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無月島 ~ヒツジとオオカミとオオカミ使いのゲーム~  作者: 天草一樹
第一章:視点はだいたい橘礼人

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生存者は全員無月館へ

 橘の予想通り、生き残ったC班のメンバーは数分と歩かずに無月館へと戻りついた。

 ようやく館の中に戻れることで、ほっとした雰囲気が流れる中、天童が玄関の扉を開ける。

 すると、目の前にはオオカミ使いが! などということはなく、だだっ広いホールの中に李が一人ぽつねんと立っているのが見えるだけだった。

 李は橘らが入ってくるのに気づくと、ゆっくりとした足取りで近づいてきた。

 天童の前まで来た李は、四人の姿を確認してから言った。


「大木と四宮の姿が見えないようだが、二人とも死んだのか?」

「ええ、死んだわ。ゲームマスターに撃ち殺されたの」


 李は疲弊しきった様子の橘に一瞬侮蔑的な視線を投げかけた後、天童に対して冷めた口調で言う。


「ふん。あれだけでかい口をたたいていた割にはたいしたことないな。大木に関してはオオカミ使いを捕まえる際に必須となるであろう重要人物だったのにな。まさかむざむざと殺させるとは」


 李の皮肉に対して天童は気分を害した様子もなく、ただ面倒そうに近況を聞き返した。


「そんなことはどうでもいいわ。それより他の班はどうなったのかしら? 私たちの班だけがゲームマスターに狙われたとは考えづらいのだけれど」

「ああ、D班もオオカミ使いに襲われたな。速見が負傷。今は医務室で眠っている」


 天童の後ろにいる千谷が李の報告を聞き、拳を握り締める。

 李はちらりと千谷の姿を目にとめたが、すぐに話を再開した。


「他には特に負傷者は出ていないな。今の残りのメンバーの動きを説明すると、速見の看病および護衛のために、多摩と沢知それから真目、星野、伊吹が医務室に。牧と音田、黒崎、小林それと波布が遊戯室。如月、空条、浅田の三人はリビングにいる。白石と藤里は同じ部屋にこもってるな。懇ろにやってるんだろ。浜田に関しては知らん。おそらく部屋から出ていないと思うが」


 如月が無事であることを聞き、橘はほっと息を漏らす。ついで、李の顔を見ながら不思議そうに尋ねた。


「それで、千里はいったい一人で何してたの? ホールの真ん中に一人で立ってるなんてすっごく危険だと思うんだけど」


 李は橘の方を見ないで言う。


「オオカミ使いがどこから現れるか知らないが、奴が現れた際、誰か一人がホールにいれば他のメンバーに連絡がしやすくなる。オオカミ使いを捕まえるには全員で挑まないと無理だろうからな。常に連絡を行える人間が待機していた方が都合がいいだろう」


 橘は余計心配そうにしながら、李に近づく。


「でも、それって要するに千里が一番危険ってことだよね。わざわざそんな危険な役を千里がする必要は」


 橘の言葉を遮るように李が言う。


「俺以外にやりたがるやつがいないんだ。だったら俺がやるしか」

「李がやるなら僕もやるよ」


 今度は橘が、李が言い終わる前に口を挟む。

 李は顔をしかめながらも、ようやく橘へと視線を移した。


「お前みたいな役立たずが一人増えたところで何も変わらない。さっさと如月って女のところにでも行けばいいだろ」

「もちろん如月さんには会いたいけど、今は千里の方が大事だよ。万が一千里がオオカミ使いに殺されたら、僕は世界でたった一人の大切な親友を失うことになるんだから」

「俺はお前の親友になったつもりはない」


 李は煩わし気に橘から顔を背けると、無理やり話を変えた。


「とにかく、お前らは自分たちの無事を他の連中にも知らせてこい。この島に来てから実際に人が死んだのは初めてだ。大木と四宮の死が知れ渡れば態度や行動を変える奴も出てくるだろう。全員で集まって話し合うのは、それが済んでからだ」


 李の発言に対し、天童が嘲りを含んだ口調で聞き返す。


「なぜ今すぐに集まって話し合わないのかしら。大木と四宮に関する報告も一度に全員に聞いてもらった方が効率がいいわ」

「今すぐに全員を集めてその話をするのは都合が悪いんだよ。まず一つは時間が中途半端なことだ。どうせ食事をする際には全員がリビングに集まることになるんだ、今集まったら二度手間になる。それに、確実にオオカミ――裏切者――がいると分かっている場所で人が死んだという話を聞かせるのは、精神的に厳しいものがあるだろうからな」

「ずいぶんと甘いことを言うのね。それともお優しいと言ったほうがいいのかしら? 凡人どもの精神状態まで考慮してるなんて」

「そういうお前は随分と愚かだな。このゲームの攻略のために一人でも仲間が多い方がいいのは明らかだ。少しでも頭が回るなら、仲間の実力を考えたうえで、それを最も活かせる方法を探すのが最善であると分かると思うんだがな。ただ単に自分以外の他者を凡人扱いし、その命を軽んじて使い捨て扱いするなんて愚の極みだな」


 天童と李の間に、不穏な雰囲気が流れる。千谷の時とは違い、お互い表情にはほとんど感情の色を出していないため、より凄みのある緊迫感が漂っている気がする。

 交渉の円滑人として最近売り出し中の望月が、緊迫した雰囲気を払拭するために、明るい声を出しながら割って入った。


「今回は李君の案でいいんじゃないかな。二人の死を知ったら、みんな少し考える時間がほしいだろうし、全員から見られることになるリビングで話すよりはやっぱり落ち着くと思うんだ。ほら、私も天童さんや李君と違ってあんまり頭はよくないから、正直今も戸惑ってるところはあるし。私みたいな一般人は少しみんなと顔を合わせる前に時間がほしくなると思うから」


 望月が李の味方に付いたことで、実質三対一の状況になる。

 自分の不利を悟ったのか、天童はそれ以上李に突っかからず、一度嘆息すると橘たちの方を向いて言った。


「それじゃあ今からは自由行動よ。私は好きに動くから、あなた達も勝手にしなさい」


 それだけ言うと、他のメンバーの反応を見ることもなく、一人遊戯室の方へと歩いていく。

 自由気ままに行動する天童を呆れながら皆が見ているなか、意外にも千谷が天童についていくと言い出した。


「あの人を一人にしておくのは危険な気がします。私としてはいまだに天童がオオカミなんじゃないかという疑惑がぬぐえずにいますし、あの人に好き勝手話されたら困ることになるかもしれませんから」


 そう言うと、千谷は走って天童のあとを追いかけて行った。

 残された橘と望月がどうしようかと悩んでいると、李が元いたホールの中央部分に戻り始めた。

 李がいまだにこのホールに一人でいようとしていることに危惧を覚えた橘は、やや声を低めながら李に話しかけた。


「千里、悪いけど君のやっていることは何の意味もないよ。このホールに一人君がい続けても、いつかオオカミ使いに殺されて終わりだ」


 橘の声音が今までと変わったことに、隣で聞いていた望月が驚く。

 李もその橘の変化に気づいたのか、それとも自分のやり方を否定されたからか、足を止めて橘の方を振り向いた。


「……理由を言ってみろ」

「千里だって分かってることだろ。オオカミ使いは誰かを殺すことよりも、自分が捕まらないようにすることに重きを置いている」


 李はちらりと医務室の方を見てから頷く。


「そうだな。お前は知らないだろうが、速見を襲ったオオカミ使いは、伊吹に反撃された途端攻撃をやめて一目散に逃げたらしい。絶対に自分が安全といえる状況にならないと襲わないということだな」

「それが分かってるなら、今千里がやっていることがいかに無駄なのかはすぐに分かることだろ。リビングや遊戯室、医務室に仮にオオカミ使いが現れたとしても、誰か一人を殺した時点で、すぐに逃げることは分かりきってる。その部屋の誰かが千里に助けを求めたころには、オオカミ使いはもうそこにはいなくなっている可能性が高い。結果的に千里がホールにいようがいまいが、オオカミ使いが現れた部屋では誰かが死ぬこと、そして、オオカミ使いを取り逃がすことの二つに変わりはないんだよ」


 李は黙って橘の言葉を聞いている。李が何も言ってこないのを見て、橘はさらに言葉を続ける。


「千里は今自分を囮にして皆を守ろうとしてるんだろ。今の状況で誰が最も殺しやすいか。そんなのは誰が考えたって、一人でこのホールにいる千里に決まってるんだ。つまり、千里がここにいる限り、オオカミ使いは他の人を襲わない。そっちの方がはるかにリスクがあるから」


 橘はそこでいったん言葉を止めると、悲痛そうな表情で李を見据えた。


「千里。もう一度繰り返すけど、千里がこんな危険な役をやる必要なんてどこにもないんだ。頼むから僕と一緒にリビングに行こう」


 橘が話し終わっても、しばらくの間李は何も言わずにただ立ち尽くしていた。

 数分経っても、李も橘もともに口を開かないでいるのを見かねて、望月が口を挟もうとする。その途端、李が無表情でぼそりと呟いた。


「――だから俺はお前が嫌いなんだ」


 李が何を言ったのか聞き取れず、橘が李に聞き返そうとする。が、李はすでに医務室の方へと歩みを進め始めていた。

 あまり距離が遠くなる前に、李が後ろを振り向かずに言う。


「俺は医務室で速見の様子を見てくる。お前らはリビングに行って如月から今までの経緯でも聞いてこい」


 一瞬ぽかんとして李を見送っていた橘だったが、李がホールにい続けることをやめてくれたと知り、満面の笑顔で李に手を振った。もちろん李には見えていないが。

 李が医務室へと無事入ったのを見届けてから、橘は一人蚊帳の外にいた望月に話しかけた。


「ごめん、僕と千里の喧嘩に巻き込んじゃって。じゃあ千里の言ってた通りリビングに行って少し休憩しようか」


 望月は曖昧に頷くと、橘に聞こえないよう小さな声で呟いた。


「一番のライバルは如月より、李って人の方になりそうね」

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