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無月島 ~ヒツジとオオカミとオオカミ使いのゲーム~  作者: 天草一樹
第三章:視点は再び橘礼人

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四つの勢力

「望月さんからはあまり質問がないみたいだし、説明を開始するね」


 橘はぐるりと全員の顔を見回した。

 緊張や期待、無関心。それぞれいろんな表情を浮かべて席に座っている。

 この雰囲気の中、皆が納得するように順序立てて話していかないといけないのか。そう思うと、少し話す気が失せてくる。ちょっとだけ期待の視線を込めて隣にいる李を見つめてみるが、肘でわき腹を小突かれた。

 地味に痛い。

 やや涙目になりながらも、橘は渋々口を開いた。


「まず大前提として皆に知ってもらいたいのは、無月島には異なる目的を持った四つのグループが存在したってことだ」


 一応このことは伝えておいたため、特に驚きの声は出ない。ただ、その四つのグループがどんなものなのかは伝えていないし、だれがどのグループに属しているのかも分かっていない。まずはその辺から話していくか。


「では、四つのグループとはどういったものか。


 まず一つは、千里や波布君を代表とするヒツジグループ。純粋に無月島で行われたゲームに参加しており、その攻略を目的としていた人たち。今現在、もっともこの状況に対する理解ができていないのが、彼らのグループだろうね。


 次に、望月さんをリーダーとするオオカミグループ――もとい叛逆者グループ。無月島に来る前からここで行われるゲームについて知っており、ゲーム攻略とは別の目的で動いていた人たち。正直ここのメンバーは少しややこしくて、必ずしもオオカミである望月さんに従っていたわけではないんだけど……まあその話は後回しかな」


 ちらりと望月に視線を向けてみる。

 無表情――というよりは諦めに似た表情。彼女からしてみればここら辺の話は周知の事実だから退屈なのかもしれない。

 少し視線をずらし、今度は音田を見つめる。爆発の際に腕を怪我したらしく、痛そうにしながら時々腕を揺すっている。今の彼女の関心はどうやらそちらにあるようで、話を聞いているのかいないのか。

 これから音田さんにも話してもらわないといけない場面が来るのに。そう思い、ちょっとだけこの先の展開が心配になる。


「さらに三つ目、音田さんをリーダーとする守護者グループ。守護者って言うと少し分かりにくいかな? 具体的には無月島内で想定外の事態が起こらないように見張っていた人たちのこと。それからもう一つ大事なこととして、このグループのリーダーである音田さんはオオカミ使いの協力者でもある。立ち位置としては少し変わってて、オオカミ使いの協力者ではあるけど、オオカミ使いの味方をするわけではない。要するに、僕達ヒツジの反応を生で観察する役目を負っていたんだ。ただ、この守護者グループ自体は音田さんが独自に作ったもので、オオカミ使いには知らされていなかったみたいだけど」


 この説明であってるよね? そう確認を込めて音田を見るが、やはり話に興味がないらしく、そっぽを向いたまま体をふらふらと揺らしている。

 少し悲しくなってきたけど、今はしょげている場合ではない。

 橘は自分を奮い立たせ、今この場にはいないオオカミ使いの方を見やりながら言った。


「最後は、もう分かると思うけどオオカミ使いグループ。このグループは前の二つのグループ――叛逆者グループと守護者グループ――とは違って、結束したのは白石さんが死んだあと。つまり、この島に皆が集められて以降に作られたグループだ。主な活動は、裏切者の判定と捕捉。結果論から言わせてもらえるなら、オオカミグループを捕まえることを目的としていたわけだね。

 以上四つのグループがこの島には存在してたってことを、一応頭の中に入れといてね」


 一旦話を切り、皆の顔を見回してみる。

 まあ予想通りというか当然というか、疑問点が解消されたわけではないために、早く続きを話せという視線がガンガン飛んでくる。

 取り敢えずはこれで前提として知っておいてもらいたいことは話せたので、ここからが本番。皆が疑問に思っていることについて一つずつ話していこう。と、その前にもう一つ言うべきことがあったか。


「今僕が皆を代表して話しているのは、無月島で起こっていたことを一番理解できているからだ。でも、どうしてオオカミ使いの仲間でもない僕がそうした立場に立てたのか。疑問に思っている人もいると思うんだよね。この理由はそんなに難しくなくて、単に皆より多く情報を持っていただけの話なんだ。まだ知らない人もいるから話すけど、今僕の隣に座ってる如月さん。彼女はオオカミ使い――如月源之丞さんの孫なんだよ」

「へー、そういうことだったんだ―」


 藤里(・・)がわざとらしく呟く。満身創痍、というほどではないが、彼女の腕や足にはいくつも青痣ができており、かなり痛々しい姿になっている。というか当初施されていた化粧が全て落ちており、もはや別人では? と思えるほど変貌している。

 何があったのかは詳しく知らないので、後々時間ができたら聞こう。そう考え、橘は藤里について触れず話を再開した。


「僕は如月さんと幼少期の頃に知り合ってて、その関係から彼女のお祖父さんのこともそれなりに知ってたんだ。加えて、かつて如月さんが住んでいた家は、無月館と全く一緒の作りだったんだよ――流石に隠し扉のこととかは知らなかったけど。とにかく、そうした過去の記憶から、僕はオオカミ使いの正体をぼんやりとだけど察することができていた。つまり、オオカミ使いがやろうとしている殺戮ゲームが偽物だと判断しやすい立場にいたんだ」

「……今更こんなこと聞くのもあれだけどよ、本当にオオカミ使いの野郎は殺人鬼じゃなかったのか? まあ、あそこでピンピンしてる大木(・・)四宮(・・)がその答えなんだろうが……」


 おとなしく端の席に座っていた二人を見ながら波布が言う。

 オオカミ使いに銃で撃たれ、死亡していると思われていた大木と四宮。今の波布の言葉通り、銃で撃たれた様子など一切なく、怪我一つない五体満足な姿で席に座っている。

 波布の言葉につられ、皆の目が二人に集まる。突如注目の的となった四宮と大木は、恥ずかしそうに顔を赤らめ、「ご心配をおかけしました」と小声で謝罪した。

 そんな二人の様子をまじまじと見つめていた真目(・・)が、疑問を抑えきれなかったのか、目をぱちくりさせながら口を開いた。


「ふーむ、ところでどうして二人は生きてたんですか? 銃で撃たれて死ぬところを、確かにC班の人は見てたんですよね? いくら何でも見間違えたりはしないと思うのですが……はっ、まさか! 実はオオカミ使いさんはネクロマンサーで、一度殺した後に二人を蘇らせたのですね!」

「真夜ちゃん、流石にそんなわけないよ。本物の銃じゃなくて、きっとペイント弾か何かだったんじゃないかな」

「ぬお! 明子ちゃんが私に突っ込んでくれるなんて! ここでの事件を経て明子ちゃんも一歩成長したんですねぇ。お母さんは嬉しいです」

「もう、そういうおふざけは後にしてよ。話が全然進まなくなるから。すみません、どうぞ先を続けてください」


 真目の口を押えつけながら、星野が恥ずかし気に頭を下げる。真目が言った通り、今回の事件を通して何か得るものがあったのか、星野の表情は最初に比べて明るく見えた。というか、最初に比べて前髪が横に流れており、素顔が見えやすくなっている。おそらくそのために、明るい印象が芽生えつつあるのだろう。もしくは、真目が無事に生きていたことが嬉しくて、単にテンションが上がっているだけかもしれない。

 どちらにしろ、暗くなるよりは遥かにましなので、橘的には文句なしである。

 真目の口が閉じられたのを見計らい、四宮が口を開いた。


「ああと、俺らが生きてたのは星野さんの言う通り、オオカミ使いの撃った銃が本物じゃなかったからなんだよ。詳しくは知らねぇけど、麻酔弾とペイント弾を複合させた特注の弾丸だったとかで、怪我とかは全くしてないんだわ」

「むぐむぐ、ぷはぁ。それで眠らされた後はどうしてたんですか? ゲームが終了するまでずっと夢の中でお散歩を?」

「しばらくは寝かされてたんだけどよ、起きてからは結構――」

「待った! その先を話されるとこっちの順番が狂うから、先に僕に喋らせてもらえるかな」


 四宮の言葉を遮り、橘は話の軌道修正を試みる。


「真目さんの質問でもともとの話題から外れちゃったけど――オオカミ使いは殺人鬼じゃないよ。今の四宮君の話からも分かるように、オオカミ使いは元から僕たちのことを殺すつもりなんてなかったんだ。殺したように見せかける仕掛けをしてただけで、実際に殺傷能力のある武器は使ってない。彼の真の目的については僕もよく分かってないんだけど、少なくとも無月島で殺し合いをさせるつもりなんてなかったんだ」

「でも、白石さんは本当に死んじゃいましたよね……」


 沈鬱な声で、空条が呟く。

 無月島にて唯一死んでしまった人物――白石天。

 裏切者の存在を発覚させる出来事であり、未然に防ぐことのできなかった最初で最後の殺人。白石を殺した張本人である藤里はそのことに罪悪感を抱いていないようで、素知らぬ顔で聞き流している。

 そんな藤里の態度に怒りを覚えているらしく、千谷や多摩(・・)は憎悪のこもった視線を彼女に向けている。

 このままだと場の雰囲気が悪くなる一方だと思った橘は、無理やり話を戻した。


「白石さんのことは本当に残念だと思う。ただ、彼の死だけはどうしても避けられなかったことなんだ。それまでは本当にこの中に裏切り者がいるのか、誰か人を殺そうとする愚か者がいるのか分かってなかったんだから。こんなことは白石さんのためにならないのは分かってるけど、彼の死を無駄にしたつもりはない。今この場に、彼以外の全員を死なせることなく助けることができたから。

 と、そろそろ本筋の説明に入らせてもらってもいいかな。できれば質問は後にして、僕が聞いた時のみだけ答えてほしい。そっちの方が皆を納得させやすいと思うから」


 あまり口出しをしてこないようくぎを刺す。

 橘の言葉を聞き、各々姿勢を正して聞く姿勢になる。

 全員の準備が整ったところで、再び橘は口を開いた。

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