組んでいるローグデリカの二人の姿があった。


「私は知ってた訳だから、別に勝手って訳じゃないけどー、鹿羽君がどーしてもお仕事したーいって言うから、紹介してあげたわね」

「鹿羽殿ばっかりお出かけしてズルいであるぞ! そもそも我と鹿羽殿なら我の方が強いのだから! 我が付いて行った方が良かった筈である!」

「……それ言うと鹿羽君傷付いちゃうから、言っちゃ駄目だよー?」


 麻理亜はクスクスと笑いながらそう言った。


「――――はあ。やりたいことなら、後で好きなだけやれば良いだけの話だろう。先ずは統一国家ユーエスの国力を確かなものにすることが最優先事項だと確認した筈だ。違うか?」

「ぐぬぬ……。自分に正論を言われる日が来るとは思わなかったぞ……」

「ならしっかりやれ」

「少しは自分に優しくすべきであろう!?」


 楓は、自身の生き写しとも言えるローグデリカに対して、抗議するようにそう言った。


「まあまあ。――――でも楓ちゃんとローグデリカちゃんって、あんまり任せられる仕事が多い訳じゃないのよねー」

「戦いなら大得意である!」

「……その戦いがあんまりないのよねー。情報漏洩とか気にしちゃうとー、迂闊に外には出したくないしー」

「戦争にでもならない限り、私達の出番は無さそうだな。――――そういえば、鹿羽に付き纏っていたあの魔術師は何処だ。今回は一緒に居る訳ではないのだろう?」

「あー、リフルデリカちゃんのことね。リフルデリカちゃんには別のお仕事任せてまーす」

「……意外だな。ああいう類いの人間は他人の言うことなど聞かないものだと思っていたが……」

「言うこと聞かない子を言うこと聞かせるのが麻理亜ちゃんのお仕事なのです。――――まー、大事なお仕事って訳じゃないからー、ちゃんとやってくれたらラッキーぐらいなんだけれどね」

「はっ! 相変わらず良い性格をしている」


 ローグデリカは吐き捨てるようにそう言った。


「我だって仕事ぐらい出来るぞ! 他に仕事は無いのであるか!?」

「楓ちゃんはギルドの最終秘密兵器だからー、そのうちね?」

「むー!」


 二


 場所は統一国家ユーエス領内。

 ドラドラ山脈近くの洞窟にて。


 洞窟の中は、叫び声や足音などによって非常に騒がしくなっていた。


(――――僕はあくまで彼に協力しているのであって、彼女に協力しているつもりは全く無いんだけどなあ……)


 しかしながら、いつの間にか一人分の足音を除いて、洞窟の中は静かになっていた。


 足音の正体は、リフルデリカだった。


 そしてリフルデリカの周りには、的確に急所を斬られた、或いは貫かれた死体で埋め尽くされていた。


 リフルデリカに与えられた任務は、統一国家ユーエスに不利益をもたらす可能性が指摘されている反政府勢力の殲滅だった。

 リフルデリカは不服そうな態度を取りつつも、その任務を完璧に遂行していた。


「――――<暗号伝令/ヒドゥンメッセージ>――ああ。シャーロットクララ氏。この仕事も無事に終わったよ。人数の漏れも無い」

『――――お疲れ様です。では、次の任務の内容をご説明致します』

「そろそろ帰ってもいいかい?」

『ご協力頂けると幸いです』

「……はあ。分かったよ。今度は何をすればいいんだい?」


 つまらなそうな様子で通信を続けるリフルデリカの足元は、血に塗れていた。


 三


 場所は統一国家ユーエス領内。

 誰も近付かない森林の深部にて。


「――――これ以上近付くな。村は向こうだぞ」

「向こうに村があるんだね。知らなかったよ。ここに来たのは初めてだからさ」


 何かを見張るように突っ立っていた男に対し、リフルデリカは気楽な様子でそう告げた。


 そして男は何かに気付いた様子で表情を歪めると、腰に差した剣を静かに引き抜いた。


「てめえ……。誰からの依頼だ。生きて帰れると思うなよ」

「統一国家ユーエスからの非公式の依頼ってことになるのかな? 僕としてはこの依頼がどうなろうと知ったことではないのだけれど、友人に頼まれてしまったからね。たとえ依頼主のことが嫌いでも、無下には出来ないのさ」

「統一国家ユーエスだと?――――ちっ。何処から情報が漏れてんだよ……っ」

「既に監視体制が出来上がっていると見て良いと思うよ。この国は些細な犯罪には寛容だけれど、政治体制を揺るがすものには一切の容赦が無い。――――つまり、君達は脅威として判断された訳さ。それが何を意味するかは、君達にとって残酷なことかもしれないけれどね」

「言うじゃねえか。俺達が何者か分かった上での任務なんだろ? ならてめえ一人で来るなんざ、無謀もいいところじゃねえか」


 リフルデリカは自分が既に囲まれていることに気が付いていた。

 しかしながら、その表情は未だに気楽なものだった。


「良い仲間達だね。練度も中々のものだ。僕も君達みたいな仲間がいれば、もう少し楽を出来たのかもしれないね」

「誉め言葉として受け取っておく。――――じゃあ、死ね」

「死なないさ。――――<軛すなわち剣/ヨーク>」


 リフルデリカは詠唱を完了させると、その手には光の剣が握られていた。


 そしてその瞬間、男の首は宙を舞い、そのまま地面に落下した。


 リフルデリカが距離を詰め、その手に握り締めた光の剣で男の首を斬り落としたことに反応出来た者はこの場には居なかった。


「――――はあ。幸せになりたいという願いはみんな一緒なのに、どうして殺し合わなければならないんだろうね……。この場合は一方的な虐殺なのかもしれないけれど……」


 リフルデリカは嘆くようにそう言った。


 そして。


「――――っ!」


 誰かの叫びと共に、リフルデリカに攻撃が殺到した。


 四


「――――君が最後かな? 隠れるなら、もっとしっかり隠れないと」

「全て、殺したのか……。英雄の領域を遥かに超えた逸脱者とは……。若い頃を思い出すわい……」

「ふむ。存外気にしていない様子だね。こういうことには慣れたものなのかい?」


 場所は統一国家ユーエス領内。

 誰も近付かない森林の深部にて。


 目を固く閉ざし、瞑想している老人に対して、リフルデリカはそう質問を投げ掛けた。


「ああ……。もはや数え切れぬ年月を生きた……。友も、家族も、自分よりもずっと後に生まれた赤ん坊も、数え切れぬほど見送ってきた……。人の死というものに慣れることはないが……、人の運命というものは知っておるつもりだ……」

「興味深いね。僕も年齢でいえば相当なものだけれど、長い間眠っていたからね。もし君から話を聞く機会があれば、僕は失われた歴史を知ることが出来るのかもしれない」


 リフルデリカは顎に手を当てながら、考え込むようにそう言った。


「――――名を……、名を申せ……。死合う者同士……、互いのものを背負う義務がある……」

「面白い考えだ。まあ、君が僕の人生を背負って生きていくことはありえない話だろうから、名前くらい教えてあげても構わないよ。――――僕の名はリフルデリカ。リフルデリカって言うんだ」


 瞬間、老人の表情が歪んだ。


「――――もう一度申せ……。念の為だ……」

「ああ。耳があまり良くないんだね。リフルデリカ、だよ。少し珍しい名前かもしれないね」

「り、リフルデリカ……?」

「おっと。僕のことを知っている人だったのかな? 僕は君のことを知らないんだけれど」


 老人の表情の急激な変化に、リフルデリカは気楽な様子でそう言った。


「い、いつ……、いつ復活された……? ほ、本当にリフルデリカだというのか……?」

「僕がリフルデリカであることは疑いようのないことだとは思うけれど、信じるか信じないかは君次第だね。それに、僕が君の知っているリフルデリカである保証も無い」


 そして、固く閉じられていた老人の目はこれでもかというほどに開かれ、老人は躊躇いなく腰に差した剣を引き抜いた。


「し、信仰の魔女……っ! 己が目的の為に……っ! 民に非業の死をもたらした災厄の一人……っ!」


 吐き捨てるようにそう言った老人の眼には、驚きと憎しみが渦巻いていた。


「――――選んだのは民の方さ。僕が心の底から殺したいと願った人間は、この世界にたった一人しかいない。確かに僕は数え切れないほどの民を殺したけれど、そうさせたのはもう一人の魔女だ。僕は仕方なく火の粉を払ったに過ぎない」

「なお己の過ちを認めぬか……っ! 我々を殺すのも……っ! 我々が厭世の魔女の手先だとでもいうつもりか……っ!?」

「……そうだね。悪かったよ。確かに今回は関係の無い話だった。最終的な目的は未だ変わっていないとはいえ、利己的な理由で必ずしも必要とはいえない犠牲を君達に強いてしまった。謝罪するよ」


 リフルデリカの言葉は淡々としていた。


「そうして……、また……、殺すのか……」

「僕は勝たなければならない。民の犠牲を本当に憂いているからこそ、その非業の死に報いる為に僕は戦い続けるんだ。――――彼女さえ殺せば、この悲劇も終わる」


 リフルデリカは一歩、老人の方へと踏み出した。


「――――――――これ以上我々を巻き込むな」

「そうだね。君が最後の犠牲となることを心から祈っているよ」


 何度目か分からない、鮮血が舞った。


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