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無月島 ~ヒツジとオオカミとオオカミ使いのゲーム~  作者: 天草一樹
第三章:視点は再び橘礼人

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橘の思考

「――まず爆弾が仕掛けられてると思った理由だけど、仮に裏切者がいたらどんな結末を想定しているのか考えてみた結果なんだよ。皆分かるとは思うけど、ここで言ってる裏切者っていうのはオオカミ使いの目的を知ったうえで、その目的に逆らった独自の行動をとっている人のこと。で、その裏切者はもちろんオオカミ使いと敵対することを想定していたはずだ。でも島中のいたるところを監視しているオオカミ使い相手に、敵対するとしてもどうすればいいのか? まず最初に思いつくのは、裏切っていることを悟らせないように近づき、隙をついて殺すことだ」


 橘はぐるりと全員を見回す。


「しかしこれはかなりリスクが大きい。オオカミ使い――如月源之丞さんの強さを知っていたなら、不意を衝いたとしても接近戦で勝てる確率はかなり低いことが分かるし、その襲撃で失敗すればそいつの計画も全てご破算になってしまう。そうした理由から不意を衝いた襲撃でオオカミ使いを殺すつもりはないと思えた。じゃあ、不意を衝く以外でオオカミ使いを殺す方法はあるのか?」


 皆が自ら答えを導きだすことを信じて、話すのをいったん止める。ほとんど待つこともなく、天童が答えを言った。


「遠隔操作による攻撃ね。それも自ら動かずに行えるもの。成る程、そう考えると爆弾が仕掛けられているという答えを導き出したことも不思議とは言えないわね」

「いやいや、不思議のまんまだって。ちゃんと説明しろよ」


 一人納得した様子の天童に対し、波布が愚痴をこぼす。天童同様、なぜ爆弾の存在に思い至ったのか分かった人もいるようだが、まだ大半の人が分かっていないようなので更なるヒントを提供する。


「ここで僕が重きを置いたのは、本来オオカミ使いの協力者であった裏切者は、すでに一度無月島に来たことがあるはずだってことなんだ。つまり、裏切者だけは事前に何らかの罠を仕掛けられたということ」


 はたと手を打ち大木が声を上げた。


「俺にもようやく分かったよ。裏切者がオオカミ使い――ええと如月源之丞さんだっけ?――を倒すには、やっぱり不意を衝いて攻撃するしかない。でも近づいての攻撃だと防がれる恐れがあるから、遠距離からの攻撃が望ましい。とはいえ銃や弓で狙おうにも相手は島全体を監視してるわけで、まず成功することはない。そうすると取れる行動はあと一つだけで――」

「オオカミ使いに内緒で罠を仕掛けておいて、チャンスが来た時にそれを遠隔操作で発動させればいいってことか! 遠隔で操作できて殺傷能力も高いものってなると、確かに爆弾だろうって発想に至るわな」


 大木の言葉を横取りして、さも自分が考えたかのように波布が言い切った。

 数人から冷めた視線が波布に降り注ぐが、本人は全く気にしていない様子で橘に質問した。


「お前が爆弾を仕掛けられてるかもと思った理由は分かったが、そもそも何で裏切者がいるなんて思ってたんだ? オオカミ使いの野郎が本気じゃないって考えてたのはいいけど、そこからどうして裏切者の存在に思い至ったのかがよく分かんねぇ」


 橘は音田と望月から視線をそらしつつ言う。


「オオカミ使いに協力者がいるって考えたとき、その協力者ってどんな人かなぁと思ってさ。当然その協力者たちは無月島で行われるゲームが偽物で、実際に殺人が起こったりしないことは知ってたと思う。でも、何か罪を犯したわけでもない唯の一般人を拉致して、一生もののトラウマになるかもしれない経験をさせる。そんなことに協力する人って、少なからず性格が歪んだ人なんじゃないかと思ったんだ」


 もしかしたらすっごく睨まれてるかもと思い、横目でこっそりと協力者二人の様子を窺う。有難いことに二人とも気にしていないらしく睨まれてはいなかった。が、天童や多摩から怒りのこもった視線が飛んできていた。

 一瞬なぜ睨まれているのか分からず困惑するも、すぐに自身の失言に気づき冷や汗が腕を伝う。そんな内心の動揺を悟られないようにしながら橘は続けた。


「それにオオカミは集められた二十四人の中にいるって話だった。もしその協力者が源之丞さんと同じくらいの年齢の人であったなら、そこまで変な気は起こさないかもしれない。でも、僕たちの中にいるってことはその協力者の年齢は高くても二十ちょっと。若気の至りってわけじゃないけど、何か大胆な行動に打って出る可能性があるかもしれない――と、そんな危惧をしたわけです。まあ普通に万が一の保険としての役割程度にしか考えてなくて、白石さんが死ぬまではそれ以外に何もアクションは取らなかったからね。もし最初から本気で危惧していたのなら白石さんの死も防げたかもしれないし、全く誇れることではないよ」


 そう、白石さんの死は本気で想定外だった。僕たちの中の誰かを殺してしまえばその時点でオオカミ使いに自身の裏切りがばれるわけだから、もし本当に裏切者がいるとしても一番最初に狙うのは源之丞さんだと思っていた。源之丞さんが数人を襲い皆にゲームが本気であると思わせた後、爆弾を爆発させて源之丞さんを殺害。その後は自分も死んだふりをするなどして離脱し、オオカミ使いを演じつつ全員を殺していく。おそらくそんな計画だと考えていたのだが……誤算が二つ。

 一つは裏切者が羊の中から仲間を作っていたこと。人を殺すような計画に安易に賛同する人がいるとは思えなかったし、仲間を作るということはその分ばれるリスクが増えるということでもある。だからわざわざそんなリスクを冒すはずはないと考えていた。

 もう一つはオオカミ以外にも羊の中に源之丞さんの協力者が紛れていたこと。協力者がまさかオオカミだけとは考えていなかったが、羊の中に紛れ込ませている可能性は想定していなかった。

 ――いや、これは言い訳だ。

 可能性自体は考えていたが、実際に殺人を犯そうとする人などいないと高を括っていた。それこそ、あの源之丞・・・さんが自身の協力者に選ぶような人であることを忘却していたのは、完全に僕のミスだった。

 後悔の念を振り払うために首を大きく横に振る。

 すでに過ぎ去ったことを後悔しても遅い。今は生き残った人たちに説明することが僕の役割だ。

 橘はまっすぐ前を向きながら言葉を紡ぐ。


「まあ以上が僕がルール説明を聞いた後に実行した策と、それに至るまでの思考だ。しかし浜田君にこの策を話した帰りに源之丞さんが襲ってきたときは驚いたね。的外れな考えをしていた僕を殺しに来たのかと思ったから。でもあれは千里が言っていた通り、緊急時に僕たちがどう動くのかを見るために仕掛けたものだったみたいだよ――源之丞さん曰く」


 ガクン。突如部屋が震えた。

 忘れかけていたけれど、今は飛行機の中。ほとんど揺れることなく飛んでいたから気にしてなかったが、場合によっては飛行機事故で全員死んだりする可能性もまだ残ってるんだよな、などと考える。

 とはいえ操縦しているのは源之丞さんだし、万に一つもないことだと思うけど。

 さて、そろそろ次のステージに話を進めていこう。


「浜田さんに策を頼んだ後は白石さんが死ぬまで特に何もしなかった。というのも、浜田さんに託した策が成功するかどうか分かるにはしばらく時間がかかるし、その間は他にできることもなかったからね。あ、因みにどうやって策が成功したかどうかを知らせるつもりだったかだけど、これは単純に浜田さんが部屋から出るか否かで判断することになってた。僕の考えが間違っていた場合、オオカミ使いは浜田さんを殺害しているだろうからどうせ部屋からは出てこない。もし部屋にやって来なくて交渉自体ができていないなら、そのまま部屋で待機。交渉に成功した場合のみ、僕たちの目の前に姿を現すって約束だった。

 で、次に僕が動いたのは白石さんが死んだ後なんだけど――」

「おい、ちょっと待てよ。白石が死ぬ前に大木と四宮が殺されたはずだろ――結果的には生きてたけどよ。お前はそん時何か行動を起こそうとは思わなかったのか?」


 またしても波布が口を挟む。

 質問は後にしてくれと言ったはずだけど、すでに記憶から消去されているのだろうか? まあそんなに長くなることでもないし答えるけど。


「確かにその時点ではオオカミ使いが本気かどうか断定できてなかった。でも二人が襲われたからって、そもそも僕にできることって特にないんだよ。オオカミ使いが本気にしろ本気でないにしろ、僕たちを殺していく態を取るつもりなのは明らかだったんだ。館に戻って浜田さんの無事な姿、もしくは死んだ姿を見るまではやれることなんてない。だから、その時は被害が大きくならないよう率先して逃げるように皆を促した。そのせいで千谷さんには思いっきり顔を殴られたけどね」


 殴られた方の頬をさすりながら言うと、千谷が恥ずかしそうに顔を染めながら言った。


「その件はすみませんでした……。でも、仮に今の話を先に聞いてたとしても、私はあの時逃げるという選択肢は取らなかったと――いえ、絶対取りませんでした。誰かを犠牲にして自分だけ生き残るなんて、私は我慢できませんから」

「全く、知恵のない人ほどそういった感情論が好きよね。あなたがあの場でゲームマスターに挑んで行ったところで的が一つ増えるだけに過ぎないでしょうに。どうせ役に立てないんだからせめて邪魔をしないようにじっとしていればいいものを」

「一時は随分と大人しくなっていたのに完全に復活したみたいですね、天童さん。それから役に立てないという点ではあなたに言われる筋合いはありませんよ。まんまとオオカミに騙されて利用されていたあなたには」

「ふん……」


 千谷に言い返されて天童が黙り込む。

 何だかこの二人の掛け合いも久しぶりだなと思い、ちょっとだけ感慨深い気持ちになる。あの島にいたときとは違い、今は天童よりも千谷の方が優位に立っているのが少し面白い。どうして天童が言い返せずに黙り込んだのか分からない人もいるようだし、そろそろ話を再開させてもらおう。


「話を戻させてもらうけど、次に僕が動いたのは白石さんが死んだ後のことだ。波布君を始めとしてそれなりの人が気付いてたみたいだけど、白石さんはオオカミ使いに殺されたのではなく藤里さんに殺された可能性が濃厚だった。そこから判明することは、羊側から裏切者が出ていてしかもそいつはオオカミ使いの味方ではないということ。つまり、最初に考えていた最悪の状況が実現しているってことだ。

 だから僕は、この最悪な状況を打開するために新たな策を仕掛けることにした。策の内容は、オオカミ使いへの助力申請と、裏切者の足止めだ」

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