大介呼び出しを受ける
冒険者ギルドの薬草採取で儲けた俺は寮費を1年分先払いして悠々と学園生活を送っていた。毎日が平和でサボらずに講義を受けていた。ただし講義は内容が良くわからなかった、魔法理論とか言われてもサッパリ分からないのだ、だが同室のアーサー君もサッパリ分からないらしいので安心した。
「なあアーサー、魔法って何だよ?」
「呪文を唱えると火や水が出たりするんだ、凄い魔法使いになると攻撃魔法とか使えるんだよ」
「今イチ良くわからんな、俺魔力とかネーしな」
「僕も魔力が無いから分からないね」
俺の知ってる魔法使いって30年童貞とかエクスプロージョンを打っ放す魔法少女位しか思い浮かばない、第一魔法を使う人間を見た事無いのだから仕方ない。考えても無駄なことに時間を割くのも勿体ないので大介はインスタントラーメンを作ることにした。最近は金に余裕が有るので通販で色々買ったのだ。
「何してるんだい?大介君」
「おやつを作ってるんだ、アーサーも食うか?インスタントラーメンだけどな」
「聞いた事が無い食べ物だね」
「そりゃあ王族が食う物じゃないからな。俺達庶民が食う食物なんだ、安くて腹に貯まる食べ物だ」
食物の恨みは怖いのでアーサーにもラーメンを作ってやった、どうせ箸は使えないだろうがフォークではラーメンの旨さが伝わらないのであえて割り箸を渡してやる。
「ズルズル~ズル。ぶは~うめえ!久々の袋ラーメンは美味いぜ!」
「・・・・・・はふ、はふ。熱い!」
「クククク、そう言えば外人はラーメンを啜れないんだったな、可哀想に」
「ズズズズって奴かい?何か意味があるのかい?」
「あれをすることで暑い物でも食えるようになるのだよ、日本人なら誰でも出来る技だな」
「ほ~、日本人恐るべし、そんなに早く食べて何するんだろう?」
「寝るんじゃね~の、知らんけど」
ラーメンを食べて寛いで居たら遼にギルドからメッセンジャーがやって来た。ギルドマスターが俺に何か用があるらしい、直ぐに来いって手紙だった。無視したい所だが金を沢山くれるので一応行くことにする、文句を言われたら謝ったフリでもしとけば良いだろう。
「ギルドに呼ばれたから行ってくる」
「どうかしたのかい、大介君」
「さあな、史上初のG級冒険者になったから表彰でもしてくれるんじゃ無いかな?知らんけど」
「凄いじゃないか大介君!G級冒険者とか始めて聞いたよ、感動した!僕もついて行くよ」
アーサー君がG級冒険者に感動してくれているので、今更降格したとか言えなかった。でも大丈夫なのかなアーサー君は、簡単に人に騙されそうな気がするな。
「なあアーサー、人を疑う事を少しは覚えた方が良いぞ」
「・・・・・・何の事かな?」
「いや、例えばさ・・・・・・」
俺はコインを使った簡単な手品をアーサー君に見せてやった。コインを袖に隠したり指の間に挟んで突然現れたり消したりする簡単な奴だ。
「うおおおお~!!!!コインが消えた!オオオオォォォォォォ~!コインが突然現れた!」
アーサー君のコインを使った手品に対する反応は物凄かった、普段から馬鹿デカイ声が五割増で大きく成って遼中に響き渡る様な轟音だ。
「大介君は魔導師だったのか!空間魔法の使い手と見た!」
「いや、これ唯の手品だから」
手品の種を教えてあげたら露骨にガッカリしていた、俺に空間魔法を教えて貰いたかったらしい。でも手品を覚えたので凄く嬉しそうだった、国に帰ったら王様に見せるのだそうだ。
「な!アーサー、簡単に人を信じると危険だぞ、手品は魔術とは違うからな」
「何だか良くわからないけど、気をつけるよ大介君」
そして2人で連れ立って冒険者ギルドへ向かった。
「お姉さん、俺に何か用かな?」
「ギルマスが大介君に用が有るみたいですよ、何でも大介君の実力が見たいそうです」
「見せたく無いけど。どうしたら良い?」
「え!見せないんですか?」
「メンドくさい、腹が減るから嫌だ」
受付で俺が受付嬢相手にゴネていたらギルマスがやって来た。俺が来たという知らせを受けたようだ。ギルマスはいかにもって言う外見だった、2m近い巨体で物凄く人相が悪い。知らない人が見たら盗賊か犯罪者にしか見えないだろう、そして子供が見たら泣き出す様な凶悪な人相だった。
「おいおい、連れない事言うなよ。チョット実力を見せてくれれば良いんだよ」
「面倒だ、帰る」
怖い顔で俺に言ってきたが、嫌なものは嫌なので断った。俺は大概のことは何でも断るのだ、人の都合など俺の知った事では無いからな。
「おいおい、俺のメンツを潰す気か?」
「知らんな」
「待ちたまえ!此処は私が引き受けよう!」
俺とギルマスが揉めていたら、隣に居たアーサー君が馬鹿デカイ声を上げた。何でも2人に都合の良い考えが有る様だ。
「誰だ手前」
「僕はアバロン王国第5王子アーサー、大介君の親友だ!」
「げ!王子だと」
「聞き給えギルマスとやら、今回の話、大介君に得な事が何も無いではないか。これでは彼が断るのは当然だ、そこでギルマスには彼に賞品を与えるなり、何か彼に有利になるような物を与えてはどうだろう?」
「成程、分かった。俺に勝ったらA級の位をくれてやろう」
「イラネーな、そんなもん」
「ほう!成程気前が良いではないか、ではそれで勝負だ。立会はこの私がやろうではないか」
「おいおい、話をきけよ。俺はそんなものイラネーって」
「よし、じゃあ。ギルドの練習場に行くぞ。着いて来な!」
俺の反対の声はアーサー君には届かなかった、アーサー君は自分の大声で耳が遠くなってるのかも知れない。ギルマスは最初から俺の意見を聞く気が無いようだった。
そんな訳で俺は今ギルドの訓練場に立っている。円形の練習場で、暇な冒険者や受付嬢が一段高くなった客席に大勢いた。俺は彼等の暇つぶしに付き合う事になった様だ。
「大介君、頑張ってくれたまへ!信じているよ」
アーサーは無駄にいい笑顔で親指を立てて俺に向かって微笑んだ。俺が女だったら嬉しいかもしれないが、こいつのお陰でギルマスと戦わなくてはいけなくなった俺は少し腹がたった。そしてもっと腹が立つのが目の前に居るギルマスだった、コイツのお陰で、俺の大事な昼寝の時間が無くなったのだ。
「何時でも良いぜ!かかってきなルーキー」
ギルマスは木製の斧を構えて余裕の表情で立って居た。元はA級冒険者で斧使いだったのだそうだ、若い時にはドラゴンと戦った事が有るらしい。但し戦っただけで倒した訳では無いと受付の人が言っていた。
俺の武器は木製の剣にした、素手で殴ると危ないのでこれにしたのだ。木製だから直ぐに折れて危険は無いだろう、素手で殴ると顔が無くなりそうで怖いのだ。流石にギルマスを殺っちゃうと不味いだろうと思った。