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無月島 ~ヒツジとオオカミとオオカミ使いのゲーム~  作者: 天草一樹
第一章:視点はだいたい橘礼人
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C班:いまだ森の中

「ねぇ、そろそろいったん戻らない?」


 もう何度目の愚痴だろうか。橘は疲れ切ったように体をふらふらさせながらぼやきを続ける。


「さっきから一度もオオカミ使いには出くわさないし、今出てきてもらっても体力的にまずいって。いくら大木さんがいたって、他の人がばててたら足手まといになっちゃうよ」


 これまでは橘をいさめる役割をしていた四宮も、そろそろ疲れが出てきたのか賛同の声を上げる。


「そうだな。もうそろそろ無月館に戻ったっていいと思うぜ、俺も。別に疲れたから言ってるわけじゃねぇよ。こんだけ経ってもオオカミ使いが出てこないってことは、他の班を襲ってんのかもしれないし、早く合流すべきなんじゃねぇかと思って」

「私も賛成。もう足くたくただよぉ。まだ何か目的があるんだったらもう少しやる気も出るけど、ただオオカミ使いが出てくるのを待って森をぐるぐる回るなんてさすがにやってらんないよ」


 四宮に続き、望月も音を上げた。

 そんな三人を一瞥すると、天童はまだ黙ったままついてくる千谷の方を向いた。


「どう、千谷さんもそこのヘタレ組と同じ意見かしら? 森の捜索は諦めて館に戻るべきだと思う?」


 千谷は諦め顔を浮かべながら、軽く頷く。


「もちろんです。そもそも最初に橘君が言っていた通り、この広い森の中を私達だけで回るのは無謀もいいところです。まああなたにこんなことを言っても、どうせ聞き入れてはくれないでしょうけどね……」

「そう。じゃあ戻りましょうか」


 千谷の言葉を聞くと、素直に天童は首肯し、空を見上げた。


「太陽の位置は……。そうするとあっちが館のある方角ね。何ぼけっとしてるの? 館に戻りたいんでしょ。どうせあなた達だけじゃ館に戻るのにも手間取るのだろうから、はぐれないように私についてきなさい」


 そう言うと、天童は突然のことに呆けた表情をしているC班のメンバーを置いて、一人歩みを進め始めた。

 気を取り直した橘らは、すぐに天童のあとをついていく。

 突然天童が素直に自分たちの意見を受け入れた理由が分からず、五人が不審げな目で天童を見つめる中、そんな皆の心情を代表するかのように橘が口を開いた。


「さっきから何度も戻ろう戻ろうってごねてた僕が言うのもなんだけど、どうして突然館に戻る気になってくれたの? 見た目的には全然疲れてないように見えるけど、もしかして天童さんも体力的にまずかったりした?」


 天童はちらりと橘を見ると、すぐに前に向き直った。


「まさか。あなた達みたいな凡人と一緒にしないでくれるかしら。高々この程度の散策で私が疲れるわけないじゃない。単純にそろそろだと思っただけよ」

「何がそろそろなの?」


 天童は橘の問いに答えず、どんどん森の中を突っ切っていく。

 一度口を閉ざした以上、さらに質問しようと答えてくれないだろうと悟り、橘も黙って天童のあとをついていくことにした。

 しばらく進んだところで、望月がひそひそ声で橘に話しかけてきた。


「ねぇ、本当にこっちであってるのかな? 天童さんは何だか自信満々で進んでるけど……。もし天童さんがオオカミだったら、この先に私たちを殺すための罠が仕掛けられてるかもしれないよね」


 日頃運動をしていないことから、この中で最も息を切らしている橘は、それでも何とか望月の問いに答える。


「たぶん……、大丈夫。この先に僕たちを殺すようなトラップが仕掛けてあったら、ここにいる皆が天童がオオカミだったんだって思っちゃうでしょ。つまり、殺すのなら僕たち全員を殺さないと、この先疑われる確率がとても高くなる。かといって全員殺して自分一人だけで無月館に戻ったら、それはそれで疑われるのは目に見えてるし。わざわざそこまでのリスクを冒す必要なんてないと思うから」


 喋りながら歩くのに疲れ、一度言葉を切る。そして、呼吸を多少落ちつけてから再び話し出す。


「どちらかというと、この状況で何かしらのトラップが仕掛けてあったのなら、それは天童さんをオオカミだと仕立て上げるための罠、だと思う。はぁ……」


 さっさと話を切り上げたい橘は、少し早口になりながら次の言葉を続けた。


「でも、もしこの先にトラップが仕掛けてあるとしたら今までの天童さんの態度を踏まえて二つの可能性が浮上する。どっちの可能性にしても天童さんはオオカミでないと僕は考えるけど、その可能性っていうのは」


 橘がそこまで言ったとき、突如銃声の音が鳴り響いた。

 とっさに橘らが振り返ると、背中から大量の血を流した四宮が、ゆっくりと前に倒れていくところだった。

 誰もが四宮の姿に目を奪われる中、橘の目は、四宮の背後で銃を構えて立っている、翁の面をした男にくぎ付けになっていた。


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