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彼女の、旧い名は

 エミルが淹れたコーヒーを手にしつつ、局長は今回の事情を説明し始めた。

「まず理由の1つ目は、君たちがリーランド氏に実情を打ち明ける可能性があったからだ。以前の『宝探し』でも、エミル嬢は博愛主義を披露してくれていたからね。

 無論、一般的にはそれは悪いことじゃあない。むしろ、賞賛されるべき精神だ。だが打ち明けたとして、リーランド氏はどうするだろうか?」

「間違い無く、セントホープに向かうでしょうね」

 エミルの回答に、局長は「うむ」とうなずく。

「その通りだ。そしてそれは、2つ目の理由と合わせて、非常に危険な行為なのだ」

 それを受けて、今度はアデルが答える。

「つまり俺たちやロドニーを監視してるヤツがいて、そしてソイツは躊躇ちゅうちょなく殺人すら犯すヤツである、と。

 そんなヤツが俺たちの近辺にいることを、局長は気付いてたんですね」

「そう言うことだ。

 現れた時期としては、リゴーニ地下工場事件の後くらいになる。狡猾な相手らしく、君にはまったく気取らせなかったようだが、その点において第三者となっていた私にはむしろ、その存在が透けて見えるようだったよ。

 このまま放置していては、君たちの身の危険や、情報漏洩どころの騒ぎじゃあない。確実に、我が探偵局にとって大きなマイナスを呼び込む存在だ。だから今回、君たちを東部から離れさせたことで、そいつの油断を誘ったのだ」

「と言うことは……」

 尋ねたエミルに、局長は肩をすくめて返す。

「尾行者自体は見付けたし、それなりの制裁も加えた。だがその背後にいるであろう人間には、残念ながら手が届かず、だ。

 とは言え今回のことで、相手も警戒したはずだ。事実、今日は君たちの周囲に怪しい人間はいなかったと、リロイから聞いている」

「じゃあ、当面は尾行や盗み聞きなんかの心配はいらなさそうね。

 それで、3つ目は?」

「それはだね……」

 急かすエミルを、局長はじっと、静かな表情で見つめている。

「……なに?」

「エミル。前もって言っておくが、Aは決して、常に私より上手うわてじゃあないと言うことだ」

「どう言う……」

 言いかけたエミルは、途中で何故か、アデルを見る。

「……そう言うこと?」

「まあ、似たようなものだ」

「へ?」

 きょとんとするアデルを横目にしながら、エミルは額に手を当て、呆れた仕草を見せる。

「カマをかけたのね、ボールドロイドさんに? あたしが内緒にしてって言ったこと、全部知ってるってわけね」

「うむ。だが言っただろう、今日はオープンに話すと。私がそうするのに、君がクローズなままじゃあ、話がし辛くて仕方が無い。

 だから今回は、私が聞いたことについては、君は素直に答えて欲しい。繰り返すようだが、その代わりに君が聞いたことについては、私も素直に答えるつもりだ。

 構わんかね、エミル?」

「……オーケー。今日だけは、そうするわ」

 エミルがぐったりと椅子にもたれかかったところで、局長は話を再開した。

「さて、ネイサン。それからビアンキ君。彼女の名前についてだが、『エミル・ミヌー』の他にもう一つ、古くからの名前を持っていることについて、知っていたかね?」

「いや……?」

 揃って首を傾げる2人にうんうんとうなずいて見せながら、局長はこう続ける。

「エミル・トリーシャ・シャタリーヌ。それが、彼女が16歳まで使っていた名前だ」

「シャタリーヌ? それって……」

 尋ねかけたアデルに、局長は再度、うなずいて返す。

「そう、S・S・スティルマンの隠された日記帳で、君が見たことのある名前だ。

 これは私やAの調査を元にした、仮定の話だが――そのシャタリーヌは、恐らくエミル嬢の父親だ。と言っても、彼女にも確証は無いだろうがね」

「ええ、でもあたしも、何となくそうだろうとは思ってたわ。日記に書かれていた、『人をぬらぬらと舐め回すような目』って表現が、まるで父そっくりだったから」

「まさにそう言う男だったらしい。と言っても、私も直に会ったことは無いが」

 そう言って、局長は手帳を懐から出した。

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