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咲けない花  作者: ニコ
3/9

2片目

 昼を跨いでたっぷり3時間、カラオケコーナーから出てきたときの俺の顔には、気持ち悪い程に満足げな笑みが浮かべられていただろう。

 1人カラオケ、良い。

 まず好きなだけ好きなタイミングで歌うことができるというのは評価ポイントだ。複数人だと待ち時間がどうしてもできてしまうため、とにかく歌いたい、という人にとっては退屈な時間だろう。しかも待ち時間中に他の人が歌っている歌が、自分の知らない歌だった場合尚更だ。しかし1人ならばその心配が一切無い。

それから、同じ曲を何度でも歌うことができるというのも良い。他の人が一緒の場合、同じ曲が選択されるとどうしても空気的に厳しくなってしまう可能性がある。要は萎える。

 しかし1人ならばそんな心配は皆無だ。満足のいくままに同曲を熱唱し続けられる。歌唱練習したい人にはもってこいだろう。

 ところが、機械以外からの感想が無いというマイナス面もある。あと、歌い終わった後に独りだけという現実を振り返ると悲しくなってくる。俺は気にならないが。別に友人が少ないわけではない。

 こんなことならまた来ても良いかもしれない、と思いながら、受け付けのお姉さんにマイクの入った籠を返却した。

 お返しにと、とびきりの営業スマイルとともに、お姉さんが棚の裏から10cm×20cm程の厚紙を取り出した。そこには「UFOキャッチャー1回無料券」の文字と謎のキャラクター。謎のキャラクターはおそらくこのアミューズメント施設のマスコット的なものだろう。このキャラクターが表示されているクレーンゲームなら、どれでも1回だけ無料で挑戦できるというものらしい。つまる話、「カラオケ来たならゲーセン寄って、あわよくばそのまま散財してけやこの野郎」、というわけである。

 俺は盛大な失笑を溢した。いや、実際は店員の前でやるわけにはいかないので、心の中で溢したのだが。

 俺は一時期、ゲームセンター、特にクレーンゲームに入り浸ったことがある。別段欲しいプライズがあったわけではないが、滅茶苦茶簡単にプライズを取ることのできる筐体を偶然見つけたことが切っ掛けだった。

 そこから導き出せる答えは、このアミューズメント施設のクレーンゲームは金を取る貯金箱である、というものだ。とにかく配置が嫌らしい。

 クレーンゲームにはプライズを取るためのいくつかの技術が存在する。しかし経験的にこのゲームセンターのクレーンゲームには、それらの技術をいくら駆使しても、客から金を搾取するための細工が筐体内、ないしプライズ自体に施されている。故に挑戦すれば散財は免れない。

 クレーンゲームの必勝法は、細工が甘い筐体を選ぶことである。

 この結論に辿り着くまでに、一体何人の諭吉さんが白銅の円盤に変わっていったことだろう。黒歴史の1つだ。

 いつの間にか遠い目をしていたらしい俺を、店員のお姉さんが訝しげな目で見ていた。その眼差しに気づき、俺は平静を装いつつ笑顔を浮かべ、感謝の言葉を述べながら無料券を受け取った。

 お姉さん、あなたも優しい態度を装いつつも、客に酷なことを強要してきますね。俺の感謝の言葉の裏に存在する真意など知るはずもなく、再度営業スマイルを張り付けるお姉さん、さすがはプロか。まあ、その笑顔も客が押し寄せてくる16時以降から、どれだけ保つことができるかは見物だけどなッ!

 心の中で過去の八つ当たりを謎のテンションで溢し、俺は無料券片手にゲームセンターへと向かった。

 このゲームセンターは2階にまで広がっており、1階には音楽ゲーム、クレーンゲーム、レーシングゲーム、コインゲーム、スロットゲームが設置され、2階には格闘ゲーム、少量の音楽ゲームとスロットゲームが設置されていた。俺はクレーンゲームくらいしか触ったことがない。

 やはり客はほとんどいなかった。それでも盛大に軽快な轟音とライトアップを垂れ流しているというのだから、昼間休業するだけで一体どれだけの節約ができるか。限りある資源を大切に。

 心にもないことを考えつつ、クレーンゲームの設置された一画へと歩を進めた。クレーンゲームにも色々種類があるが、はてさてどれを狙いにいこうか。

 俺の思考が一気に本気モードへ切り替わった。興味の惹かれるプライズ、巧妙に細工された筐体。1台1台、慎重に見極めていく。普段使わない脳をフルに動かし、挑戦する筐体を、さなが爆弾処理に取り掛かる隊員の気分で選んでいった。



「だーっ!またかーい!」



 爆弾処理本職の方には非常に申し訳ない思考に耽っていた俺は、不意に響いてきた声によって我に帰った。

 声、でけえ。この轟音内でも響く声って相当だぞ。

 調子の狂った俺は声の出所を探すと、それはすぐに見つかった。

 とあるクレーンゲームの筐体の前で、一々オーバーリアクション&ハイテンションで叫ぶ人影があった。


 これが俺と、天海(あまみ) 青奈(せいな)との出会いだった。


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