行動班決定
話が聞こえていたとは思えないが、李の冷たい視線が再び橘に注がれている。ぞくりと背筋を震わせる橘をよそに、白石が皆に語りかけた。
「すみません、ずいぶんお待たせしてしまいました。班員分けは比較的早く終わったんですが、その次に話した探索場所についてで少しばかりもめまして」
「んなこといいから、結局どういう行動班になったのか言えよ」
白石の言葉を遮り、牧が話を促す。白石は苦笑しながら言う。
「そうですね、それでは行動班を発表していきます。自分の名前を聞き逃さないようにしてくださいね。それでは、
・A班・・・白石・牧・藤里・音田・伊吹・黒崎
・B班・・・李・小林・如月・真目・星野
・C班・・・天童・大木・千谷・橘・望月・四宮
・D班・・・速見・多摩・沢知・波布・空条
ということになりました。もしかしたら異論がある人もいるかもしれませんが、しばらくはこの班で行動します。メンバーの変更はしませんが、何か質問があるなら聞きますよ」
皆が近くの人と顔を合わせて、誰が自分と同じ班なのかを確認し、喋りかけ始める。橘は今発表された行動班の内訳を思い出し、如月が自分とは違うB班であることに少しがっかりした後、ふと、何かが足りないような気分に陥った。
「そうだ、千里、浜田君が今呼ばれてなかったのは分かるんだけど、浅田君も名前呼ばれてないよね。呼び忘れたの?」
すると、李の代わりに白石が少し驚いた顔をしながら答えた。
「橘君、よく浅田君の名前が呼ばれていなかったのに気付いたね。それについては後で説明しようと思ってたんだけど、せっかく質問が出たから先に答えておこうか」
白石はみんなが自分に注目するように、一度手をたたいてざわつく皆を静めた。
「今橘君から質問があったんだけど、僕が言った行動班のメンバーには、浅田君の名前を抜かしてあるんだ。彼には、このリビングにこのままいてもらう。理由は単純な話で、一言でいうと『囮』の役割を彼には担ってもらおうと考えてる」
千谷が驚いて白石を見つめる。
「囮って……、白石さん自分が何を言ってるかわかってるんですか! 相手は私たちのことを殺すつもりなんですよ。囮なんてただ見殺しにするのと何も変わらないじゃないですか!」
ふぅ、とため息をつき、白石に代わり天童が答えた。
「これを考えたのは私だから、私が答えるけど。あなたはこのゲームの趣旨を理解しているのかしら? あのゲームマスターは私たちを殺そうと思えばいつでも殺せた。いや、今でも殺そうと思えば殺せるはずよ。なのにこんなまどろっこしいことをしている。その理由は、当然私たちとの命を懸けた頭脳戦を楽しみたいからでしょ。だとすれば、武器も持たずただ寝ているだけのような男、殺す価値もない。もし私がゲームマスターなら、ただ殺すのではなく、羊たちを惑わすような別の使い道を探すわね」
「確かに、寝込みを襲って殺すくらいなら、そもそもこんな場所まで連れてこないかもしれません。でも、いくらなんでも危険すぎます。オオカミ使いが浅田君を殺さないという保証はどこにもありません。私たちの誰にも彼が死んだ時の責任なんて取れないんですよ」
「それを言うなら私たちだっていつ殺されるかはわからないわ。それに、これはゲームマスターが言っていたオオカミを炙り出すために必要なことでもあるわ。どうしてこの方法でオオカミが炙り出せるか、あなたには想像もつかないでしょうけどね」
「あなたは自分が助かればそれでいいんですか! 囮がそんなに必要なら自分でやれば」
「そこらへんでやめておけ」
李が二人の言い合いに待ったをかける。
「千谷、お前の言いたいことはわかる。が、浅田は好きでこの場所で眠り続けている。もし俺たちにだれ一人殺されずにこの島から出ていけるような策があるならまだしも、俺たちだっていつ殺されるかわからないような状況で、和を乱そうとするやつにまで気を回そうというのは傲慢というものだ。まして、そんな男のために自分たちがより生き残りやすくなる方法を捨てろというのならなおさらだな。それでも浅田が気になるなら、お前が浅田のそばにいてやればいい」
もし起こせるのならそれに越したことはないがな、と最後に浅田を見ながら、李は呟いた。
千谷はまだ反論したいことがあるようだが、この場で李たちを説得するのは無理と諦めたのだろう、不満そうながらも口をつぐんだ。
薄い沈黙を破るようにして、白石が話をまとめ始める。
「さて、皆さん自分が何班なのかはわかりましたね。この後は、班ごとに分かれてから各班のリーダーがそれぞれ次の行動、および班内での役割を話していきます。全員での行動はここでお開きとなりますので、最後に一言。
絶対に生きてこの島から出ましょう!」
白石の話を聞き終わると、それぞれが自分の班のリーダーのところへと向かう。C班のリーダーである天童のもとに向かう前に、橘は如月のほうを向いて言った。
「如月さんは千里の班ですよね。千里ならそこまで危険なことはさせない……、ことはないかもしれませんけど、仲間が殺されるのを黙認するような奴じゃないので、きっとオオカミ使いを捕まえる手がかりをうまく集めていくと思います。しばらく離れ離れになりますけど、無事でいてくださいね」
「それ、死亡フラグっぽいわね。まあ私だってむざむざ殺されるつもりはないわ。それにオオカミ使いの正体も……」
如月が途中で言葉を切ったので、橘は不思議そうに如月を見る。
「オオカミ使いの正体が何ですか?」
「……。いや、何でもないわ。あなたも気を付けてね」
如月はそういうと、少しだけ笑顔を見せたあと李のほうに歩いて行った。橘は、如月が何を言いたかったのか一瞬考えた後、言わなかったということは大したことではなかったのだろうと思い直し、天童のところに向かった。