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忌まわしき復活に備えて

「その男の名前は、ルシフェル・ブラン・シャタリーヌ。

 付けられた名前からしてその父親、『大閣下(Grand Excellence)』ジャン=ジャック・ノワール・シャタリーヌの趣味の悪さがにじみ出ているな」

「そこまで調べてたの?」

 驚いた顔を見せたエミルに、局長は三度、うなずいて返した。

「私とリロイ、そしてAの調査力を総合・発揮した結果だよ。ともかく本題は、ルシフェルの方だ。

 現時点で分かっているだけでも、彼の遍歴はとても白(blanc/ブラン)なんてもんじゃあない。強盗や脅迫、略取・誘拐は言うに及ばず、あの『ウルフ』に匹敵する規模の、都市単位での破壊工作や大量虐殺までも行っている。その犯罪がすべて立証されていれば、16、7回は首を絞められているはずだ。

 だが正義の裁きが下るその前に、彼は在野の人間の手で罰を与えられている。そう、実の娘によってね」

 それを聞いたアデルとロバートは、エミルに向き直る。

 エミルはその誰とも目を合わさず、力無くうなずいた。

「ええ、そうよ。あたしが殺した。あいつはどうしようもない悪党だったもの」

「正義感だけが理由ではあるまい。私怨もあるだろう」

「……っ」

「だがまあ、そこは深く追及しない。君の心中や殺害の経緯がどうであろうと、ルシフェルが極悪人であったことに変わりはないからね。

 問題とすべきなのは――トリスタン・アルジャンの暗躍、Aを狙った2人の男、そして君たちを尾行していた者――君が完膚無きまでに潰したはずのその組織が、どう言うわけかこの1~2年において復活し、活動している節があることだ。

 近い将来、組織は我がパディントン探偵局に対し、攻勢に出るだろう」

「可能性は大きいでしょうね。このままなら」

 そう返したエミルに、局長はにこりと笑って見せる。

「まさかこの期に及んでまだ、局を抜けるだの何だのと言うつもりではあるまいね?」

「そうしたいのは山々だけど、尾行者やボールドロイドさんの話をしたってことは、もう手遅れだと思ってるんでしょ?」

「その通り。既に我々は全員、マークされている。君を狙うと共に、我が探偵局をも同様に狙っているはずだ。今更君が抜けたところで、2が1と1になるだけだ。彼らにとってはイコール2でしかない。

 と言うわけでだ、エミル。離れると言う選択は最早、無意味だ。それよりも連携を密にし、共に闘うことを選んで欲しい。

 そのために、Aと君たちとを引き合わせた。それが3つ目の理由だ」

「え……」

 揃っていぶかしむエミルたち3人に、局長はこう続けた。

「私は今世紀アメリカ最大の、大探偵王だと自負している。どんな難事件も、どんな強敵も見事退け、討ち滅ぼし、殲滅できると言う、確固たる自信を持っている。

 だが、だからこそあらゆる危険、あらゆる脅威に対して、私は常に、最大限に対策を練り、配慮せねばならない。

 そしてその『危険』、『脅威』とは、私自身の命が脅かされる危険をも含んでいる。とは言え、敵と相討ちになっていると言うのなら、まだいい。懸念すべきは、私の身が潰えたにもかかわらず、敵がのうのうと生き残っていると言うケースだ。

 万が一そんなケースが発生し、そして、君たちだけでは残ったその敵に勝てないと判断したら、その時はAを頼って欲しい。そうした場合のためにも、Aはノーマッド(放浪者)として合衆国諸州を渡り歩いているのだ」

 いつもの飄々とした様子を見せない、真面目な顔の局長に、アデルたち3人は静かに、だがはっきりと、うなずいて見せた。


 一転――局長はいつもの、飄々とした様子に戻る。

「あ、そうそう。Aについてだがね」

「はい?」

「まあ、エミルは気付いていると思うが、実はAB牧場もセントホープも、Aの本拠じゃあない」

「へっ?」

 揃って目を丸くするアデルとロバートに対し、エミルは「やっぱり?」と返す。

「『私の本拠はFとLにしか知らせたくない』って言ってたし、多分そうなんだろうなとは思ってたわ。

 ついさっき局長も、『Aはノーマッドだ』って言ったしね」

「うむ。だから基本的に、こちらから連絡はできん。定期的に向こうから手紙や電話は来るがね」

「……そんな人、どうやって頼れって言うんスか?」

 呆れ顔で尋ねたロバートに、局長は何も言わず、肩をすくめるばかりだった。

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