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無月島 ~ヒツジとオオカミとオオカミ使いのゲーム~  作者: 天草一樹
第一章:視点はだいたい橘礼人
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A班:気づいたら一人少ない

「ふぅ、これで一通り地下の探索は終わりましたね。それでは次は一階を見て回りましょうか」


 そう言って白石が振り返ると、そこには退屈そうにあくびをしている牧と、相変わらず虚空を見つめながら何かを呟き続けている黒崎しかいなかった。


「……他の人たちはいったいどこに?」

「もうとっくに上の階に行っちまったぞ。つうか退屈だな、この作業。オオカミ使いが出てくる気配もねぇし、武器だってほとんど見当たんねぇじゃねぇか」


 そう言うと、牧も勝手に上の階に向かい始める。


「ちょっと待ってください! 単独での行動は慎むようにとあれほど言いましたよね!」


 ほとんど自分からは動こうとしない黒崎の手を引きながら、牧のあとを追いかけて白石も一階に上がっていく。

 白石が一階につくと同時に、ガチャリと音がして玄関の扉が開き、李率いるB班が無月館に入ってきた。

 李は白石に目を止めると、片手をあげながら白石のもとまで歩いてくる。


「無月館周辺の捜索は終わったぞ。これといって特に異常は見当たらなかった。隠し扉がもしあるのなら随分と精巧に作られていると言えるな。それで、お前らの進捗具合はどうだ。館内にあるらしい武器は見つかったのか?」

「ええ、少しは見つけました。ただ、目を離したすきに牧君と黒崎さん以外のメンバーがいなくなってしまい、困ってるんです。おそらくこの階にいると思うのですが、一緒に探してくれませんか?」

「別に構わないが……」


 李は一度そこで言葉を切ると、館の中をぐるりと見まわした。


「やはり少し変だな……。ところで、俺はこの館に来たのは初めてなんだ。はぐれたやつらを探す前に、この館についてお前が知っている限りの情報をよこせ」


 李の不遜な態度に気分を害した様子もなく、白石はにこやかに答える。そもそも話が通じないようなメンバーと一緒にいたために、態度がでかくともまともに会話ができる相手ができてうれしかったのかもしれない。


「ええ、もちろんです。まず無月館は地下一階を含めた三階建ての建物です。ついさっきまで僕たちが調べていた地下には、階段を降りてすぐのところに脱衣所が存在し、脱衣所の先には、およそ二十人くらいが同時に入れるくらい大きな浴場があります。また脱衣所の近くに一つ扉があって、その先はボイラー室になっていました。ボイラー室の先にももう一つ部屋があって、その部屋は物置のようでしたね。何だかよくわからないものがたくさん置いてありましたよ。まあここら辺は以前僕が無月館に来た時と、ほとんどすべて同じ状態だったと思います。さすがに物置にあったものまでは覚えていませんが」

「オオカミ使いが消えた場所も地下だったはずだな。何か隠し扉とかは発見できなかったのか?」


 白石は大げさに首を横に振って答える。


「残念ながらそういったものは見つかりませんでした。で、今いる一階は、玄関側から見て左側に先程僕たちが集まっていたリビングと、その奥に厨房と食糧庫が。右側はまだ調べていないので、もしかしたら違っているかもしれませんが、以前僕が来た時にはベッドが数台置かれた医務室と、ビリヤード台や卓球台などの遊具が置かれた遊戯室があります。ああ、多分音田さんたちは遊戯室に行ったのかもしれませんね。まずはそこを探してみますか」

「それで、二階はどうなってるんだ」

「二階は客室だけですよ。確か部屋数はここに集められた人数と同じで二十四部屋だったと思います。館自体で話すことはこのくらいですね。後この館、というより島が無月島といわれているわけですけど、この無月島は周辺の特殊な気候のせいで、夜になると月が見えなくなるほど深い霧に包まれるんです。それゆえに月が見えない島、『無月島』と呼ばれているんだそうです。僕がこの場所について知っているのはこれくらいですね」

「小林が言っていた話とも違いはないか」


 李は小声でそう呟くと、ふと疑問を感じて、白石に尋ねた。


「お前は以前無月島に来たことがあるんだろう? だったらこの無月島がどこにあるのかは知らないのか?」

「それが、よく分かっていないんです。以前僕が無月島に来たときは、窓のない飛行機に乗せられて約三時間近くかけて無月島まで行ったので、場所を推定することもできていません」

「よくそんな胡散臭い場所に旅行に行ったな……。まあいい、知りたい情報は十分に得られたからな、はぐれたやつらの捜索を始めるか。俺たちの班はリビングを調べる、お前は遊戯室を見てこい」


 李の命令口調に、白石は苦笑いで返しつつも素直にうなずき、牧と黒崎を連れて遊戯室のほうに向かった。

 三人が遊戯室の中に入ると、音田と藤里が二人で笑いながらダーツをやっていた。勝負はどうやら拮抗しているようで、たくさんの矢がほとんど的に刺さることなく床に散らばっている。

 白石はそんな二人を見て、一瞬頭を抱えた後、少し厳しめの口調で話しかけた。


「音田さん、藤里さん、二人とも何やってるの。勝手な行動をとられるとすごく困るんだ。自分たちの命が狙われているという自覚を少しはもってくれ」


 音田が無邪気な顔で言い返す。


「大丈夫ですよ白石さん。白石さんの言いつけ通りちゃんと二人で行動してましたし、いざ犯人が襲ってきたら、私と無垢さんの矢が容赦なく犯人の体を貫いたはずです。ですから何も問題ありません」


 音田はダーツの矢を投げるふりをする。白石は頭痛を感じて、頭に手を当てながら言った。


「だとしても僕に一言告げてから動いてくれないかな。それに、女二人じゃオオカミ使いが襲ってきたときに対応できないでしょう。ダーツの矢だって的に当たりさえせずに落ちているようなのもたくさんあるし」

「そんなこと言ってもー、天さん私がピンチになったらすぐに駆けつけてくれますよねぇ。だから私は全然怖くなかったですよぉ。うふふふふ」


 そう言いながら、白石のもとに寄り掛かるようにしながらやってきた藤里を見て、白石は大きくため息をついた。


「すぐに駆けつけるためにも、移動する前に一言声をかけてほしいんだけど……。それはそうと、伊吹君は一緒じゃないのかい?」


 ダーツに飽きたのか、音田がなぜか部屋の周りをピョンピョンはねながら答える。


「伊吹君だったら私と無垢さんが遊戯室に行くちょっと前に、地下から出て行ったきり見てないですよ。伊吹君から何も言われてなかったんですか?」


 部屋のあちこちをはね続ける音田を目で追いながら、白石はただただ、長いため息をつくしかなかった。

 

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