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策その2

「夕食の準備が始まった際、僕と千谷さん、それに伊吹さんがいなかったことから感づいてる人もいるかな。その策を実行するにあたって、僕は二人の力を借りた。一人で進めるにはいくつか難点があったから。具体的にどんな手助けをしてもらったかは――二人に話してもらおうかな」


 喋り続けるの疲れたし。

 本音はもちろん隠して伊吹と千谷に視線を向ける。

 第一の策の説明を浜田に語らせたことから薄々予想していたのだろう。特に身構えた風もなく、粛々と変わってくれた。


「では、話し疲れたらしい橘さんに代わって続きを話したいと思います」


 そう前置きしてから千谷は語りだす。


「橘さんが今言っていましたが、私と伊吹さんはある二つの計画に協力するよう誘われました。その一つが、オオカミ使いへの助力申請。つまり、オオカミ使いに裏切り者を探す手伝いを要請しようという考えです。すでに浜田さんがオオカミ使いに爆弾を探す手伝いを申し出ていたらしいですが、ここではそれ以上の関係を築かなければなりませんでした。というのも、裏切者が存在するということはいよいよ爆弾が仕掛けられている可能性が高いということでもあり、犠牲者を出さないためにはより緊密な連携を取る必要がありましたから」


 記憶を掘り起こすためにか、千谷はそっと目を閉じた。


「ですがこの時点では、少なくとも私はオオカミ使いのことを信用していませんでした。藤里さんがオオカミ使いの仲間でないだろうとは思いましたが、それはオオカミ使いが殺人鬼でない保証になっていなかったので。ただ橘さんはそうした疑いをもたれることは想定していたみたいですね。オオカミ使いを疑ったままでもできる簡単なこと――橘さん自身を皆に不審がられない方法で孤立化させる、ということを頼んできました」


 再びガクンと機体が揺れる。

 その衝撃に驚いてか一度口を閉じるも、すぐに話を再開した。


「わざわざ説明する必要もないと思いますが、これはオオカミに不審がられずにオオカミ使いと接触するための策です。森の捜索から帰ってきた後、館で浜田さんの無事な姿を見てオオカミ使いが本気で私たちを殺すつもりがないのだと悟り、今度助力を求めれば必ず協力してくれると橘さんは確信していた。ただオオカミ使いと接触するためには単独行動を行い皆から離れる必要があります。ここで理由も話さずに一人で動き始めては全体の統率を乱し裏切者に付け入る隙を与えてしまうかもしれない。そうでなくとも裏切者に怪しまれて計画を早められる――つまり爆弾を起爆させられてしまう恐れがありました。なので、私と伊吹さんに手伝ってもらい、不自然にならないよう一人になれる機会を作ってほしいと頼んできたわけです。

 この申し出を受けた私が、結果として何を行ったのかは皆さんも知っていますよね。夕食の席で波布さんの発言を論破し、オオカミが橘さんであるように誘導。これにより橘さんを孤立させて半監禁状態にする。後は私か伊吹さんが見張りとして付き、オオカミ使いが接触してくるのを待つ――という計画だったのですが、浜田さんの登場により予定が狂わされてしまいましたね」


 非難する目、というわけではないが少し恨めしそうに浜田を見る。まあ口元がほころんでいるから本気で恨んでいるわけではなさそうだ。

 ポリポリと頭を掻きながら、浜田が言う。


「そりゃ悪かったな。橘の話はオオカミ使いを経由して俺にも伝わってきてたんでよ、俺なりにその策を成功させる手伝いをしたつもりだったんだ。結果としてうまくいったわけだし、お前の策を潰したことはチャラにしておいてくれ」


 淡々とそう嘯く浜田。他の人に彼がどのように映っているかは分からないが、橘には強く輝いて見えていた。

 今回の事件で橘に幸運だったのは、何といっても浜田の存在だ。最初は万が一の保険程度にしか考えていなかったが、彼がいてくれたことでことの運びが非常にスムーズに行えた。ここでの話もその一つ。考えていたよりもはるかに深い親密関係をオオカミ使いと築いていた浜田。千谷の策でも十分橘の思惑通りになったかもしれないが、二つ目の頼み事――裏切者の足止めもカバーしてくれるという点では浜田が取った行動は最適だった。オオカミ使いに協力を頼み、隠し扉を解放させ黒子――もとい大木(・・)四宮(・・)――を使って全員をバラバラに分断する。皆が今どこにいるのか、そしてオオカミ使いが今何を考えこの先どのような手を打ってくるのか。それら不明確な点を作ることによって裏切者を惑わし、爆破までの時間稼ぎを可能にした。

 心の中で深く浜田に感謝の念を送っていると、速見が手を上げて質問してきた。


「話を途中で遮ってしまい申し訳ないのですが、確認したいことがあるので質問させてください。今の会話からすると浜田さんが夕食の席に現れた後、オオカミ使いが現れて真目さんを連れ去ったことや黒子が皆さんを襲ったことは、全て浜田さんの計画だったということですよね? だとすると黒子の正体というのは……」


 速見の視線が、大木と四宮へ向かう。他の人もつられて二人へ顔を向ける。

 再び皆の視線にさらされた二人は、今度は顔を赤らめることなく堂々と言った。


「もう予想がついてると思うけど、俺と大木さんが黒子の正体だ。はっきりは覚えてないけど、白石さんが殺された直後くらいにオオカミ使いに起こされたんだ。それで今無月島で起こっていることをを説明されて、これ以上の被害が出ないように協力してくれって頼まれた」

「最初は何が何だか分からないでパニックだったが、俺たち自身が殺されていなかったことからすぐに源之丞さんの言葉を信じたよ。ただ、必要なことだったとはいえ皆を襲って怖い目に遭わせたことについては申し訳ないと思っている。本当にすまなかった」

「お、俺も!」


 大木が頭を下げたのに続いて、慌てながら四宮も頭を下げる。

 当然彼らを責める声などでない。

 二人の謝罪が終わると同時に、今度は波布が口を開いた。


「なんとなく橘の策がどんなので、それを聞いたやつらが結果的にどう行動したのかは分かったけどよ。そもそもオオカミ使いが味方に付いてくれるんだったらそんな小細工なんかせずにすぐさま裏切者を捕まえに行けばよかったんじゃねぇか? オオカミ使いは基本的にどこからでも現れることができたし武器だって豊富だったはずだろ? わざわざこんな回りくどいことした意味がよく分かんねぇよ」


 それなりに的確な質問。橘も最初はオオカミ使いに協力してもらい、すぐさま裏切者を捕える予定でいた。だが、予想外のことがいくつかあって――。

 橘が質問に答えようと口を開く。が、それよりも早く天童が言った。


「全く、あんたは全然人の話を聞いてないわね。橘が最初に言っていたグループ分けを思い出しなさい。この島には、ゲームマスターの協力者が二人いたのよ。しかもそれぞれゲームマスターに秘密で、今回のゲームについて一定の知識を与えた仲間を作ってさえいる。裏切者を捕まえようにも、そもそも協力者二人のうちどちらが裏切っているのか分からないし、仮に分かったとしてもいったい何人の仲間を作っているのかが分からない。相手には爆弾という切り札がある以上、とりあえず二人とも捕まえるなんて言うのもリスクが高すぎる。だから小細工を仕掛けて、爆弾を使わせないようにしながら全員をほぼ同時に捕まえる必要があったのよ」


 そうよね、と確認するように視線を橘に飛ばしてきたので、こくりと頷きを返す。

 またしても論破された波布には申し訳ないが、天童の言ったことはほぼほぼ橘の考えと同じで、何一つ間違っていない。

 オオカミ使いに協力者が二人いると言われるまでは、橘も波布と同じように考えていた。だが協力者が二人いて、どちらも仲間を作っている可能性が浮上したため泣く泣くこの考えを放棄。かなり面倒ではあるが、より安全と思われる策へ変えざる負えなくなったのだ。


「さて、ついでに私も質問させてもらおうかしら」


 半ば回想にふけりかけていた橘に向かって、天童が言う。


「助かった今となってはこんなことを聞くのに意味はないのでしょうけど、少し気になったことがあるわ。なぜあなたはその二つの策――オオカミ使いへの助力申請と裏切者の妨害――を千谷さんと伊吹さんに頼んだのかしら? 今までの話からすると、結局浜田さんの計画が功を奏して、二つの策を両方成就させているわ。つまり二人へ頼み込んだのは完全に無駄だったということ。どうして頼りになる人がいたのに、裏切者の仲間かもしれない人物にわざわざ声をかけたのか。そこを聞かせてもらいたいわ」


 やや棘のある口調。これは僕に対してというよりも、自分が一切役に立たなかったことへの苛立ちからだろう。少しでも自尊心を回復させたくて、ついつい攻撃的になっているようだ。

 あまり彼女のプライドを傷つけないよう注意しつつ、橘はやんわりと答えた。


「浜田さんを頼らなかったのは、単独行動をとるのと同じ印象を裏切者に与える恐れがあったからだよ。すでに二度説得に失敗した浜田さんのもとに、僕一人で訪れる。浜田さんの力がどうしても必要な理由があれば別だけど、そうじゃないなら裏切者に怪しまれる恐れが高いよね。特に浜田さんはゲーム初めから部屋に一人でいたにもかかわらず、殺されずにぴんぴんしてた。そんなわけで、浜田さんを通して僕とオオカミ使いが繋がってるかもしれないと裏切者にばれやすくなっていたと思う。

 それからもう一つは、僕がオオカミ使いと接触した後、裏切者の妨害をする役割に浜田さんは向いてないと思ったから。なんせ彼は部屋から出ない引き籠り役を演じてたからね。突然部屋に籠るのをやめて皆に合流したら、それこそ怪しまれるだろう。

 僕が千谷さんたちに頼み込んだのはそうした理由からだよ。納得してもらえたかな?」


 舌打ちをして、どこか不満そうながらも天童は引き下がった。

 ようやく質問の波も終わり、第二の策についても話し終わった。

 残りの説明はあと少し。正直そろそろ終わりにしたいので、手早く進めていこう。


「じゃあ最後、僕が裏切者とその仲間を捕まえるために何をやったのか。そして、その間に行われていた地下迷宮での二つの出来事について話していくね」

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