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卒業パーティで婚約破棄

【コミカライズ】卒業パーティで婚約破棄は止めましょう~親衛隊が現れた

作者: 岡島 光穂


「イライザ・パーシモン! 貴様はこのジュディに対し、卑劣な虐めを繰り返し、果てには身体的に危害を加えようとする、許しがたい暴挙を犯した! 貴様は私の婚約者に相応しくない! 婚約は破棄とし、貴族籍剥奪の上、国外追放とする! そして、ジュディ・ビスクを私の新しい婚約者とする!」


 サングロー王国の貴族の子女が通う学園の卒業パーティの最中、第三王子のエドモンドが大声で、婚約者のイライザを断罪した。

 突然名指しされ、男爵家のジュディを虐めたと断罪されたイライザは、あまりの事に思考が停止した。


「反論できまい! 貴様の様な性根の腐った者を、私の婚約者にしていたなど、人生最大の汚点だ」


 言われた意味不明の内容をどうにか噛み砕き、口を開こうとしたイライザの前に、三つの影が現れた。


「異議あり!」

「イライザ様は虐めなんてしない!」

「誹謗中傷は許しません!」


 イライザを庇う様に前に立つ三名の背中を、茫然と眺めるイライザ。

 そこに二人の女性がイライザの左右に立つ。


「大丈夫ですか? イライザ様」

「…冤罪は許しません」


 イライザの友人、西の辺境伯令嬢ケリーと伯爵令嬢のコリンナだ。


「あの…彼らは…?」

「彼らは、イライザ様親衛隊幹部、伯爵家のカラム様、子爵家のキアラン様、男爵家のクレイグ様です」

「し、親衛隊…? 幹部…?」


 名前はいいが、聞き慣れない単語がどんどん飛び出してくる。親衛隊? 幹部? どういう事? 殿下に言われた台詞よりも、さらにイライザの頭は疑問符でいっぱいになる。理解が追いつきません。


「彼らは本来、表に出る事を良しとしない陰の者。陰からイライザ様を見守り、イライザ様の幸せを願い喜ぶ者達ですが、今回の殿下の所業は無視できません」

「は…はぁ…」


 説明された内容についていけないイライザは、中途半端な返事しか返せない。


「エドモンド殿下! 先程のイライザ様への言葉は見過ごせません!」

「イライザ様は賢く! 気高く! 美しく! 身分の上下なく接して下さる慈愛に満ちたお方! 虐めなどありえません!」

「イライザ様に汚名を着せる事は、殿下と言えど許せません!」


「何だお前達は! 私の話に割り込むなど不敬だ!」


「不敬は覚悟の上です!」

「イライザ様の名誉を守る為なら!」

「平民に落とされてもかまわない!」


 いや、構うでしょう。まずいでしょう? と心の中で思うものの、あっけに取られているイライザの口から発せられる事は無かった。


「名誉を守るだと? 虐めをする様な女のどこに名誉があると言うんだ!」


「イライザ様がそのジュディ嬢に虐めをしていた事実はございません!」

「身体的危害など以ての外!」

「ジュディ嬢が編入して来た一年前からのイライザ様の行動をご説明します!」


 私の行動?! 何故彼らが説明出来ると言うのだ???

 理解不能の連続で、イライザの頭はショート寸前だ。


「はぁ? ジュディが虐められていたんだ、違うと言うなら説明して貰おうか。どうせ下らないんだろうがな」


「まず、イライザ様とジュディ嬢の接触について!」

「イライザ様の脇で転んだ事、六回! イライザ様の側で紅茶等を衣類にかけた事三回! イライザ様に一方的に話しかけ、泣き出した事三回! イライザ様の姿を確認した直ぐ後に突然泣いて逃げた事三回!」

「イライザ様と直接会話したのは、その中で四回のみです!」


 ええ?! 自分でもそんなに詳しく覚えていないのに、何故ハッキリ言い切れるのか。三人が持っている黒い手帳の厚さも、ちょっと怖い。

 イライザはほんの少し引いていた。


 エドモンドは、その内容を鼻で笑う。


「それの何処が、虐めをしていない証拠になるのだ?」


「まず、イライザ様の脇で転んだ六件について!」

「イライザ様の後ろから走ってきて、態とぶつかり転んだ事二回! 曲がり角や教室から勢いよく飛び出してきたジュディ嬢がイライザ様にぶつかり、二人共転んだ事二回! イライザ様の脇の何もない所で勝手に転んだ事二回!」

「しかも、自分からぶつかった件も含めて、ジュディ嬢は一切の謝罪も無く、大丈夫かと手を差し伸べられたイライザ様に対し、『ヒドイ』や『足をかけるなんて』等とわめき散らし泣きながら去っていきました!」


「……は?」

「え?」


 更に詳しい内容を出してきた三人に、イライザは何かを諦めた。エドモンドとジュディの間の抜けた声に少しホッとする。


「次に衣類に紅茶等をかけた三件について!」

「マナーの授業中、紅茶を持ったままうろついていたジュディ嬢がイライザ様の近くで躓き、自分で制服にかけた事二回! 学園の夏の舞踏会でワインのグラスを持ったままイライザ様の進路妨害をし、自分のみならず、イライザ様の手袋も汚した事一回!」

「こちらも、ハンカチを差し出そうとするイライザ様を無視し、『どうしてこんな事するんですか』『せっかくのドレスが…』などと言いながら涙を流し、謝罪もせず逃げ去りました!」


「………」

「ち…ちが…」


 ああ、そんな事もあったな、とイライザは自分の記憶との摺合せを始める。

 エドモンドは無言になり、ジュディは少し焦り始めた。


「一方的に話しかけ、泣き出した三件について!」

「イライザ様のクラスに突然現れ、どうして自分に意地悪をするのかと泣き出した事一回! 廊下で待ち伏せし、平民上がりだからと見下して虐めるのはやめて下さい、と泣き出した事一回! サロンでイライザ様がお茶をしている所に勝手に乱入し、殿下の事を愛していないなら婚約は解消すべきだと、泣き出した事一回!」

「全て勝手に現れ、言いたい事だけ言い放った後、イライザ様の返答も聞かず泣きながら走り去りました!」


「………」

「ちが…うそ…」


 あれは本当に意味不明でした…とイライザが遠い目をする。

 エドモンドは眉を寄せ、ジュディにちらりと視線を送ると、ジュディは蒼白な顔を横に振り、否定を示す。


「イライザ様の姿を確認した直ぐ後に、突然泣いて逃げた三件について!」

「イライザ様の事を待ち伏せした様なタイミングで、顔を合わせた瞬間に涙を流し、逃げ去る事三回!」

「こちらも勝手に現れ、イライザ様が姿を認識したと同時に泣いて走り去りました!」


「………」

「違います! 私はイライザ様に!!」


 うんうん、あれは困惑しました。自分の顔を見た瞬間に泣き出すとか、何があったのか、それとも自分の顔が怖いのか。各々小一時間思い悩みましたね…と、イライザは小さく溜息を吐く。

 エドモンドの疑惑の目に耐え切れず、ジュディは大きな声で反論をしようとするが、三人はそれを遮り、被せるように会場内に向け大声を出す。


「私達が発言した内容について、異論のある方は居ますか?」

「イライザ様が虐めをしていた現場を目撃された方はいらっしゃいますか?」

「居るのであれば、挙手をお願いします!」


 しーん。 会場は静まり返り、手を挙げる気配すら無い。


「では! 私達が発言した内容に覚えがある、見た事があるという方はいらっしゃいますか?」

「ジュディ嬢の一人芝居を見た方はいらっしゃいますか?」

「居るのであれば、拍手でお応え下さい!」


 パチパチパチパチ……。殆どの方が拍手で応え、三人が満足そうに頷く。

 肯定の拍手が、自分の無実を認めてくれているように感じ、イライザの心は温かくなる。

 納得のいかない表情のエドモンドと、蒼白になっているジュディ。

 ジュディの顔を見れば、狂言なのは間違い無いだろう。


「何故貴様らは、そんなに詳しく知っている? おかしいではないか!」


 不機嫌を隠そうともせず、声を荒げるエドモンド。

 三人はエドモンドに向き直り、説明を再開する。


「我らはイライザ様が、健やかに日々を送れる事が最上の喜び」

「そんなイライザ様に三度、意味不明に絡んできた時点で、ジュディ嬢は危険人物となりました」

「イライザ様の日々のチェックに併せ、ジュディ嬢の行動も観察しました」


「ジュディの……行動観察…?」

「……え…?」


 日々のチェックって何だ? 行動観察って何だ? とイライザは首を傾げる。やはり、三人の持つお揃いの分厚い黒い手帳の中身を思うと恐ろしい。


「その中で、エドモンド殿下の不義・不貞も確認できました」

「イライザ様という素晴らしい婚約者がいらっしゃるのに情けない!」

「そんな方をイライザ様の婚約者と認める訳には参りません!」


「「「殿下の不貞の証拠と共に、イライザ様との婚約解消を求める署名を王宮へ提出しました! 今回の事に関しても追加で抗議いたします!」」」


「は?」

「え?」


 婚約者同士の自分達が知らない所で、何かが進んでいたらしい。

 エドモンドとイライザの目が点になる。


 そういえば、最近お父様が上機嫌だった気がする…もしかして、それの事…? お父様、エドモンド殿下を嫌ってらっしゃるから……。

 茫然とする中、イライザは意識を手放しそうになるも、脇の二人にしっかりと支えられ、どうにか正気を取り戻す。


「そして、自分の言動が元で他の方から受けた注意を、イライザ様からの虐めとして訴えていたジュディ嬢も許し難し!」

「パーシモン侯爵様宛にジュディ嬢とエドモンド殿下の言動の報告!」

「併せて、ビスク男爵家にも言動の報告と、我ら一同から苦情を申し入れました!」


「えぇ?!」


 自分の家にまで、苦情申し立てをするなんて…! と青を通り越して白い顔色になるジュディ。


「いくら学園内とはいえ、目上の方に対するマナーが悪すぎる!」

「ぶつかったり、紅茶をこぼしたり、イライザ様が怪我でもなされたら、どう責任を取るつもりだったのですか?!」

「イライザ様のお心遣いを無視したり、貶めようとした事…! 許し難し!!」


 三人の怒りがすさまじく、ジュディの膝はガクガクと震える。


「そんな…っ、私、そんなつもりじゃ……」


「では、どんなおつもりなのでしょう?」

「勝手に突進し、勝手に泣き、他人からの注意も全てイライザ様のせいにした方が?」

「中庭で、校舎裏で、ガゼボで、空き教室で、城下で、果ては王宮で殿下にすり寄り、涙を流してイライザ様に虐められて、と訴えられていた方が?」


「―――っ!」

「おい! 貴様ら!!」


「何でしょうか? 婚約者では無い異性をエスコートし、尚且つダンスを2曲以上踊るエドモンド殿下」

「婚約者では無い異性を抱き寄せ、キスをするエドモンド殿下」

「婚約者では無い異性と、二人きりの密室で何度も夜を過ごすエドモンド殿下」


「なぁっ!」

「いやっ!」


 ああ、一線まで楽に踏み越えていたのか…とイライザは遠い目になり、脇の二人は笑顔ながら、殺気を漲らせている。

 周囲の生徒達の、エドモンド達に向ける視線も氷点下だ。


「ふっふん! そんなイライザの味方から出た口だけの事が証拠になるかっ! イライザ、貴様には追って沙汰を下す! いくぞ、ジュディ!」

「は…はいっ…」


 今は何を言っても分が悪いと思ったか、居心地の悪さに観念したか、エドモンドはジュディを連れ、会場を速足で後にする。



 二人が消え、張り詰めていた空気が弛緩する。


「大丈夫ですか? イライザ様」

「ええ、ありがとうケリー様」

「逃げましたわね、殿下」

「コリンナ様…」


 脇で支えてくれていた二人が声をかけてくる。

 ふっと体の力が抜けイライザは、殿下の嫌悪を含んだ怒鳴り声に、思ったよりも緊張していたのが分かった。


「皆様も庇って下さり、ありがとうございます」


 そして、殿下との間に入り、直撃を受けない様庇ってくれていた三人にもお礼を言う。


「いえ、当たり前の事をしただけでございます」

「突然目の前に現れる形になり、申し訳ありません」

「驚かせてしまったと思います。大変申し訳ありませんでした」


 三人揃って頭を下げ、謝罪の意を示されるも、それは違うとイライザは口を開く。


「いいえ、殿下の話を遮り発言するなんて、勇気のある行動ですわ。恐ろしかったでしょう? 本当にありがとうございました」


 にこりと微笑み、感謝の言葉を述べるイライザを真正面から受け止めてしまった三人は、瞬間顔を真っ赤に染めた。


「微笑んで感謝を頂けるなんて…っ! 恐縮です!」

「ああ、イライザ様の微笑……っ! 眼福です!」

「自分を視界に入れて頂けるだけで…っ! 本望です!」


 各々言い切った後、直角に腰を折り礼をすると、涙を浮かべたままの赤い顔を上げる。


「「「ありがとうございました! 失礼します!」」」


 更に感謝の意を示し、揃って踵を返すと速足で前から居なくなってしまった。


「………え?」

「いいのですよ、イライザ様」

「あの者達は、イライザ様に労って頂いただけでご褒美ですよ。………羨ましい」


 にっこり笑う二人の友人の笑顔が怖い。こちらにもキチンとお礼を伝えなければ。


「お二人も支えて下さり、ありがとうございますね」


 いつもより気が抜けたせいか、少しへにゃりとした笑いになってしまった。


「はぅっ! イライザ様のいつもと違うはにかみ笑顔…っ」

「ああ、誰か絵師をここへ…っ!」


 挙動不審になる二人の友人に首を傾げる。 


「ケリー様? コリンナ様?」


 ハッと我に返り、いつもの微笑を浮かべる二人。変わり身が素晴らしく早い。


「申し訳ありません、イライザ様」

「取り乱しました。申し訳ありません」


「大丈夫ですの…?」


「ええ、大丈夫です」

「勿論です」


「なら良いのですが……」


「さ、少し騒がしい事もありましたが、学園最後のパーティ、楽しみましょう?」

「ええ、生徒会がスイーツ選びに力を入れていましたよ! 美味しく頂きましょう!」


「ふふ、ありがとう、二人とも」


「はぁぁっ、素敵です、イライザ様」

「笑って頂けるだけでご褒美です」


「本当に大丈夫ですの…?」


 いつも以上に自分に対する言動が不審な二人に首を傾げながら、イライザは促されるままスイーツを楽しむために足を進める。


 家に戻った後、どんな状況が待っているか分からないが、自分の味方してくれた皆を守ろうと。そして今、パーティを楽しもうと、イライザは心に決めた――。






□本編後、パーティ途中の会話


「あの…イライザ様」

「どうしました? ケリー様」


「親衛隊が提出してしまった婚約解消を求める署名に関してなのですが…」

「ああ、流石に驚きましたわ…」


「イライザ様に内緒で進めてしまい、申し訳ありませんでした」

「イライザ様が殿下の事をお慕いしているのであれば、確認してからの方が良いと思ったのですが、特にその様子もありませんでしたので、侯爵夫妻とお話させて頂き、提出を決めました」


「侯爵夫妻…? お父様たちと言う事…?」


「はい。当主様の意向も確認してからの方が、となりまして。殿下とジュディ様の言動を報告した際に、婚約解消を求める署名を提出して良いかとお伺いしましたら、即、ご了承を頂きましたので、提出致しました」

「………」


「侯爵様は婚約解消にかなり乗り気でいらっしゃいましたので、多分釣書・姿絵を集め始めているかと思われます」

「夫人も喜んでらっしゃいました。イライザ様のドレスを新調しなければ、と」

「………」


 自分自身、エドモンドに政略結婚以上のものを感じてはいなかったが、どれ程までにエドモンドはパーシモン家で嫌われていたのかと、イライザは遠い目になる……。


「それよりも、親衛隊とは…」

「おっと、誰か来たようです」

「さ、あちらに参りましょう」


 それから先も、親衛隊に関しては何も教えて貰えないイライザなのでした。



※友人二人は前世ドルオタの転生者で、イライザ推しです。

 親衛隊の隊長・副隊長。ガチ中のガチ。乙女ゲーム関係無し。



↓↓↓少し続いています。ざまぁ成分が足りない方、親衛隊をもう少し知りたい方は是非。

親衛隊が現れた~その後

https://ncode.syosetu.com/n3437gi/


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― 新着の感想 ―
[良い点] すごく面白かったです。読んでいて楽しかったです。 親衛隊、最高(笑) このあとどうなったか気になります。
[一言] コミック化されている親衛隊が登場するシーンを読んで飛んできました。 面白過ぎます!
[一言] 何回読んでも面白いわー。 特にドルオタ二人(笑)
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