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これが最初の魔法論  作者: 界人 峻一
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7 街並みと学院


 魔法学院の仕事を選んだ理由は、言うまでもなく住み込みで食事付きだったからだ。文無し宿無しの俺にとっては幸運すぎる内容だ。ただ一点とてつもない不安がある。魔法学院で働くというのに、俺は魔法について無知という事。仕事内容に授業補佐と書かれていた部分がとても気になる……。

 それにしても魔法学院だぞ。凄い世界があったもんだ。

 俺は冒険者ギルドでもらった街の地図を広げた。地図に描かれた街はドーナツに例えるとわかりやすいかもしれない。まずドーナツの穴が街の中央にそびえる巨大ドーム。そこから東西南北の名前がついた大通りが四本。これらは街の端まで伸びていて、それぞれの門まで通じている。まるでドーナツを十字に切って四当分しているかのようだ。次に円を描く大通りが三つある。一番外側でドーナツ外円にあたる一周を外壁通り。次がドーナツの中を走る一周で中央通り。三つ目の大通りはドーナツの内円で、街の中央にある巨大ドームを一周している。その名称を【城壁通り】というそうだ。つまり巨大ドームは闘技場でも野球場でもなく、お城だったのである。

 ちなみに街に入る時に通ってきた門は北門。よって俺は北門から北大通りを真っ直ぐ南へ進み、ドーナツの中を一周する中央通りの十字路を曲がって冒険者ギルドに辿り着いていた。十字路の名称は北中央。現在地の北中央から学院までの行き方は、中央通りを使って西へ歩き、西大通りとぶつかる十字路、西中央まで行く。そこを西門方向へ曲がって少し進めば到着となる。大雑把に言えばドーナツの上真ん中辺りからドーナツの左の方へ行けばいい。

 

 ――そんなわけで中央通りを歩いているわけだが、街の真ん中を一周する大通りゆえに人々の往来がかなり多い。道の両脇にはお店が連なっていて、市場のような喧騒感がある。俺は人々の姿や売られている物に終始目を奪われた。雑貨や食べ物等、あらゆるものが初めて見る物ばかり。後ろ髪を引かれてしまうが、それはまた今度だ。

 西中央に差し掛かると、静かな住宅街に移り変わっていき、西大通りに入れば建物がぐっと減って郊外を思わせる広々とした雰囲気に変わった。道自体も緑豊かな並木道になっていた。

 そうしてギルドを出てから三十分ぐらいでリンドールパスカル魔法学院が見えてきた。広い敷地を有し、付近に目立った建物はない。加えて地球の学校にどことなく似ている事もあってすぐにわかった。校庭があり、校舎がある。これもまた円柱型でドーム状の屋根をした建物。こうも同じ特徴が続くと異国に来たような感覚になる。実際は異国どころじゃないわけだが。

 校舎の方へ向かおうと横道に入ってみると、そこは緩い登り坂になっていて、登り切ると大きな門へと辿り着いた。見たとこ正門って感じだ。だが学校の門の割には豪勢で厳重。門はよくある格子状の門ではなく、鉄板状の門で隙間がない。加えて門の表面意匠。動物というより魔物のような生き物がたくさん立体的に浮き彫りになっいて威圧的。それらは鉄が溶けたような滑らかな造りで、禍々しく不気味に表現されていた。

「っ!?」

 よく観察してみようと近づいてみると、門が突然赤く発光しはじめた。無性に危機な香りがして後ろへ下がって立ち尽くす。すると発光は徐々に消えていった。明らかに何らかの魔法が施されていて間違いない。

 門柱にインターホンはない。無論呼び鈴ボタンもない。動物が輪を咥えている物体もない。どうすればいいんだ? 近づけないぞ。魔法が罠やセキュリティの類というのは大いにあり得る。

「ん?」 

 今、門の中央から浮き出ている一際大きなガーゴイルのような鬼の目が、赤く光って動いたような……。まさか、カメラなのか? どこぞのお城のように床の落とし穴が発動して落ちる瞬間に撮影されてしまうアレじゃないだろうな? いやいや。バカな。そんなわけないだろう。泥棒じゃあるまいし。じゃあどうする? 怖いけど触れてみるしか……ないよなぁ。タッチ式で門が開閉する魔法だと祈ろう。

 俺は先ほどの鬼に触れようと手を伸ばした。――だが、やっぱりその手をひっこめた。

 ダメだ。どうしてもグズグズしてしまう。これは相当に怖い。見知らぬ魔法が発動すると分かっていて、あえてそれに飛び込むなんて無鉄砲だ。ダリウスの魔法のように突然炎が吹き出たら本当に危険だ。大怪我どころか死ぬかもしれない。


 足に根が生えてくる前に、俺は一つ妙案を思いついた。ここは魔法の学校だ。その生徒たちが通れる仕組みになっているはず。となれば目には目を。赤い発光が何らかの魔法ならば、ギルドでカードを作った時と同じように今回も魔法を使えば安全に通れるのかもしれない。間違っていても特別困ることもないだろう。

 さっそくギルドでやったエンボス魔法をやってみることにした。具体的に何かをイメージすることで行使できた事を振り返り、まずは自分にとってイメージしやすい物を考える――。

 そういえばこの門はあれだ。上野公園にあるロダンの作品、『地獄の門』に似ている。違うのは門が縦ではなく横に長い。そして人ではなく魔物が描かれている事だ。

 俺は地獄の門の上にある『考える人』を思い浮かべ、ゆっくり構築される具合でイメージしていった。途端に鉄製の門が嘘のようにグニャリと手前に盛り上がり、思った通りの造形に変わっていく。ギルドでは目を瞑っていたので、初めてその最中を目撃した。最終的には一分もかからない内に、門の中央に子犬ぐらいの大きさの考える人が仕上がった。考える人の背中からお尻にかけては、門と同化しているようになっている。見方を変えれば門に吸い込まれていくような造形。ちなみに中央にあったガーゴイルのような鬼は、この考える人に上書きされてしまった。

 これが魔法。たった今自分で行った魔法なわけだが、やはり見慣れていない事もあって驚きだった。俺は特に考えることなく考える人の頭に触れようと手を伸ばした。

「熱っ!! あっ! あ〜!?」

 門が重厚な音を響かせ、中央から左右へスライドして開門していく――。つまり。

「あーあ……」

 開門していく過程で考える人が真っ二つに割れた。門が閉まればピッタリ元戻りになりそうな程、綺麗に割れた。

 何のことはない。門は触れると開閉する魔法が仕込まれていた。本当にタッチ式だったのだ。あんなにウジウジして……これは恥ずかしい。




 門を通って奥へ進むと、道の左右に帯刀している兵士が二人いた。革っぽい鎧を装着しており、露出している部分は顔だけ。そして一番目を引くのは二人の目だった。灰色の目の中に点のように小さな黒い瞳。肌の色が黒いので、灰色の目がより際立っている。外見で判断するようで申し訳ないのだが、どう見てもホラー映画の人だ。

 怖いけど、学院の門にいるという事は十中八九守衛さんの可能性が高い。流石に素通りはできない。俺は勇気をだして冒険者ギルドから来たことを彼らに告げた。すると、強面の表情がパッと笑顔に変わって、優しそうなおじさんに変貌した。

 ああ、ナイスガイ。と、思いかけたが、その笑顔を見て心臓が跳ねた。笑顔の口元から牙が垣間見えたからだ。牙という事は呻き声を上げて襲ってくる方ではなく、首根っこを噛んで吸ってくる方かもしれない。

「さぁ私についてきてください! 学院長のところまでお連れしますよ!」

 二人の内一人が案内してくれるようだけど……正直、ついていきたくないな。


 守衛さんと若干距離をとりつつ、雑談の流れで学院の事を聞いてみた。守衛さんは外見から伝わってくるイメージと違い、陽気に話してくれた。

 学院には校舎が三つあり、研究棟、学棟、寮棟があるそうだ。研究棟では主に先生が使用しているが、学生も魔法の開発や実験を行っているらしい。学棟はその名の通り、様々な授業が行われている。寮棟は他のと比べると小さな建物で、その名の通り生徒が下宿している。ちなみに全寮制というわけではない。先生も数人住んでいるとのことだ。さらにこの棟の一階には食堂があると教えてくれた。朝から何も胃の中に入れてないわけでペコペコ。今すぐ行きたいところだ。

 ところで、この案内を聞きながら何度も学生を見かけた。どの学生も丈が腰ぐらいまであるポンチョを着ていて……。いや、ポンチョに近いマントか? うーん。――いや、あれはポンチョだろう。それ以外の服装は自由らしく、千差万別だった。

 印象深く見えたので、俺は守衛さんに学生の制服について問いかけた。するとこの学院は三学年制度で学年ごとに色が違うという事を教えてくれた。一年生は紺。二年生は臙脂。三年生は灰色。さらに地球でいう大学院生と類似した院生というものがあり、それに昇学すると白になるそうだ。この色には何か理由があるのかと話しを振ると、白のポンチョを着れる院生というのは学生達にとって憧れの対象らしく、三年生を灰色にしているのは、院生を目指してほしい学校側の狙いもあるとのこと。昔は黒に近い灰色から始まり、進級していくごとに白くなっていく仕組みだったそうだが、遠くから見て色の判別が難しいため、分かりやすい色。つまり紺と臙脂を取り入れたらしい。

「学生たちの服で学年の判断が明確なので、万が一の時に私たちの判断が楽になりましたね」

 なるほど。こういうところは、どこの世界でも似たり寄ったりなんだな。とはいえこの守衛さん、物知りだ。かなり昔から学院で働いているのだろう。やはり吸血鬼か。


 研究棟の前に到着すると案内してくれた守衛さんが「ここで待っていてくれ」と言って、学院長を呼びに研究棟に入っていった。部外者は立ち入り禁止ということだろう。

 研究棟の外観は歴史的な美術館を彷彿させる造りだった。石造りの円柱型なのは他と一緒だが、いくつもの柱が等間隔に建物の外縁に立ち並んでおり、一階にあたる部分はその柱と中央にある螺旋階段だけ。つまり一階は壁のないエントランスで、二階からが室内だ。壁がないので外光がたくさん入りそうなものだが、巨大な建物ゆえに一階の空間は結構薄暗い。無機質な石床だけが日の光を反射させ、辺りを冷たく照らしているだけだ。

 それにしても外縁の列柱は太く、強固で堅牢といった様。なおかつ地面から天辺まで伸びていてかなり存在感がある。どことなく神殿のようなものを連想させてくる。ひょっとしてここは古代ローマなのかもしれないな――。

 なんて馬鹿な事を頭の中で考えていると、大理石をヒールで歩いているような響きのいい足音が聞こえてきた。

「ようこそ。リンドールパスカル魔法学院へ」

「初めまして。私は冒険者ギルドから来ました。エイジ・ナガミネです」

「依頼を受けてくれる人が来たのね。私はここの学院長、ルーブ・リンドールよ」

 にやけた顔で口笛を吹きたくなるほど、学院長は麗しき美貌の女性だった。羽織っているのはポンチョではなく、こいつは確実にマントの類。それは膝まで丈があり、前面側も覆っている。マントゆえに、その前面中央は開かれたスリットなわけだが、そこから突き出た豊満な胸はシャツの中にギュウギュウに押し込まれ、下はタイトなパンツルック。妖艶でアダルティな雰囲気。加えてなんか良い匂いも漂ってくる。

 いろんな意味で大丈夫なのか。生徒たちは……。

「それじゃ、ついてきてくださるかしら」

 顔が緩みそうな自分に喝を入れ、ルーブ学園長の後に続く。今度は寮棟へ向かうみたいだ。




 寮棟は他の校舎と比べて高さは低いが幅広の建物だ。一階はホール状になった食堂で、幾人かの学生達がにぎやかに食事を楽しんでいた。そして二階からが寮の区域になっているそうだ。

 俺は食堂脇の廊下を通り、いくつかある小部屋の一つに案内された。中は質素で椅子と机だけ。いわゆる応接間ってところだろう。着席を促されたので、相手が座る所を見計らって座った。どことなく会社の面接のような感じがしてきた。地球でせっせと働いていた時の事が蘇ってくる。

 ――あ。自然と懐を探って気が付いた。名刺持ってないや。などと思っていると突然、誰もいなかったはずの背後から声が上がった。

「どうすんね。お茶かい?」

「私はハーブティーにするわ」

「熱めだね。おまえさんは?」

 振り返ると学食という場所に相応しい、典型的なおばちゃんがそこにいた。水洗いでもしていたのか、首から下げたエプロンで揉み込むように手を拭いている。

「お、おかまいなく」

 とは言ったものの、正直お腹はすごーく空いている。朝から何も口に入れずに夕方だ。だけど今後に関わる大事な就職面接。一言で餌に飛びつくのはダメだ。

「若いんだから、遠慮なんてしなくたってええんだよ」

 悔しいが俺の腹具合を完全に見透かしたような表情でそう言われた。しかし一つ断りを入れたのだから失礼には当たらないだろう。

「すみません。では同じ物をお願いします」

 はいはい、と気軽な返事をしておばちゃんは部屋を出ていく。それを見届けた後、学院長はにっこり微笑んで話し始めた。 

「いい感じだわ。今まであの人に後ろを取られて気づいた人はいなかったわ。あなたはそれに気づいて胸元から何か出そうとしたわね。ナイフかしら?」

 名刺だよ!! 

「いやいや。ナイフじゃないですよ」

 というか後ろを取るってなんだ? 気づいてなかったらどうなってたんだ。それに今までとは!?

「じゃあ一体何を出そうとしたのかしら?」と言って学院長はニコニコ笑顔を向けてきた。

 ……どういう面接なんだ。

 俺は驚かされた仕返しのつもりで、神妙な面持ちで再び懐に手をゆっくり入れた。学院長は笑顔のままだったが、確実に緊張感が漂ったのが分かる。そして俺は慎重に懐から二本指であるものを出した。

「これですよ」

 学院長は口元を手で隠してクスクス笑ったあと、俺の手から依頼書を受け取った。


「さて、どこから話しましょうか――」

 学院長はまず、学院の授業構成や時間割等を説明してくれた。率直に言って日本の大学に近い仕組みで驚いた。

 相槌を打って話を聞いていると、意外に早くおばちゃんが部屋に戻って来た。同時に食欲のそそる良い匂いが――。その一瞬、俺の綻んだ顔をチラッとおばちゃんに見られてしまい、おばちゃんはニヤリと片頬を釣り上げた。やっぱり見抜いていたのだろう。

 おばちゃんはテーブルに食事が乗ったお盆を置き、湯気が立っているポッドを手に取りその場でハーブティーをカップに注いでくれた。ちなみに、お残しは許しまへんで! とは言ってくれなかった。

 給仕が終わり、俺が笑顔で「いただきます」と応えると、おばちゃんはウィンク付きで微笑み、いそいそと退室していった。大分お茶目なかただ。

「それで、なぜ魔法学院が冒険者を雇いたいのかというと、今の学院の課題が――」そこで学院長は急にウフフと笑い始めた。

 しまった! そう思ったがもう遅い。ここは異世界。大体の食材が知らない物で、目が勝手に食べ物にいってしまったのを見られてしまったのだ。

「いいわよ。せっかくだから先に召し上がって」

 その言葉に、丸一日食べていない俺の腹が口より先に返事をしてしまった。恥の上塗りとはこのことか。学院長は出来すぎた展開に笑いが止まらないご様子だ。

 これで遠慮するのも相手に気を遣わせてしまうし、これ以上恥をかいても何も変わらないだろう。「ほんとスミマセン。お言葉に甘えて頂きます」

 お皿にはフランスパンを輪切りにしたような食べ物に茶色の葉野菜が寝かされている。茶色と言っても枯れ葉のようには見えない。見た目は水水しく分厚い。その上にはエリンギをスライスして焼いたような物体があり、さらに黒いテカリを放つ粒粒が乗っている。まるでキャビアだぞ!

 それが三枚あって、その隣のお皿にも三枚。具材の違う似たような食べ物がある。こっちはエリンギのような物は無く、赤いゴボウを切って焼いたような物が均等に並んでいた。そして黒い粒粒の代わりに、白くて粘々した粒粒が大量に乗っている。それも零れるほどだ。このねば~っとした物体は納豆に近い見た目だ。

 俺は手を合わせた。「いただきます」

 まずはキャビアみたいな物が乗っている方のパンを手に取った。どれをとっても見たことのない食材だが、臆さず口に運んだ。

 ――これまた。うぅん。もう一口。――う~ん! うまい!! 

 エリンギのようなものは牛肉のような味わい。キャビアみたいなのは、明太子のようなピリ辛の刺激があって、茶色の葉野菜はシャキッとした歯ごたえ。レタスとキュウリを合わせた感じで旨い!

 もう一枚くら良いだろうかとチラリと学院長を見ればニッコニコ。俺はもう片方の白い粘り気のある粒粒の方を口へ運んでいく。

 ……ん? これは! ピッ、ピザじゃないか!! 

 納豆のような粒粒はチーズの味にそっくりで、赤いゴボウはトマトのような酸味を持っていて――うん! こっちもうまい!!

「――大変美味しゅうございました」

「あら、もういいの?」

「腹の虫も鳴き止みましたので大丈夫です」

「せっかくですから、ハーブティーも飲んでくださいね」

 そう言って学院長はカップを両手に持ったので、俺もそれに従った。


 ――美味である。




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