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無月島 ~ヒツジとオオカミとオオカミ使いのゲーム~  作者: 天草一樹
第二章:視点はおそらく李千里

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羊の休息

「…………どうやら誰もいないようだな。いいぞ、入ってこい」


 医務室の中を一通り見渡した後、李は隠し扉の外で待機していた如月と速見に呼び掛けた。

 二人は若干警戒した様子で部屋の中をきょろきょろと見まわしながら入ってくる。

 医務室は特に荒れた様子はなく、李が知る限りほとんど変わっていないように思えた。六台の真っ白なシーツがかけられたベッドに、いろいろな薬瓶が入っている棚。他にも数脚の椅子や小さな丸テーブルが置かれている。あえて以前来た時との差を挙げるなら、ベッドで眠っていた速見が今は医務室を自由に動き回っていること。そして、多摩と藤里、沢知が食べていたと思われる、食べかけの食器がテーブルに三人分残されていることか。


「どうだ、お前たちが地下通路に逃げ込む前と何か変わりはあるか?」


 音を立てないように、ゆっくりと歩いて部屋の中を見ていた二人に問いかける。


「そうね、特に変わったところは無いように見えるわ。黒子たちはこの部屋にやってこなかったのかしら?」

「黒子がオオカミ使いの仲間であるなら、僕たちの居場所を知ろうと思えばいつでも知ることができるはずです。だからリビングで捕まえられなかった人たちを追ったり探したりはしなかったんじゃないでしょうか」

「確かにそうね。相手の位置を確認してから動いたほうが彼らからしても安全でしょうし、無理に追いかける必要はないわね。だとしたら、わざわざ地下へと逃げ込んだのは無駄だったかしら」

「結果オーライじゃないですか? こうして李さんとも再会できましたし、無事に医務室に戻ってこれたのですから」


 二人の会話を聞きながら、李は真っ白なシーツのかかったベッドの上に腰を下ろした。

 オオカミ使いを追ってリビングを出て以来、ずっと動き回っていたためものすごく体が疲れている。医務室に置かれてある時計を見てみると、時刻はまもなく午後十時になるところだった。

 この館で目を覚ましたのがだいたい午前十一時半であるから、およそ半日が経過したことになる。

 普段そこまで体を動かすことのない李としては、そろそろベッドに倒れ込み、朝まで熟睡したいという思いが強い。もちろんそんなことをしていられる余裕はないが。

 ベッドに横たわりたいという気持ちを抑え、李はベッドから腰を上げて二人を見た。


「とりあえず他の部屋も見回りたい。まだどこかの部屋で一人、黒子たちから身を隠し続けている奴がいるかもしれないからな」


 如月が疲れた様子で言う。


「あなた、ずいぶんと頑張るわね。私としては今日はいったん休んで、明日に備えた方がいいと思うのだけど」

「もちろん俺だって休みたいが、最低でもあと三人は増えないと休息を取るのは厳しいだろ。常に三人は寝ないで見張りをやっていてもらわないと、オオカミ使いが現れた時に対処しきれない」

「あと三人も……」


 全く実現が叶いそうにない数を上げられ、如月が諦めた表情で壁に背中を預ける。

 と、突然「ガチャッ」という音と共に、少しだけ医務室の扉が開いた。

 まさかオオカミ使いがやってきたのかと、身を固めて硬直する三人をよそに、ひょいと扉から顔を出したのは波布だった。

 波布は頭だけを突き出し医務室の様子を窺う。当然すぐに李たちの存在に気づき、驚いた表情で顔を扉の外へと引っ込めた。

 やってきたのがオオカミ使いでなかったことに安堵し、再び体から力を抜いて波布が中に入ってくるのを待つ。

 波布の他にも誰かいるようで、扉の外で何やらぼそぼそと声が聞こえてくる。時間にすると十秒にも満たずに結論は出たらしく、ほどなくして波布と星野、それに望月の三人が安堵の息を吐き出しながらおずおずと部屋の中に入ってきた。

 三人が部屋に入り、扉が閉まったところで如月が口を開いた。


「あなた達も無事だったのね。特に波布はてっきりリビングで黒子たちにやられたのかと思ってたけど」

「うるせぇな。伊吹の野郎がうまくあいつらの注意を引き付けてくれて何とか逃げられたんだよ」


 しかめっ面をして不機嫌そうにそう言い放つと、皆から少し身を離すように部屋の隅っこへと移動する。

 そんな波布の態度に苦笑いしつつ、望月ができるだけ明るい声を出して言った。


「さっきまですっごくビクビクしてたのに、人が増えた途端に強がっちゃって。あ、速見君目を覚ましたんだね。無事でよかった」


 ほっとした様子で速見に笑顔を投げかける。速見も「心配をおかけしました」と言って、笑顔で対応している。

 如月はそんな二人を冷めた目で見ながら、望月に問いかけた。


「あなたも黒子からちゃんと逃げられたのね。星野さんと波布とはどこで出会ったの?」

「私はあの後地下のボイラー室に逃げ込んだんだ。それで、しばらくして誰も来ないのを確認してから、とりあえずリビングに戻ったんだけど、そしたらそこに波布君と星野ちゃんがいたの」

「リビングに?」


 不審そうに如月は波布と星野を見る。星野はこの部屋に入ってきてからずっとうつむいたままで、いまだに一度も言葉を発していない。おそらく真目がオオカミ使いに捕まったことのショックから、今も立ち直れていないのだろう。星野が何も話さそうなのを見て取って、波布が代わりに口を開いた。


「俺はとりあえず二階に駆け上がって自分の部屋に立て籠もったよ。でも部屋の一部が開いて地下と繋がってやがったから、全然気が抜けなくてな。しばらくしても特に誰もやってくる気配がねぇから、部屋から出て通路とか確認してって、んで特に危険がなさそうだったからリビングまで戻ったんだよ。そしたら星野の奴がテーブルの下で縮こまってやがったから引っ張り出して……。とりあえず俺以外にも誰かリビングに戻ってくるやつがいるんじゃねぇかと思って待機してたら、望月がやってきたんだ」

「いくつか疑問はあるけれど、あなたよく星野さんを見つけ出せたわね。テーブルの下を黒子たちが確認していかなかったのも意外だけど、あなたがわざわざ覗いた理由の方が気になるわね。まさか、自分もテーブルの下に隠れようとでもしたのかしら」

「うぐ! ん、んなわけねぇだろ。ガキじゃあるまいし誰がテーブルの下になんか隠れるってんだ」


 明らかに動揺した波布の姿を見て、全員すぐに図星だったことに気づいた。

 いくつもの生暖かい視線を受け、波布は顔を真っ赤にした後、星野を見習って顔をうつむけてしまった。

 波布の照れたような反応により場の空気が若干軽くなる。如月は、無言で三人を観察していた李へと視線を向け、勝ち誇った表情で言った。


「ところで李さん、これであなたが言った休息をとるための最低人数がそろったわけだけど、休んでもいいのかしら?」


 如月の表情に一瞬むっとした李だが、特に異論は挟まず、静かに肯定した。


「そうだな。この六人で交代に寝れば、まあ何とか無事に明日の朝を迎えられるだろう。棚とベッドを動かして隠し扉をふさいでおけば、そうそうオオカミ使いも入ってこれないだろうしな」


 ふぅ、と小さく息を吐き、李は一瞬目を閉じる。


「……いったん各自の部屋に行って替えの服を取ってくるか。風呂に入るのはさすがに無謀だろうが、全員で移動すれば部屋ごとの移動くらいなら問題ないだろう。それから寝る前にトイレも済ませておく必要があるしな」


 そう言うと、それで問題ないかと言った視線を全員に投げかける。当然誰からも異論は出ない。今はただ休みたい。それがここにいる全員に共通した思いであるのだから。

 李の指示のもと、全員で固まって各自の部屋に移動。途中トイレを済ませたり、他に誰か人がいないかを確認していったが誰も見つからなかった。結局全員の用意が整い再び医務室に戻ってくるまでの間、オオカミ使いや黒子が現れることもなく、無事にやりきることができた。

 医務室まで戻ってきた六人は、それぞれ力を合わせて棚を運び、ベッドを動かし、外部からの侵入ができないよう扉を封鎖した。

 一通りの対策を終えた後、各自何時から何時までを担当するのかを話し合う。それらすべてが終わったころには、時計の針は十一時半を指していた。

 一番最初の見張りグループから外れた李は、ベッドの上で横になるとすぐに目を閉じた。明かりを消してしまうと見張りの人まで寝てしまう恐れがあるということで、明かりはつけたままにしている。そのため、目を閉じていても暗いということはない。普段は明かりがついている中だとあまり眠れないほうだが、体中が疲れ切っている今は別だった。すぐに睡魔が襲ってきて、意識が朦朧としてくる。

 夢の世界へと精神が引っ張り込まれていきそうになる中、李は気がかりなことを頭の中に列挙していく。


 今医務室にいない他のメンバーは、まだ地下迷宮で彷徨い続けているのか。

 それともすでにオオカミ使いに捕まり、殺されてしまったのか。

 あるいは森の中で野宿しているのか。

 なぜルールで説明のなかったやつら――黒子が登場したのか。

 いたるところの隠し扉を開け放った理由は何か。

 黒崎はいったいどこへ消えたのか。

 礼人の奴は今もまだ無事なのか。

 速見と如月に、礼人と仲がいいと思われたことが腹立つ。

 俺は礼人のことを認めてはいるが嫌いであって……。


 そんなことを考えているうちに、意識の浮遊感がより一層強くなっていき――いつの間にか眠りについていた。

 これで長い長い一日目が終わりました。さて、ここまで読んでくださっている奇特な方がいらっしゃるのなら、ぜひ聞いてみたいことが。この一話前の話『幕間:オオカミの思考』におけるオオカミの語りは基本的にすべて事実です。疑い深い読者の中にはあの語りを信じていない人もいるかもしれませんが、残念ながら事実です。

 そこで聞きたいことというのは、ズバリ次の三つです。

『オオカミは誰か? およびオオカミの三人の協力者は誰か?』

『オオカミ使いの二人いる協力者のうち、オオカミでないもう一人の人物は誰か? およびその仲間は誰か?』

『上二つに含まれない、ただの羊は誰か?』

 三つ目の質問に関しては、上二つで名前が挙がらなかった人物なわけですから答える必要性はないと言えばないのですが、一応。それと、ここで分けるのは登場人物一覧で名前のある人物に限定されます。

 ちなみに、現時点でこれらをピタリと当てることは不可能(なはず)ですので、個人的な印象から、誰がどのグループに当てはまっているかを答えていただければ結構です。作者的には当然オオカミが誰で、もう一人の協力者が誰でと決まっているわけですが、それがどの程度文章に現れてしまっているのか知りたいという気持ちがありまして、皆様の考えを聞いてみたいのです。

 もし親切にも答えてくださる場合は、感想に書き込んでくださっても構いませんし、私宛に直接メッセージを送ってくれても構いません。

 心より皆様の回答をお待ちしております。

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