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敵を制するには、まず味方から

「流石と言うか、阿漕あこぎと言うか、……ね」

 U州へ向かう列車の中で経緯を聞いたエミルは肩をすくめ、こう尋ねてきた。

「で、あたしは今回もあんたに同行するわけね」

「ああ、そこはいつも通りだ」

「その点は別に、どうこう言うつもりは無いわ。

 でもなんでまた、コイツを連れてくの?」

 そう言って、エミルは対面の席で眠りこけているロバートを指差す。

「いくらもう探す相手が見付かってて、後は連れてくだけって言っても、2人いれば十分でしょ?」

「理由は2つだそうだ」

 アデルは頭をかきながら、説明する。

「1つは、日当稼ぎだ。今回の条件、『探偵1人につき1日1ドル』だからな。

 3人で向かえば1日3ドル、必要経費を引いたとしても1日で2ドル近いプラスになる。U州に行って帰ってってだけでも2、30ドルの儲けってわけさ」

「セコいわね」

「実にそう思うよ。で、理由の2つめは、『エクスキューズのため』だってさ」

「つまり『未熟な調査員がいたせいで、調査に数日を要しました』って言い訳したいってこと?」

「その分、増えるしな。日数が」

「呆れた」

 本当に呆れた顔を見せるエミルに、アデルはニヤニヤと笑いかけた。

「いいじゃないか。俺たちにしても、遊んで給料もらえるようなもんだ」

「前回の仕事だってそんなに大した仕事してないじゃない。

 こんなことばっかりやってたら勘が鈍って、いざって言う時困るわよ」

「その点は同感かな。俺にしたって、次はもうちょい歯ごたえのある仕事を希望したいね」

 当たり障りのない返事をダラダラと返しながら、アデルは局長と交わしていた「密談」を思い出していた。




「そして3つ目の理由だが、これは私と君だけの話にしておいてくれ」

 局長から2つの呆れた理由を聞かされていたアデルは、トゲトゲしく返した。

「なんです? 他にどんな儲け話が?」

「そうじゃあない。言い換えよう、これはエミル嬢に聞かせたくない話だ」

「……って言うと?」

 真面目な顔になった局長を見て、アデルも背筋を正す。

「しばらく君に随行させることで、エミル嬢を探偵局から遠ざけておきたい。私の調べ物を、彼女に悟らせないためにね」

「調べ物……。こないだ言ってた、シャタリーヌとヴェルヌの?」

「そうだ。鋭いエミル嬢なら、私が何かしらコソコソやっていて、気付かないと言うことは恐らくあるまい。事実、彼女はそれとなく、私や君の動向を伺っている節があった。

 君も覚えがあるんじゃあないか?」

 そう問われ、アデルはここ数週間のエミルの様子を振り返る。

「……そうですね。確かに最近、話したりメシ食ったりする機会が多いですね」

「うむ。これではうかつに調査すれば、彼女に悟られてしまうかも知れん。

 そうなった場合、我々にとってあまりいい結果には結びつくまい。以前に局を抜けようとしたこともあるからね」

「なるほど。……じゃあ、ロバートのことは?」

 尋ねられ、局長は肩をすくめる。

「エミル嬢は鋭いと言っただろう? このタイミングで君と彼女だけをU州へ追いやれば、彼女は私の真意に気付くかも知れん。

 それをごまかすには、もっと『らしい』名目を聞かせてやった方がいい。それがさっきの『儲け話』だ。

 彼女には私が『カネにがめつくてセコい小悪党』であると、そう思わせておくんだ」

「……承知しました」




「どうしたの?」

 エミルに尋ねられ、アデルは我に返る。

「ん? 何がだ?」

「ボーッとしてたけど、考え事でも?」

「ああ……。まあ、そんなトコだ。帰ったらジョーンズの店のコテージパイが食いたいなーって」

「アハハ……、そんなこと?

 ご飯のことでそんな、眉間にしわ寄せるほど考え事するの? 意外と食いしん坊なのね、あんた」

「へへ……、ほっとけ。ジャガイモ料理好きなんだよ、俺は」

 アデルは適当にごまかし、3つ目の理由について思い返すのをやめた。

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