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無月島 ~ヒツジとオオカミとオオカミ使いのゲーム~  作者: 天草一樹
第一章:視点はだいたい橘礼人

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C班:無月島は霧月島

 しばらくの間外の空気を堪能した橘は、涼しげな目で海を眺めている天童に話しかけた。


「それで、もし今が夜だったらどんな景色が見られたんですか?」


 天童が答えるより早く、望月が口を開いて言う。


「見渡すかぎり真っ白な世界を見られたと思うよ」

「見渡すかぎり真っ白な世界? それって雪景色のこと?」


 四宮が笑いながら橘を指さす。


「いやいや、雪じゃねぇよ。つうか雪の降る島だったら無月島なんて名前じゃなくたっていいじゃねぇか。まあ雪が降ってたら月は見えないだろうけどよ」

「じゃあ何? 雪以外に景色を白くするようなものなんてあったっけ?」


 首をひねり、全く分かっていない橘の様子を見て、千谷が強張っていた表情を解き、苦笑しながら答えを言った。


「霧ですよ、橘さん。この無月島は秋から冬にかけて、夜になると濃い霧が発生するんです。よくは覚えてないですけど、この付近にある特殊な気流のせいで夜になると急激に気温が下がるとかが理由だったはずです」

「そうそう、そんな感じの理由で夜には霧が発生するんだって。だからこの島は、月の無い島と書いての『無月島』っていうのと、霧で月の見えない島と書いての『霧月島』っていう二つの呼び名があるんだよ」


 望月が無月島の呼び名について説明する。橘は望月の話を聞きながら、ふと別のことを考えていた。


「あのさぁ、今っていったい何月なんだろうね?」


 橘の問いに対し、大木が不思議そうな顔をしながら答える。


「何月って、今は十二月だろ?」

「確かに僕の記憶でも今は十二月で、覚えてる限りでは大学がちょうど冬休みに入ってたところだったと思うんだけど。でも、ここは冬だとは思えないくらい暖かいよね」


 橘は海から吹いてくる風を感じながらそう言った。

 実際、橘を含めてこの無月島にいるメンバーは全員長袖の服を着ており、真夏の格好をしている人は一人もいない。だが、オーバーやダウンジャケットなどの防寒着を着ている人もおらず、春や秋に着るような服装をしている。にもかかわらず、無月島の外に出ているC班は誰一人寒いと思う者はおらず、皆平然と外の空気を堪能していた。

 橘にそのことを指摘され、残りのメンバーも不思議そうに体を動かして、やはり寒くないことを改めて実感する。


「確かに、変ですね。もしかして私たちは随分と長い間寝かされていたのでしょうか? でも、わざわざそんなことをする必要なんてありませんよね。それに、もしそんなに長い間寝かされていたのなら、こんなに身軽に体を動かしたりはできなかったでしょうし」


 千谷も実際に体を動かしながら言う。


「こんなことなら最初にオオカミ使いに、今が何月何日なのかをちゃんと聞いておけばよかったね。せっかく唯一の質問チャンスだったのに、なんかもったいないことしちゃった」


 そう言って、望月が口をとがらせる。


「まああの状況で、その質問を思い浮かべたりは普通しないだろ。そもそも、今だって俺はこの状況が夢でない自信がないくらいだ」


 豪快に笑いながら、大木が慰めの言葉をかける。

 すると、今まで黙っていた天童が突然口を開いた。


「いい加減そんなくだらないお喋りは後にして、森の探索に行きましょう。ああ、その前に一度もこの島に来たことのない橘に、この島の全景を教えておいたほうがいいわね」


 そう言うと、天童は無月島について話しだした。




 曰く、無月島は直径約二キロメートルの円形の島であり、その円周は約八キロくらいで、歩いて島を一周しようとすると二時間弱かかるらしい。そして島の中央には巨大な森が広がっており、無月館自体はその森から少し離れた海側の場所に建てられている。橘は天童に言われて無月館の後ろ側に回り込んでみたが、そこにはすでに森が存在していた。どうやら無月島は海沿いの一部を除く、ほぼすべての場所が木で覆われた島になっているようだ。ちなみに無月島は当たり前のごとく無人島かつ孤島で、周囲は海ばかりであり、近くに島などは何も存在しないとのことだった。




 天童の話を聞き終えた橘の第一声は、


「すごく面倒な場所を任されたね……」


 というものだ。


「他の班はどこを調べるの? さすがに僕達だけでこの森を捜索しきるのは無理だと思うんだけど」

「安心しなさい、森の探索は私たちだけよ。他の班に邪魔されることなく思う存分動けるわよ」


 天童の晴れやかな笑顔を見ながら、橘は疲れたようにため息をついた。


「なんか俄然やる気なくなってきたな。天童さん、悪いんだけど別の班に移籍してもいい?」


 天童は橘の言葉を無視すると、意気揚々と声を上げた。


「とりあえずはまっすぐに進んで島の反対側まで行ってみましょう。もう一度言っておくけど、私の指示を無視して勝手な行動をとってもその責任は取らないわよ。さぁ、森の捜索を始めましょうか!」


 橘含めC班全員がこれから行うであろう途方もない作業を思い浮かべ、早くも疲れ切った表情を見せる中、天童ただ一人が楽し気に森の中に入っていった。


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