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舞台は飛行機

初めだけオオカミの一人称です

「っ、ここは……?」


 私は鈍い痛みを感じて目を覚ました。

 後頭部がなぜかじんじんする。反射的に頭へ手を伸ばそうとするが、うまく体が動かせない。不思議に思って自分の体を見下ろしてみると、細長いロープのようなものが体に巻き付いていた。

 通りで体が動かせないわけだと納得すると同時に、ふつふつと直前の出来事が思い浮かんでくる。館内での突然の爆発。意味が分からず地下迷宮内へ逃げこみ、そこで礼人が襲ってきたこと。それを撃退したのはいいけど、背後から頭を殴られて――


「おい、オオカミが目を覚ましたようだぜ」


 近くから声が聞こえる。無月島に来て、もしかしたら一番聞いてきた声。

 私は顔を上げて、周りを見回してみた。

 白色で統一された無味乾燥な部屋。窓の類は一切なく、天井にはまばゆい輝きを放つ蛍光灯。部屋の両側は電車などで使われるロングシートが取り付けられている。シートには無月館に集められた人たちが座っており、彼らの視線は一様に私に向けられていた。

 ――今ここにいるのは、二十三(・・・)人、か。結局一人しか減らなかったんだ。

 ようやく、頭が働き始める。ここは皆を連れてくるのに使った特注の護送機の中だ。となれば、今は本土に向かって飛んでいる最中か。あの人を裏切っていたのが私だと分かり、ゲームを中止したのだろう。まあ身体検査をされれば、私が持っていた爆弾の起爆装置も見つかったことだろうから仕方がないか。


「大丈夫か、おい。……なあこいつ、目の焦点があってないぞ。頭の打ちどころが悪かったんじゃないか?」

「意識ははっきりしてるから大丈夫」


 もしかしたら一番聞いてきた声――もとい波布の呼びかけに応じる。

 こうなってしまったのなら仕様が無い。今から質問攻めされるだろうが、腹をくくって答えていくしかないか。いや、その前に私から質問させてもらわないといけないかな。なぜ私の計画が失敗したのか、その理由を。


「みんな私に聞きたいことがいっぱいあると思うんだけど、その前にどこまで今回の事態を理解しているのか聞いてもいい? 私が気絶している間に、もうほとんどの事情は話し終えたのかな」


 おそらくここで回答する人物こそが私の計画をご破算にした張本人だろう。そう考え、耳を澄ませて誰が答えるのかを待つ。


「まだほとんど何も聞いてねぇよ。つうか本当にお前がオオカミなのか?」

「波布、少し――いや、永遠に黙ってなさい。どうせあんた何も理解してないんだから、口にチャックして死体の物まねでもしてなさい」


 ……また波布が答えた。とりあえず彼は今回のことに何の関わりも無いらしい――予想はしてたけど。それにしても、天童・・さんの声は久しぶりに聞いたな。今の発言からするとほとんど本調子に戻ってるみたい。彼女も別に頭が悪いわけではないし、ここでの出来事をおおよそ理解したのかな。

 目は宙を見つめながら、ボーっとそんなことを考える。

 天童に叱られて波布が静かになると、彼女はある人物へと話を振った。


「さて、悔しいけど私も今回の事件について全てを理解しているわけではないのよね。オオカミも目覚めたことだし、そろそろ全部話してくれないかしら――橘君」


 やはり、彼か。橘礼人、彼こそが私の計画をつぶした陰の主役。オオカミ使いを捕まえた時にやってきたことから、もしかしてとは思っていたが。


「そうだね。事件の関係者はそろったし、無月館で行われていたことについて話していこうか。と、その前に、オオカミさん――望月美加・・・・さんから、何か聞きたいことがあったら質問していいよ」


 わざわざ質問のチャンスをくれるのか。礼人君はやっぱり優しい。あの人が特別に選び出しただけのことはある。

 さて、たくさん質問したいことはあるけれど、目下聞きたいことは一つだけだ。

 私は真正面に座っている礼人の目に、しっかりと自分の目を合わせて聞いた。


「私って何時間くらい眠ってたのかな? この護送機が無月島を出発してからどれぐらい経ってる?」


 正確な時間は覚えていなかったのか、礼人は「あー」と言いながら目をそらす。


「まだ出発してから十分ちょいだ。他に聞きたいことはあるか」


 中々答えの出てこない礼人の代わりに、その横に座っていた李が答えた。

 私は緩やかに首を横に振ると、ホッと息をついた。

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