親友との再会
リビングには、予想していた通りというべきか、六人ほど人がいた。
そのうちの一人に見覚えがあり、橘は思わず声を上げる。
「千里! 君もいたんだ!」
そこにいたのは、高校時代の親友で、大学も一緒の李千里だった。
体の線が細く、色白で、どこか影のある怜悧な顔つき。別に怒っているわけではないのだろうが、眉間にはしわが刻まれている。
李は一度橘のほうを見た後、何か返事を返すでもなく、すぐに手に持っていた本へと視線を戻した。
………………
しばらく沈黙が流れた後、
「あの人と知り合いなの?」
如月が橘に聞いた。
「ええと、そのはずなんだけど……、人違いだったかな?」
「人違いじゃない」
李が本から顔を上げずに答える。
李の態度に橘が言葉を窮し、二度目の沈黙が訪れたあと、再び如月が口を開いた。
「皆さんの中に今の状況を説明できる人はいらっしゃいますか」
リビングにいた面々は、お互いに顔を見合わせた後、結局何も言わずに視線を四方へと飛ばした。結果、リビングに来てから早くも三度目の沈黙が訪れる。と、突然李が読んでいた本を閉じ、口を開いた。
「悪いが俺たちの中に、今何が起こっているかを明確に話せる者はいない。ここにいる全員が共通してわかっていることは、理由も方法もわからないが、何者かにこの館に連れてこられ、今現在このリビングから出られないということだけだ」
「リビングから出られない? どういうことかしら」
李が目線を天井にあげるのにつられ、橘と如月も天井を見上げた。
「な!」
「う……」
天井にあるものを見て二人同時に息をのむ。
そこにあったのは、巨大なガトリング砲だった。
ガトリング砲は今入ってきたリビングの扉に向けられている。
二人が固まったのを見た後、李はリビングの奥にある巨大なテレビへと視線を移す。
「テレビに映っている文章を読んでみろ」
驚きが収まりきらない中、二人は言われるままにテレビへと目線を移した。
テレビ画面には大きな文字で、
『全員が揃うまでこのリビングから出ることを禁ず。もしこの警告を無視し、リビングから出ようとした者は、天の裁きを受けるだろう』
と映し出されていた。
再び硬直した橘と如月を無視して、李は告げる。
「まあそういうことだ。天の裁きは言うまでもなく天井についているガトリング砲のことだろうな。どうだ、リビングから出られない理由は分かっただろ」
橘と如月は静かにうなずき、ゆっくりと扉の前から離れた。
ガトリング砲の照準から完全に離れたところでようやく一息つくと、橘は矢継ぎ早に李に尋ねた。
「千里はいつからここにいたの? それから全員っていったい何人のこと? それと、最近あんまり会えてなかったけど何してたんだい? それから、この前久しぶりに千里のお母さんに会ったけ……」
と、そこまで言ったところで、李が橘を睨みつけてきた。
「話はいったん後にしろ。何人この後に来るかは知らないが、どうせ知りたいことはみんな一緒だろ。全員が集まってから話を始めたほうがいい。俺がこの部屋に一番初めについたが、それが今から約十五分前ぐらいだ。その後、大体五分おきに二人ずつ来ている。おそらく、あと一・二分したらまた二人ほど来るんじゃないか」
橘は李の毅然とした言葉を聞き、今更ながら、この部屋にいるほかの人たちが妙に落ち着いているのが、李の影響であるからだと気が付いた。
「彼、ずいぶんと冷静なのね」
如月も橘と同じことを考えたのか、ぼそりと呟いた。