唐突な……
望月さんの一人称です。
どうやら小林さんは完全に諦めているようだ。まあ、今更私たちにできることなんてない。もう既に護送機は空を飛んでいるのだから。
それにしても礼人君が取った策。聞いてみればたいして驚くようなことはしていなかったな。ただ、私が切り札として持ち込んだ爆弾の存在に、あそこまで早く気付いていたのは想定外だ。一体どこを正していれば、こうもあっさり捕まることなく計画を遂行できたのだろう。
「礼人君ってやっぱりすごいね。事件が起きる前からあらゆる事態を想定してたんだ。普通こんなデスゲームに巻き込まれたら、パニックになって考えるのを停止するか、生き残るためにとにかくゲームの攻略を考えるかの二択だと思うのに。まさかゲームマスターの考えを読み切ったうえで、その先に起こるかもしれない最悪の事態にまで備えるなんてね。言い逃れの余地なく私の完敗だよ。
私と小林さんの関係だけど、彼女は天童さんや藤里さんみたいな捨て駒じゃなくて、完全に対等な関係。私が計画の全てを話した唯一のパートナーだよ。今回の計画って私一人では無理があったからさ。最初から最後まで計画を知っていて、私が捕まった際にも臨機応変に対応できる人がどうしても必要だったんだよ。まあ結果からすると、彼女がいてもいなくても私が敗北することに変わりはなかったみたいだけどね」
ちょっと嘆息してみせると、小林がすまなそうに謝ってきた。
「それは本当に申し訳ないねえ。私の役割って望月さんが捕まった時の保険みたいなものだったからさ、基本は他のヒツジ達と同じ行動をとって怪しまれないように動いてたんだけど……そのまま正体を現すこともなく捕まったからなあ。積極的に動くことはできなくても、もっと頭を使ってサポートすることはできたと思うのに」
「別に気にする必要はないって。礼人君が私たちの思考のはるか上をいっていただけで、彼さえいなければこんな結末にはならなかっただろうし。それに下手に動いて怪しまれたら本末転倒だしね。私の方がもっと先に対策を練って行動するべきだったんだよ」
そう、小林さんに落ち度があるわけではない。全ては保守的な行動に走り、積極的に仕掛けていかなかった私の失態。音田さんが私を炙り出すために自身をオオカミだと語ったように、私も目立つことを恐れず揺さぶりをかけていくべきだった。藤里によるオオカミ使い殺害が失敗した時点で、裏切者が私だとばらしてでも主導権を握るように……。いや、それを言うならもっと最初の段階で……。
まあ全てが後の祭り。過去に戻ることができない以上、ここでいくら反省したところで意味はないのだ。
私は視線を天井に移し、小さくため息をつく。視界の隅に、小林さんも同じように天井を見上げているのが映った。
「お前らの態度、気に入らないな」
不意に、氷柱を連想させるほど冷たく鋭い声が機内に響き渡った。
無視をすることは許されないような、とても重厚な声音。
意識が反射的に、その声に引き寄せられる。
「結果として人を殺したのは藤里ただ一人だ。だが、あいつを殺人計画に誘い、今この場にいる全員を殺そうとしていた奴らが、どうして反省の色も見せずに澄ました顔でいるんだ。自分たちが一体何をしようとしていたか、本気で理解できてるのか」
声の主――李千里は、全く声を荒げることなく、しかし確実に怒気を含んだ声で糾弾する。
こんなに素直で、真っすぐで、明確な感情を向けられたことはいつ以来だろう。その表情はいつもと変わることは無くても、どれだけの思いが彼の中で煮えたぎっているのか驚くほどすんなりと伝わってくる。
彼みたいな人が私のそばにいてくれれば、今こんなことはしてなかったかもしれない。そう思うとちょっとだけ勿体なくなる。
でも、もう時間だ。
私は、彼の目を見つめながら、満面の笑顔で答えてあげた。
「理解はしてるつもりだよ。でもね、もうどうにしろ終わりなんだよ。そろそろ時間なんだ。万が一計画が失敗して捕まった時ように、護送機に仕掛けておいた爆弾。護送機がある高度を超えた段階で入るようにした時限爆弾。約一時間後に爆発すようにセットしたから、そろそろ爆発するはずだよ。だから、どうせ私たちは全員ここで死ぬの。反省や謝罪は、死後の世界で言うことにするよ」
そう言って、私は爆発の衝撃に備え目を閉じて――。
まだ明かされていないことは残ってますが、これで解説編は終了です。次話はエピローグ。




