指輪
サラッとお読みください
小さな指輪が月明かりに照らされて光っている。私は伯爵家のディーヴィド様の妻だ。だが、ディーヴィド様の周りにはいつも多くの女性達がいる。婚約する前から色狂いと噂されて、結婚してもディーヴィド様の色狂いは変わらなかった。この先の結婚生活を送っていても幸せなど無い。
ならば愛しく憎い貴方に、私も同じことをしてあげましょう。
赤い髪を下ろして、指輪を指から抜いて鏡の中の中を見ると、私はニィと嗤っていた。
そして、老若男女問わず私はディーヴィド様よりも色狂いと呼ばれるまで手を出し続けた。
お気に入りは顔が火傷で引き攣れ醜い男、ペドロだ。私はペドロを嫌悪することなく愛する。騎士だったこともあり、体つきも良い。
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「ルイーザ、いい加減にしろ。お前が手当たり次第に遊び呆けてるせいで伯爵家の評判は最低だ」
私はその言葉にクスクスと嗤い、赤い紅を塗った唇を舐める。
「貴方がそれを言って?私、知ってますのよ?可愛い可愛い小鳥ちゃんを別邸で囲っているのを」
「私はメルベルただ一人を愛している!!お前と違って不特定多数と関係を持ったりしていない!!」
また私は可笑しくなりケラケラと嗤う。気怠に赤い髪をかき上げ、近くにいたペドロを呼び口付ける。
「あら?小鳥ちゃんと会うまでは、貴方も不特定多数の女性と関係を持ってましたでしょう?私も貴方と同じ事をしているだけですわ。それに、伯爵夫人としての仕事だけじゃなく、貴方の仕事も私がしているのに、そんな強気でいられて?」
「……っ!!もう離縁だ!!後妻にはお前と違って愛らしいメルベルを据える!!」
「ですって、ペドロ。貴方はどうしたい?」
「……ルイーザ様が良ければ、私と生涯共に生きてくれませんか?」
「それも良いかもしれないわ」
クスクスと嗤いながら、背の高いペドロの首に手を回し抱きつく。夫のディーヴィド様は怒り狂い、飾ってあった剣で私達に斬りかかろうとしたが、ペドロは私を素早く離して、回し蹴りでディーヴィド様の頭を蹴り上げ、壁に激突させていた。私はゆったりとディーヴィド様が持っていた剣を両手で持ち上げ、床に倒れているディーヴィド様に近づく。
「な……何のつもりだ!?」
「あら、動かないでくださいまし?私、力が無いもので間違ってしまいますわ」
コテンッと首を傾げて私は剣を両手で持ち上げ、ディーヴィド様の股間に向けて剣を突き刺す。
「うあああ、ああ、ああ!!」
残念な事に私は床を刺してしまったみたいだ。だがディーヴィド様は錯乱し、尿を漏らしてしまっていた。私はそれを鼻で嗤い、ペドロの腕へと戻る。そして私達は伯爵家を後にし、王家の紋章が入った馬車へと乗る。
「ペドロ様……いえ、ベルトルト王弟殿下。これ迄の非礼、申し訳ありませんでした。私への罰は喜んでお受けします」
ペドロという名は偽名。ベルトルト王弟殿下は戦場で負った火傷で何時も仮面を被っていたから、ディーヴィド様もベルトルト様の正体が分からないのも当然だ。
実は、ベルトルト様は私の変わりようを舞踏会でひっそりと聞き出し、私に協力すると言い出したのだ。私はその甘い誘惑に耐えられなかった。
ベルトルト様は仮面を外して、醜い男娼と蔑まれながら私の従者として侍っていた。本当はこんな事を言われて良い人物では無い。国を民を守る為に負った火傷は、私にはとても愛しく見えていたから。そんな人を顎で使った私はどんな罰でも受けよう。
「ルイーザ、言っただろう。私と生涯共に生きてくれと」
「ですが、私は……」
「この顔を嫌悪する事も、憐れみの眼差しで見る事もなく、愛しそうに見たのは其方だけだ。ルイーザ、罰して欲しいというのなら私の妻となり国を支えてくれないか?」
「……っはい」
自然と涙が零れ落ちる。それをベルトルト様は優しく拭い、私のペンダントを外す。ペンダントにはディーヴィド様との婚姻指輪が淡く光っていた。
「これは、どうする?私自ら処分しても良いが」
「いえ……私自ら処分します」
私は馬車の窓を開け、王城に向かう途中の橋で川に向かって指輪を投げた。小さくぽちゃんと音をたて指輪は私の手元から離れた。さよなら、ディーヴィド様。
「……ベルトルト様。私は今どんな顔をしていますか?」
「其方の本来の顔……穏やかな顔をしているぞ」
「……そうですか」
私は愛しい人に心からの微笑みを向けると、優しい口付けが落ちてきた。そしてベルトルト様は私の左の薬指に王家の紋章が入った指輪をはめる。
私がもう指輪を外す事は二度と無いだろう。
ありがとうございました!