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無月島 ~ヒツジとオオカミとオオカミ使いのゲーム~  作者: 天草一樹
第一章:視点はだいたい橘礼人
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B班の事情

B班・・・李・小林・如月・真目・星野チーム


「ふぅ……。俺以外全員女か、面倒な」

「あなたが自分で決めたんでしょ」


 李がため息をつきながら班員を見回すと、如月があきれながら言った。


「別に、チームバランスを考えて割り振った結果だから文句はない。文句はないが……」


 そう言って再びため息をつく。そんな李の様子を気にかけることもなく、元気いっぱいに真目が手をあげた。


「はい、質問があります! 私たちは何をすればいいんですか! 正直料理以外で皆さんの役に立てるとは思えません!」


 自分の無能っぷりを堂々とアピールしつつ、李に質問する。

 李は冷たい視線を真目に向けながら、淡々とこれからやることを話し始めた。


「俺たちがやることは、館の周囲の捜索、および裏切り者の発見だ」

「裏切者っていうのは、オオカミと呼ばれる人物のことですね。しかしどのようにしてオオカミを発見するつもりなのでしょうか?」


 小林が取材をするかのように、どこから取り出したのかメモ帳とペンを持って、李に対して質問する。


「オオカミか……、まあそいつだ。探す方法は簡単。この館にいる人間をすべて観察するんだ」

「観察する、それだけですか?」

「ああ。館の周囲の捜索と言ったが、俺たちは比較的自由に動くことを認められているし、機会があれば他の班とも共同で作業することもできる。そして、このメンバーは俺が最も観察力に優れていると思ったメンバーでもある」

「その心は」

「……お前はジャーナリストとしてたくさんの人を見てきたはずだ。観察力はそれなりに優れているだろう。如月はあの中では冷静に状況を見据えていたように思えた。目つきも鋭いし、人のあら捜しは得意だろう」

「あなたに言われるととても腹が立つのだけれど。それに私よりもあなたのほうがそういうことは得意そうね」


 如月が呆れたような顔をしながら、李に言い返す。李は気にした様子もなくその言葉に頷いた。


「そうだな、俺にもその自覚がある。だから俺がこの班のリーダーにもなった。そして真目と星野だが、真目はただの馬鹿だと思うが、そういう奴ほど俺たちの気づかないような変わったところに気付くかもしれない。そう考え組み込んだ」

「えへへ、それほどでも」

「素直に褒められたと考えるところは大物にも見えるわね」


 真目のポジティブな態度に、如月もただならぬ資質を見出したようだ。


「星野は明らかに人の目を意識して生きてきた人間だろ。他人の感情の変化には一番敏感に気付けるんじゃないかと考えた」

「そんなこと、ないです……」


 小声でありながらも、星野が答える。


「明子ちゃんが喋った! 李さんすごい! 私でも十回に一回くらいしか喋り返してもらえないのに!」

「それって嫌われてるんじゃないのかしら……。やっぱり真目さん、大物ね」


 なぜか如月が真目の評価を上げ続ける中、小林が李に質問した。


「B班がオオカミ探しをするのに適したメンバーであることは分かりました。しかし、それだけでオオカミを発見できるでしょうか?」

「無理だろうな」


 あっさりと李が否定したことに驚き、皆が言葉を失う。そんな様子を気にすることなく、李は続けた。


「だが、俺たちがそうすることは決して無駄じゃない。お前らには悪いが、俺はここにいる全員が生きて帰れるとは思ってないからな」


 続けざまに放たれる衝撃発言に、誰も言葉を発せずに李を見つめる。


「だが、当然人数が減ればその分だけオオカミの特定はしやすくなる。そして、その状況になった際に俺たちが観察してきたという事実が役に立つ時が必ず来る。ただ、その時俺が生き残っているという保証はない。お前らも自分が生き残るためにそれなりの覚悟を持って探せ」


 李の決意に満ちた表情を見て、残りのメンバーも真剣な表情で頷いた。


「まずは無月館の外に出る。そのうえで館の周りを一周する。その後どの班と合流するかは追って指示を出す。行くぞ」


 李はそういうと館の外に向かって歩き始めた。

 如月はいち早く李の隣に並び、彼に尋ねる。


「あなた、思ったほど冷たい人間じゃなさそうね。橘君の言っていたとおり」

「あいつの話なんかするな。あいつが俺のことをどう言ったかは知らないが、全部忘れろ」


 李のあまりにもそっけない態度に、如月の口から疑問がついて出た。


「あなたと橘君の間に一体何があったの? 橘君は確かに馬鹿かもしれないけど、そこまで否定されるほど悪い人じゃないと思うわよ」

「お前があいつの何を知ってるんだ? 俺はあいつと高校時代からずっと一緒にいたんだ。あいつのことなら誰よりもよく知っている」

「例えばどんなことかしら?」


 如月の問いかけに、李はいやそうに顔をしかめながらも口を開いた。


「そうだな……、あいつは食べるのがとても遅い。以前奴と飯を食ったときにはラーメン一杯を食べるのに二時間もかかっていた。もはや麺は伸びきりスープもほとんどなくなっていたのにあいつはおいしそうに最後まで食べ続けていた。まったく正気の沙汰とは思えない。他にもあいつと一緒に釣りに行った際には、奴は釣り糸を垂らしなが終始寝続けていた。そのせいで結局俺一人で奴の分の釣り竿の管理までしなければならなかったんだ。そもそも寝るくらいなら釣りになんていかなければいいのに……、あいつが自分から俺のことを誘ってきたにも関わらずだぞ。夏に海に行ってきたときなんてあいつは一度も海に入ろうとせず、砂浜で延々と砂の城づくりをしてやがった。一度熱中すると他のことに全く意識が向かなくなるし、俺も城作りを手伝わされて結局丸一日それだけで終わったんだ。俺は海の家で食べるラーメンを楽しみにしていたのに。他には」

「もう十分よ……」


 如月があきれ顔で李の話を中断させる。


「あなたと橘君がものすごく仲がいいってことは分かったから」


 如月がそうぼそりと呟くと、李がぎろりと睨め付けてきた。


「何か言ったか」

「いいえ、何も言ってないわ。要するにあなたは橘君のことが嫌いだってことでいいのよね」

「そうだ。俺はあいつに対して他にもたくさん恨みがある。だが、最も腹立たしいことはあいつが俺のそういった感情に全く気が付いていないことだ。大体あいつは俺と初めて会った時から……」


 李が橘に対する文句をくどくどと語っているのを横目で見ながら、如月は小さくため息をついた。

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