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騙し合い

「……」

 アーサー老人は一言も発することなく、その場に倒れた。

「ぼ、ボールドロイドさん!?」

 アデルが大声で叫び、馬を降りて彼の側に寄る。

「おっと、動くなよ」

 と、デズと同様に囲まれていたはずの男たちが、いつの間にかその輪を抜け、アデルたちに拳銃を向けている。

「あんまり無駄な犠牲は出したくないんだ。そのまんま、大人しくしててくれるか?」

「お前ら……、何者だ!?」

 声を荒げて尋ねたアデルに、男の一人が肩をすくめる。

「言う必要は無い。俺たちとしてはこのまま何の痕跡も残さず、さっさと逃げたいんだ。

 だからあんたたちも荒野の決闘しようなんて思わずに、じっとしててくれ」

「見逃すってことかしら?」

 そう返したエミルに、男は大仰にうなずいて見せた。

「ああ、そうだ。馬を俺たちに渡して、そのまま1マイルほど歩き去ってくれれば、俺たちもわざわざあんたたちを撃ったりしない。約束するよ」

「嘘おっしゃい」

 男の話を、エミルは鼻で笑う。

「痕跡を残したくないって人間が、あたしたちを黙って帰すわけないじゃない」

「……ふっ」

 男たちはニヤリと笑い、揃って拳銃を構えた。


 が――次の瞬間、2度の銃声と共に、揃って膝を付く。

「う……ぐ……」

 脚を抑え、倒れ込んだところで、アーサー老人が硝煙をくゆらせる小銃を杖にして、むくりと起き上がる。

「人間の性と言うべきか」

 アーサー老人は小銃を構え、倒れた男たちに話しかける。

「人間、無防備なところがあればあるほど、いや、無防備なところを見せれば見せるほど、そこを狙おうとするものだ。

 背を向け、頭を帽子や手で覆うと、10人中10人がどう言うわけか、背中を撃とうとする。

 コートの裏に、鉄板を仕込んでいたとしてもだ」

 2人の鼻先に小銃の銃口を向け、アーサー老人が命じようとする。

「探偵諸君、いつまでもぼんやりしていないで……」「これでしょ?」

 と、そこでエミルがアーサー老人の横に立ち、縄をぷらぷらと振って見せる。

「うむ。手早く頼む」

 アーサー老人は満足げにうなずいた。




 男たちを縄で縛り、揃って馬に載せたところで、アーサー老人がカンテラを二人の顔に近付ける。

「ミヌー君。彼らに見覚えはあるかね?」

「無いわね。……なんであたしに聞くの?」

「赤毛君は明らかに東部暮らしが長く、よほど有名でなければ西部者の情報など、逐一控えてはいないだろう。

 若僧君は探偵業に就いてまだ、半年も経っていまい。持つ情報は赤毛君よりも、もっと少ないと見て然るべきだ。

 反面、君は西部暮らしが相当長いと見える。恐らくは7年か、8年と言ったところだろう。そもそも名前を聞いた覚えがある。辣腕らつわんの賞金稼ぎとしてな。

 確か、エミル・『フェアリー』・ミヌーだったかな?」

「ええ」

「まさか君ほどの手練が、Fの下にいたとはな。……ああ、それよりもこいつらの検分だ。

 さっきの言葉遣い――と言うか訛りだな――それと銃の扱いの熟練具合、場馴れした様子からしても、この2人が西部で暮らして相当長いと言うことは、まず間違いあるまい。

 他に何か、身分が分かるものはあるか……?」

 そうつぶやきながら、アーサー老人は男たちの服を調べる。

 と、男の懐からぽろ、と何かが落ちる。

「うん? ……ネックレスか。何かのシンボルだな」

 もう一人からもネックレスを見付け、アーサー老人はあごに手を当てつつ、考察する。

「三角形と言うことはフリーメイソンか、イルミナティか、……いや、どちらでも無さそうだ。

 鎖が付いている方向からして、これは逆三角形か。そして目も、人のものではないようだ。瞳が細い。

 まるで、猫のような……」

 ネックレスを眺めていたアーサー老人が、くる、とエミルの方に向き直る。

「どうした、ミヌー君? 顔色が悪いが」

 アーサー老人の言う通り、エミルは真っ青な顔で、そのネックレスを凝視していた。

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