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無月島 ~ヒツジとオオカミとオオカミ使いのゲーム~  作者: 天草一樹
第一章:視点はだいたい橘礼人
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B班:オオカミ探しは難航中

「すまない李君。音田さんと藤里さんは無事見つけたんだが、伊吹君の姿がやっぱり見当たらないんだ。李君が無月館に戻ってくる際に彼を見かけていない以上、この館の中にいるか、もしくはこの館から大分離れた場所を歩いているかの二択なんだが。とりあえず、僕たちA班は引き続き館の中を捜索していきたい。伊吹君を探すのはB班が引き受けてくれないかい?」

「嫌だな」


 白石の頼みを、李は一切躊躇することなく断った。

 あまりにきっぱりと否定してきた李の態度に唖然とする白石を尻目に、李は音田や藤里と話しているB班のメンバーを見つめていた。

 小林と如月がいろいろと、A班のメンバーにに質問をしているようだが、ほとんど話が通じていないらしく、二人とも困り顔で対応している。

 李は一度小さくため息をつくと、白石の方に向き直った。


「伊吹のことは放っておけ。自分から勝手に単独行動を選択したんだ、わざわざ引き留める必要なんてないだろ。それに、こうして班行動を始めたら、何人かは単独で動き始めるだろうことは予想していたことだしな」


 白石は少し慌てたようにしながら李に聞き返す。


「待ってくれ李君、それはどういうことだい? それにいくらなんでも、こう何人も勝手に行動するような状況になるのはまずいことだと思うんだ。せっかくリーダーを決めて、この無秩序な集団に規律を加えたのに、その意味がなくなってしまう」


 李は蔑んだ目を白石に向けた。


「規律を作ったのがお前なら、規律を失わせたのもお前だな。いいか、よく考えろ。自分の命がかかっている状況下で、無能なリーダーのもとにつきたいと思う奴がいると思うか? 自分よりも優れていて、この状況を打開できる人間でなければ付き従うわけがないだろ。お前は自分の能力の程をもっとよく弁えておくべきだったな」


 李の暴言に、白石は最初顔を真っ赤にして怒鳴りつけようとしたが、何とか言葉を呑み込み、できるだけ穏やかな雰囲気を保とうと、ぎこちないながらも微笑んで李を見返した。


「李君の言葉は相変わらずきついな。でも、今の挑発は僕がオオカミだった時の保険としての発言だよね。万が一僕がオオカミだったら、今の君の挑発を受けて、殺す対象を君に仕向けることができるし、僕がオオカミじゃなかったとしても、命を預ける相手としてこの程度の挑発に乗ってしまうような人間かどうかを見極める尺度になるしね。ただ、それは無用な心配だよ。僕はオオカミじゃないし、そんな挑発に乗って心を取り乱すほど馬鹿じゃないからね」


 李は白石の言葉を軽く聞き流すと、まだ何か言い足りなそうにしている白石を置いて、如月たちのいる場所へと歩き出した。

 如月のもとにたどり着いた李は、その周りにいるB班のメンバーを呼び集め、リビングに行くように指示を出し、自分は他の人に聞こえないように小声で音田に話しかけた。


「随分好き勝手に振る舞っているな。いったい何を考えている」

「はて、いったい何のことでしょうか? 私は精一杯白石さんのお手伝いをしているだけですよ」

「別に話す気がないなら構わないがな。だが、お前らの思い通りになるとは思わないことだな」


 何を言われているのか全くよく分かっていないような顔をした音田に対し、一度鋭い視線を投げかけると、李自身もリビングに向かってゆっくりと歩き出した。




 李はリビングにたどり着くと、すでに集まっているC班のメンバーに対してさっそく意見を求め始めた。


「それで、A班の中にオオカミと思われる人物はいたか」


 小林がげっそりとした表情で首を横に振る。


「皆目見当もつかない状態ですね。正直A班のメンバーは変人ぞろいですよ。ほとんどまともに喋れる人がいない。あれじゃあ白石さんもまとめるのが大変でしょうねぇ」


 如月も同意すると言ったように首を縦に振りながら、少し困惑した表情で言う。


「音田さんは協力的だけど話していることが、その、意味不明だわ。藤里さんはこちらの話を聞かずに一方的に喋り続けるだけで、黒崎さんにいたっては私たちの声が届いているかさえ疑わしいわ。唯一牧君はこちらの意図を理解しているみたいだけど、あからさまに非協力的で何も話してくれない。疑わしいと言えば全員疑わしいし、誰がオオカミかなんてさっぱりわからないわね」


 二人の言うことは想定の範囲内だったのか、特に落胆する様子もなく李は真目と星野に視線を移す。


「お前たちはどうだ。何か気づいたことはないか。特に星野、お前なら何かわかったんじゃないのか?」

「え、私は全然期待されてないんですか! まあ実際私は何も不審なところがあるようには思いませんでしたけど!」


 李は真目の発言を無視して星野を見つめ続ける。李の視線に耐えかねたのか、星野は長い髪の隙間から、恐る恐るといった風に李を見返しつつ、口を開いた。


「オオカミがだれかはわからないですけど、少し不自然に感じた人なら、いました……」


 星野はそこでいったん言葉を切ると、その先も話していいのかと伺い立てるように李を見つめた。李が少しだけ表情を緩めて頷くと、星野は決心したように話を再開した。


「私が不自然に感じたのは、音田さん……です。彼女の動きとか話し方とか、全部演技なんじゃないかと思うんです」


 小林が不審そうに聞き返す。


「確かに音田さんはかなり変わった人だと思うけど、何で演技だと思うの? それこそ、音田さんが演技っぽいっていうなら、失礼だけど真目さんだってそうじゃないかな?」

「な、私は全く演技なんてしてませんよ! 私はいつだってどこだってありのままの自分で生きています!」

「相変わらずすごい自信ね。尊敬するわ」


 なぜか如月が憧れの視線を真目に向ける中、星野は委縮しながらも小林の問いに答えた。


「それ……です。私は真夜ちゃんとずっと一緒に過ごしてきました。だから、なんとなくですけど分かるんです。素で天然なのか、天然を装った演技をしているのかは。……音田さんは真夜ちゃんに比べて視線の動きが明らかに多いんです」

「それはどういうことだ?」

「真夜ちゃんは普段はきょろきょろしてて全然注意力がないんですけど、何か興味を持つものに出会うと他のことにはまったく目が向かなくなるんです。特に自分の好きなことを話しているときなんかはそうです。でも、音田さんは自分が話しているときでも、周りのことを気にしているように、時々視線が揺らいでいたんです。……というように私が感じただけなんですけど」


 少し喋りすぎたというように、星野は一度大きく深呼吸をすると、目を前髪で隠しながらぼそぼそと呟いた。


「……そう。やっぱり私が感じたことは間違ってないと思います。彼女のあの動きは、真夜ちゃんよりも私に似ていたから……」


 星野がそう言って喋らなくなると、李は表情を変えることなく、いまだリビングで眠ったままの浅田へと顔を向けた。


「みんな、今の星野の意見も頭の隅においておけ。ただ、あまり先入観は持ちすぎるなよ。この館の中には怪しいやつらが多すぎる。それにオオカミが一人でも、オオカミに唆された羊がいないとは限らないんだからな」


 

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