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無月島 ~ヒツジとオオカミとオオカミ使いのゲーム~  作者: 天草一樹
第二章:視点はおそらく李千里

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それは油断か故意か

「お前と如月だけで話させてほしいだと? 悪いがそんな危険なことを許すわけにはいかないな」


 橘の提案をあさっりと跳ねのけ、李は首を横に振った。


「こうして鎖で縛っているとはいえ、この男の身体能力はお前や如月のそれよりもはるかに上だ。万が一にも逃げられるような隙を作るわけにはいかないし、このゲームをすぐさま終わらせられるなんてうまい話があるとも思えない。どうしてもというのなら、お前が考えているその案を全て俺に説明して納得させてからにしろ」

「こっちこそ悪いけど、それは説明できない。ただ、僕と如月さんのことを信じてもらうしかない」

「お前、今自分が疑われていることを分かったうえでそんな発言をしてるのか? 俺を含め、そんな戯言を信じる奴なんてここには――」

「私は信じるよ」


 李が言い切る前に、望月が賛成の声を上げた。

 唖然とした表情で李が固まる中、橘の顔をしっかりと見ながら望月は続けた。


「私は、礼人君のことを信じてる。それにオオカミ使いだってこれだけ鎖で縛られてれば好き勝手はできないだろうし、礼人君と如月さんの二人だったら十分対処できると思う」

「あなた、またそうやって橘君のことを無条件に信じるなんて……」


 橘に対する過剰な信頼を諫めようと如月が口を開く。が、望月の強い意志が込められた目を見て、ピタリと口を閉ざした。

 如月が口を閉ざしたことで、全員何を話していいかわからずに黙り込む。

 きょろきょろと周りを見回していた波布が、堪え切れなくなったのか突然声を上げてわめきたて始めた。


「おいおいお前ら、何納得する流れになってんだよ! 何で望月まで賛成してんのか知んねぇけど、オオカミかもしれない奴をオオカミ使いと二人きりにさせるなんて認められるわけねぇ! 星野、速見、お前らだって俺と同じ意見だよな?」


 いまだに口を開かず静観を保っている二人に聞くが、


「如月さんもいるから二人だけではないかと……」

「現状オオカミを捕まえる手段はないわけですし、このゲームを素早く終わらせられる可能性があるなら一度試してみるのもいいのではないでしょうか?」


 波布の期待とは裏腹に、星野も速見も橘の意見に賛同する気配を見せる。

 一気に仲間を見失った波布は、ショックを受けた様子で二人の顔を交互に見まわす。そして、自分の考えが不利だと覚り焦ったように李に問いかけた。


「お、おい、お前はもちろん反対だよな? こんな博打みたいなことしなくても、お前だったらオオカミを捕まえる方法は思い付くだろ?」

「俺は……」

「礼人君のこと、本心では信じてるんだよね。いつもは礼人君に対して冷たく接してるけど、それも一種の信頼の証でしょ? 礼人君だったら自分が手を貸さなくても何とかするだろうし、できるだけ自由に動いてもらいたいと思ったからリーダーもやらせなかった」


 苦々しい顔をした李が口を開くのに被せ、望月が言葉を紡ぐ。

 結局何も言えなくなった李を見て、波布は諦めたように肩を落とした。

 そんな波布を励まそうと、速見が宥めるような口調で言う。


「波布さんが心配する気持ちも分かりますけど、あまり気にする必要はないと思いますよ。これだけ疑われた状態でまさか油断することもないと思いますし、万が一にも取り逃がしたのならそれこそ橘さんがオオカミであることの証明になるはずです。だから橘さんがオオカミだろうとそうでなかろうと、オオカミ使いを逃がすようなへまはしないでしょうから」

「……そこまで言うなら別に構わねぇけどよ。もしこれでオオカミ使いに逃げられたら、ちゃんと責任もって捕まえる策考えろよ。俺はこんなところで死ぬつもりなんて毛頭ないからな」

「もちろんそれは僕たちも一緒ですよ。そもそも橘さんの提案に乗るのは、一刻も早くこのゲームを終わらせて家に帰るためなんですから」


 渋々と言った様子で波布が頷くのを見届けると、全員の視線が再び李へと集中した。


「李さん。オオカミ使いを捕まえられたのはあなたのおかげですし、もしあなたがどうしても橘さんの案を受け入れられないというのなら、僕たちもそれに従います。最後の判断を任せるようで申し訳ないですが、もう一度、李さんの答えを聞かせてください」


 皆の言葉を代表するようにして、速見が告げる。

 李は一度橘へと視線を向けると、苦悩した表情のまま小さく頷いた。


「……分かった。礼人と如月の二人に、オオカミ使いの説得を任せる」

「うん、任されたよ」

「善処するわ」


 許可が下りると同時に、橘と如月は真剣な表情で頷き返した。

 いまだにもやもやした表情の波布が、率先して部屋の外に向かい始める。やると決まった以上、さっさと終わらせてほしいと考えているのだろう。

 波布に続いて、他のメンバーも橘と如月に少し頭を下げた後静々と部屋の外へと出て行く。

 最後まで残っていた李は、何か言おうと橘に向かって口を開きかけるが、何も言葉が出てこないのかパクパクと口を開いた後結局黙ってしまう。

 そんな李に同情したのか、如月がいつもと変わらぬクールな態度で言った。


「橘君のことが嫌いなあなたからしたら心底信用できないでしょうけど、今回は私もついてるわ。何かあったらすぐに呼ぶから、あまり気負いすぎずに待ってなさい」


 本心では李と橘の仲がいいと考えている如月からすると、茶化しているような発言。如月の真意がどこまで伝わったかは定かではないが、重い足取りではあるものの李は医務室から出て行った。

 医務室には橘と如月、そしてオオカミ使いの三人だけとなる。

 如月は誰かがここでの話を聞こうと聞き耳を立てていないか、扉に近づいて確認する。そして、完全に三人だけであることを確信すると、先程からずっと黙ったまま床に転がっているオオカミ使いのもとまで歩いていき、小さな声で言った。


「久しぶりね、お爺様。当時と全く変わらずご健勝なようで、何よりだわ」




 橘ら三人が医務室での話し合いを始めてから五分後。

 医務室を出て以来ずっとソワソワしっぱなしの波布が、堪え切れずに扉に張り付き始めた。

 そんな波布をぐいぐいと引っ張りながら、望月が小声でお叱りする。


「波布君、もっと扉から離れて。そんなところにいたら中の話が聞こえちゃうよ」

「馬鹿、聞こうとしてるからこうして扉に張り付いてんだろうが」

「だったらなおさらダメだよ。何の話をしてるのかは分からないけど、聞かれたくない話だからこうして私達を追い出したんだし」

「でも気になるじゃねぇか。こんな状況下でも俺たちに聞かれたくない話で、かつオオカミ使いにこのゲームを終わらせるような話ってのはよ」

「それはそうだけど……。うー、速見君も見てないで引きはがすの手伝ってよ」


 張り付く波布。引っ張る望月。

 絵的にはかなりシュールな光景が繰り広げられており、星野が若干引いた目で二人を眺めている。

 速見が苦笑をこらえきれないといった様子ながらもそんな二人に参戦しようとしたとき、突然医務室の中からドン、という重いものが倒れるような音がした。

 その音に驚いて波布が転び、それに引っ張られる形で望月も転倒する。

 速見と李は一瞬アイコンタクトを取った後、床に転がっている二人を無視して扉を開け放ち部屋の中へと駆けこんだ。

 多少の予想はしていたものの、中の光景は考えうる最悪な状況。

 橘一人が仰向けに床に倒れ伏し、オオカミ使いと如月の姿が跡形もなく消えうせた医務室。

 逃げ道はここだと言わんばかりに、隠し通路をふさいでいた棚が倒され、隠し扉も完全に閉まってただの壁になっていた。

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