幕間:白石天の独白
僕は隣ですやすや眠る藤里を見下ろしながら、小さくため息をついた。
「こんな予定じゃなかったんだが」
僕がこの無秩序な集団をまとめるリーダーになるための作戦、途中までは全て思い通りに動いていた。班ごとに動くように仕向け、その班のリーダをそれぞれ選出する。リーダー役をやらせるにふさわしい人員をうまく選ぶこともできた。
李や天童は頭こそ良さそうなものの、他人を見下したような態度をとっていて、リーダーをやらせれば結果的に下からの批判を受けることは目に見えていた。速見に関しては、このメンバーの中で最年少でありながらリーダーという重要なポジションを任せれば、そのことを恩に感じて、後々僕の言うことに逆らわなくなるだろうと考え、指名した。
他のメンバーの班分けだってそうだ。できるだけまともそうな奴らをあえて自分以外の班に割り振ることで、結果としてリーダーの器であるのが僕であるという風に仕向けるつもりだった。実際班行動をする以前に、天童は千谷と対立を始めてくれたし、波布は明らかに馬鹿にしたような視線を速見に向けていた。後は僕が一番の問題児軍団をうまくまとめ上げれば、
「僕の計画はうまくいくはずだったんだ。それなのに……」
強く手を握り締める。
音田に伊吹、あの二人のせいで随分と計画を狂わされてしまった。自ら班行動をとるように提案しておきながら、僕の班からだけ、勝手に行動する人物が出てきてしまった。伊吹とかいう男、最初から何を考えているのか分かりにくいやつではあったが、まさか勝手にD班に合流するとは。それにこちらの話を聞かずに勝手に部屋から部屋を動き回る音田。本当に大学生かと言いたくなるほど、自由奔放な子供のような女だ。話しも全く通じないし、こちらの言葉尻を取って勝手な行動を続け回りやがって。まだ話が通じないとはいえ、黒崎の方が勝手に動き回らない分ましだ。
僕はもう一度小さくため息をつくと、今度は李について思いをはせた。
「あの男、ずいぶんとこの僕を馬鹿にしやがって。後で必ず……」
李の傲岸不遜な態度が頭の中をちらついて離れない。完全に見下した態度を取り、あげくの果てに身の程を弁えろなどとぬかしやがった。
たかだか大学生の分際で、曲がりなりにも会社を経営して月に数百万の収入を得ている僕に、あんな態度を。
「それに、速見がもうやられるとは」
全く使えない奴だ。所詮は高校生といったところか。そもそもこんな最低のゲームをやるような相手に話し合いをしようなど、まさに平和ボケしたガキとしかいえないような考えだ。
なんにしろ、今のままではかなりまずい。天童の方は分からないが、李の方はそれなりに仲間の信頼を集めているように見えた。このままでは、僕ではなく李が全体のリーダーということになりかねない。もしそんなことになれば、僕のプライドはズタズタだ。
「余計な小細工はせずに、正面から潰してやろう」
そうだ、最初から余計なことをする必要なんてなかったんだ。誰がリーダーに向いているか全員に多数決を取らせればいい。C班とD班は僕のことをいまだに頼れる仲間だと考えているはずだ。全員の前で、誰が全体のリーダーをやるのか決めさせる。おそらくまだ僕の方が李や天童よりも有利なはずだ。
僕が全員の指揮を取れれば、オオカミ使いなんてほどなく捕まえられるだろう。天童が言いだした囮作戦。僕だったら囮役に自分が囮だと思わせることなく動かすことができる。後はオオカミ使いが罠にかかるのを待てばいい。オオカミ使いさえ捕まえられれば、オオカミなど恐れるには足りないだろう。
「ふふふ、これからが楽しみだ」
僕がそう声を上げたとき、突然、扉がきしむような音が聞こえだした。