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無月島 ~ヒツジとオオカミとオオカミ使いのゲーム~  作者: 天草一樹
第一章:視点はだいたい橘礼人
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とにかく多い自己紹介

 しばらく、誰もがあっけにとられていたが、だれかの、


「とりあえず名札、探してみませんか」


という声に従い、それぞれが箪笥を調べ始めた。ほどなく名札を見つけた者がテーブルの上に置いていき、各々自分の名前の書かれた名札を取っていった。

 やることのなくなった一同は、しばらくほかのメンバーの行動を見つつ出方をうかがっていたが、沈黙を破るように、白髪の青年が皆に問いかけた。


「皆さん、ここでただ立っているだけでは何も解決しません。自称オオカミ使いの言葉に従うようで不快ですが、まずは自己紹介をしましょう」


 皆が戸惑いつつも、その意見に賛成の意を示し始めたとき、一人の男が扉のほうへ歩いていき、そのままリビングから出ようとした。


「おい、どこに行こうとしている」


 リビングから出ようとする男に、李が問いかける。

 あまり関係ないが、リビングから去ろうとする男は、なかなか渋い顔をしている。スキンヘッドで背は高く、一般人がイメージするやくざのようだ。やくざを見たことはないけど。

 やくざ風の男は、李の問いかけに対して、一度だけ振り返り、


「くだらない。自己紹介がしたいなら勝手にやればいいだろ。俺は部屋に戻る」


と言うと、さっさと出て行ってしまった。

 一同が白けた気分になる中、一人の少女が、その雰囲気を壊すように、明るい声で話し始めた。


「皆さん、気にしないでください。浜田君は少しツンデレなんです。でも、根はとっても優しいので、みなさんあんまり彼のことをいじめないでくださいね。あ、私は浜田透君と同じ大学に通ってる、音田千夏です。こう見えても二十二歳です。今日から私が死ぬまでよろしくお願いします」


 音田は一息にそう告げると、満足したように、ソファに座った。

 まず、リビングから出て行った身勝手な男の名前が、浜田透であることは分かった。が、それよりも、この場にいる全員が音田と名乗る少女を驚愕の目で見つめていた。音田は中学一・二年にしか見えないような幼い顔立ちと身長の持ち主であったからだ。ついでに橘は、最後の一言怖いよ! と思ったが、ほかの人は彼女の衝撃発言(二十二歳宣言)に気を取られて聞いていなかったらしい。ただ茫然と音田を見つめ続けている。それほどまでに衝撃的な外見なのだ。

 しばらくの間音田を黙って見続ける会が発足されていたが、当の爆弾発言をした音田自身が、自分の出番は終わったとばかりに、足をパタつかせながら、笑顔で次の人の自己紹介を待っているのを見て、次第にみんな落ち着いて(考えることを放棄して)いった。

 次に口を開いたのは、落ち着いた雰囲気を持った白髪の青年だ。


「……さて、それじゃあ次は僕がやりましょうか。白石天、二十四歳です。S社という、小さい会社を経営しています。あまり長く話すと時間がかかりすぎてしまいますから、これくらいにしておきます」


 白石はそう言って口を閉ざしかけたが、ふと顔をあげ、言葉を付け加えた。


「ああそうだ、ひとつ言っておいたほうがいいことがありました。僕も音田さんと同じく、この中に一人知り合いがいるんですよ。ね、小林さん」


 そう言って彼が喋りかけた相手は、少しウェーブのかかった赤髪のお姉さんだ。

 小林と呼ばれたその女性は、自分が呼ばれることを予期していたのか、特に慌てる風もなく溌剌と話し始めた。


「ええ、もちろん。というか、白石さん私のことほとんど見てこないから気づかれてないのかと思っちゃいましたよ。まあ、白石さんとは後でまたゆっくりと話すとして、私は小林凛って言います。職業はジャーナリストで、まあ仕事の関係から白石さんとは交流があったんですけど、こんなところで出会うなんて結構驚いてます」


 小林はかなり饒舌なようだ。この後もしばらく喋っていたけれど、このままじゃ話が進まないということで白石に止められ、また、次の人からは必要最低限のことだけを話すようにとのお叱りも行われた。

 で、次の人。何度か叫んでいたヤンキー風の男。改めて見ると、顔のラインが全体的に少し濃いけれど、イケメンって言える人だ。


「俺は牧王谷っていうんだ、よろしく。まあ一応学生だけど、最近は学校には行ってねぇなぁ、退屈だもんよ」


 次は、牧王谷の知り合いだというかなり強面のがっしりした女性。


「多摩南、それが私の名前だよ。王谷とは知り合いだけど別に仲良くもないし、そいつ、ろくでもない奴だから近づかないほうがいいよ」


 多摩の発言に牧が反応し、少し悶着が起こりそうになったが、白石が仲裁。そして次の人へ。


「えっと、じゃあ俺かな。俺は大木強っていう。仕事としては運送業をやっている。これからよろしくな」


 名前通りかなり強そうな大木さん。一見かなり筋肉質でごついけれど、顔は比較的穏やかだから親しみやすそうだ。続いては大木さんの知り合いの人。……しかし、ここにいる全員、一人だけ知り合いがいるようになってるのかな? あれ、そうすると、僕だけ知り合いが二人?

 橘の疑問をよそに自己紹介は続く。


「…黒崎…神………」


 名前だけぼそりと告げて黙り込んだ、ゴスロリ系女子。橘と同じく服が全身真っ黒なところには少し好感が持てる。不思議な雰囲気を醸し出す黒崎を、大木が取り繕うように何か言っている。どうやら占い師らしいが、お客とコミュニケーションを取るのが下手であまり売れていないとか。

 で、次の人。


「真目真夜です! 今年で二十歳になりました! ぴちぴちの大学生です。あ、それと、私の隣に座ってるこの子が私の友達の星野明子ちゃんです。明子ちゃんは人見知りなのであまり怖がらせないでください! 私はいつでもどこでもテンションマックスなので、ガンガンしゃべりかけてください!」


 この状況にもかかわらず、無駄に元気旺盛な女の子。背は低く、少女漫画のキャラのような大きな瞳で、髪は少し茶色がかったショートヘアだ。

 また、真目の隣に座っている星野と呼ばれた女は、黒くて長い髪を前面に垂らし、リ○グに出てくる貞○みたいな雰囲気を醸し出している。

 星野は、真目に紹介されると言葉を発することなく、体を少し震わせながら頭を下げた。かなりおびえているのがその行為だけでも伝わってくる。ちなみに、それで自己紹介は終わったようだ。

 そろそろ、誰が誰だかわからなくなってきそうだが、自己紹介は続く。


「初めまして、天童咲と申します。早く話し合いに移りたいので私はこれで。それと、私の知り合いは、そこにいる馬面のバカ男です」


 すごくハスキーな声で、必要最低限のことだけを言った天童は、切れ長の目をして眼鏡をかけたクールビューティーという言葉がぴったりな人だ。雰囲気が少し如月さんと似通っている気もするが、如月さんに比べると少し性格がきつそうで、お近づきになり難そうに見えた。まあ、今の状況では頼りになりそうな人物である。

 続いて馬面の男。天童からの暴言には慣れているのか、バカ呼ばわりされたことを気にしている様子はない。


「馬面って……。波布真淵だ。別に言うことはねぇよ」


 みんなの視線を嫌がるように、すぐにそっぽを向く。見た感じ顔が少し青ざめているし、かなり怯えているのかもしれない。

 さて、そろそろ自分も自己紹介をしたほうがいいと思い、橘も名乗りを上げた。


「ええ、橘礼人と言います。一応T大生です。でも、あんまり頭はよくないので頼らないでください。それと、僕は皆さんと違ってこの場に二人ほど知り合いがいます」


 自己紹介って実際にやろうとすると何話していいか全然わからなくなるな、と思いつつ、李と如月に話を振る。


「李千里だ」

「如月綾花です」


 ……それだけ! 二人とも言葉少なすぎ!

 結局橘が軽く二人の紹介を付けたし、さて次の人へ、ってところで突然李が言葉を発した。


「俺の知り合いはそいつ以外にいない。おそらくそこの如月という女も同じだろう。この中に、一人も知り合いがいない奴はいるか」


 李の突然の発言に驚くことなく、一人の男がこれに対応。


「ここに知り合いはいない。名前は伊吹瞳という」


 伊吹は全身をグレーのスーツで包んだ、どことなく全体的に影のかかった人だ。年齢が想像しづらいタイプで、一見するとまだ高校生のようにも見えるが、行動の一つ一つが洗練されていて、三十過ぎの立派な社会人にも見える。

 伊吹は立ち上がり、皆に深々とお辞儀をすると、そのまま口を閉ざした。

 李は澄ました顔でそれ以上何も話そうとしない伊吹をにらんでいたが、一度ため息をつくと伊吹から目をそらし、自己紹介の続きをするよう催促した。

 というわけで次の人。


「そんじゃ、次は俺だ。名前は四宮八志っていいます。まだまだ状況が分かってなくてどうしていいかわからないけど、これだけ人数もいるんだし、あんまり気を張りすぎずに皆とこれからやっていきたいです」


 四宮は、特徴というほどのものはないが、髪を少し茶色に染めており、一般的な大学生を想像したらこんな感じになるんだろうなといった人物だ。ただ、自己紹介中笑顔であったものの、手が落ち着きなく動いていたから、本人はこの状況にかなり怯えているようだ。

 四宮の知り合いとして次に話し始めたのは、千谷という四宮と同じ大学に通う女子だった。


「千谷佳奈です。大変なことに巻き込まれてしまったようですが、四宮君が言っていたようにこれだけ人数がいるんです。冷静にこのゲームを対処して、素早く帰れるように努力したいと思います」


 千谷はかなり背が低いけれど、態度や立ち振る舞いからかなり大人びた印象を与えている。それに四宮とは違い、言葉通りこの異常事態におびえることもなく落ち着いているように見えた。

 この二人に触発されたのか、次の人は明るい声で自己紹介を始めた。


「望月美加っていいます。なんかよくわかんないゲームに参加させられちゃったみたいだけど、これだけ人がいるならきっとみんな無事に帰れますよね。それに、すっごく頭のいい人も参加してるみたいだし」


 望月は、ショートヘアで、身長は女子にしてはやや高め。顔は小柄でファッションモデルのようだ。それと、勘違いかもしれないけど、頭のいい人って言ったときに僕のほうを見ていたような……、まあ気のせいだと思うけど。

 望月の次は、彼女の知り合いの空条という男だ。

 空条は声を震わせながら、


「空条守……です。よろしくお願いします……」


 話しぶり的には黒崎に似ているが、その態度からすると、星野同様かなり怯えている様子。外見としては、肩まである男にしては長い髪と、黒縁の眼鏡が印象的。常に顔を下に向けていて、暗い雰囲気を感じさせる容貌だ。

 次に話し始めたのは、茶髪ですごい化粧の濃い女の人。


「えーとぉ、藤里無垢って言いまーす。なんかぁ、大変なことに巻き込まれちゃったみたいですけどぉ、すごくかっこいい人もいて、ちょっとラッキーですぅ。これからいろいろ仲良くなれたらなーって思ってまーす」


 ………………。すごい、緊張感のかけらもない。オオカミ使いはいったいどんな基準で僕たちを選んだんだろう。まあ、不幸中の幸いとして、藤里の目線の先は白石さんみたいだから僕には関係なくて済みそうだ。白石さん頑張ってください。


「あー、それとぉ、私の知り合いもいるんですけどぉ、多分このままだと一生あいさつしないと思うんでぇ、私が紹介しておきますねぇ。うふ、私って親切」


 皆がイライラする中、藤里が紹介したのは、隅のほうの席で座ったまま寝ていた少年。


「えっとぉ、彼の名前は浅田太郎っていいますぅ。普段からずっと寝ててぇ。あっ、大学が一緒なんですけどぉ、もう講義の話とか一切聞いてなくて、すっごくバカなんですよねぇ。あっ、でも授業にも出ない私よりはましなのかなぁ、うふふ」


 聞いているだけでかなり疲れる話し口調。本当に関わりたくない人種だ。あと、浅田の特徴だけど、顔は下を向いていて見えないが、とにかく髪の毛がハリネズミみたいにつんつんしていることかな。

 残りあと二人。ようやく長かった自己紹介も終わりを迎えようとしている。

 すっと立ち上がったのは、色白で精悍な顔つきをした少年と、目元が腫れぼったく垂れさがっていて、全体的に動きがとろそうな少女だ。


「僕たちでようやく最後ですね。名前は速水竜と言います。まだ高校生なのでこの中では一番年下ですね。皆さんに比べると若輩者ですが、できるだけ足を引っ張らないように心がけたいと思います。それと、僕の隣にいるのが……」

「沢知馬子って言います。速水君と同じ高校に通ってます。高校三年生です。頑張ります」


 速水も沢知もこの状況に対してあまり恐怖を感じていないのか、声に震えなどは見られない。すごくできた高校生だ。

 こうして自己紹介が終わると、しばらく静寂が訪れた。



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