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生きていた鉄道王

 列車内での追手も難なくあしらい、アデルたち一行は、数日後には目的地であるU州の町、セントホープに到着した。

「で、そのボールドロイド氏ってのは、どこにいるんスか?」

 駅前をきょろきょろと見回しながら尋ねてきたロバートに、アデルが通りの先を指差しながら答える。

「ここから西へ半マイルくらい行ったところに、『AB牧場』って呼ばれてるトコがある。そこにいるって話だ」

「じゃ、早速行きましょ」

 3人は通りを西へと進みながら、この後のことを相談する。

「ボールドロイド氏に会ったら、どうするんスか?」

「まず訪ねた事情の説明だな。それからロドニーに連絡だ。

 俺たちに依頼された内容はあくまで『アーサー・ボールドロイド氏の捜索』であって、説得じゃないからな」

「逃げたらどうするんスか?」

「だから息子のことを話すんだよ。いくらなんでも、息子が大変な目に遭ってるってのに、知らん顔するような親はいないだろ?」

「いるわよ」

 エミルが冷めた目を向けつつ、話に割って入る。

「人間、誰も彼もが子供向けのおとぎ話みたいに、善良で慈悲深いわけじゃないのよ。子供を見捨てる親だっていっぱいいるわ。

 むしろ子供のゴタゴタなんか聞いたら、『絶対会いたくない』って突っぱねるかも知れないわ。ロバートの言う通り、逃げるかもね」

「でしょ? 俺もそう思うんスけどねー」

 二人に挟まれ、アデルは苦い顔を返す。

「うーん……、言われたらありそうな気がしてきたぜ。じゃあ、訪ねた理由を何か、適当に作るか」

「それがいいわね」

 牧場に着くまでの間、3人はあれこれと、訪ねた理由を繕っていた。


 牧場を目にした途端、ロバートが声を上げる。

「……でけー」

 彼の言う通り、AB牧場は端の柵がかすんで見えるほど広く、家畜もあちこちで、小山のような固まりを作っている。

 その繁盛ぶりに、アデルとエミルもぽつりとつぶやく。

「相当儲けてるみたいだな。流石、大鉄道会社を一代で築き上げただけのことはある」

「『駿馬は老いても駄馬にならず(A good horse becomes never a Jade)』ね。牧場だけに」

 と、3人の前に、馬に乗った白髪の、60代はじめ頃と言った風体の老人が近付いて来る。

「何か御用かね、探偵諸君?」

「……え?」

 一言も言葉を交わさないうちに素性を見破られ、アデルは面食らった。

「い、いや、俺たちは、その」「御託は結構」

 弁解しようとしたアデルをぴしゃりとさえぎり、老人はとうとうと語り始めた。

「赤毛の軽薄そうな君と、隣の愚鈍そうな君。どちらも、西部の流れ者にしては身なりが良すぎる。明らかに、西部よりも経済的かつ社会的に、はるかに先進している東部地域において、最低でも月給51~2ドルは収入を得られるような職業に就いている人間の服装だ。

 そして赤毛君、2回、いや、3回か。双眼鏡でこちらのことを観察していたな? 何故そんなことをするのか? 牛泥棒の下見か? とすれば服装が矛盾する。牛泥棒をしなければならんような懐事情ではあるまい。東部の道楽者が単なる物味遊山で訪れたにしても、わざわざ双眼鏡を使ってまで、牛なんぞを観察するわけが無い。となれば残る可能性はこの私を探りに来た者、即ち探偵と言うことになる。

 他にも洞察と推理の材料は数多くあったが、ともかく君たちが探偵であることは、明日の天気よりも明瞭なことだった。

 とは言え――そちらのお嬢さんは見事に、西部放浪者風の雰囲気が板に付いていた。残念ながらそっちの2名が足を引っ張った形だな。君だけであれば、私もだまされたかも分からん」

「お褒めに預かり光栄だわ、ボールドロイドさん」

 そう返したエミルに、アデルはまた驚く。

「なんだって? このじいさんが?」

 エミルが答えるより先に、老人がまた口を開く。

「ご名答だ、お嬢さん。私がアーサー・ボールドロイド、その人だ。

 それで、要件は何かね? 見当は付いているが」

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