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これが最初の魔法論  作者: 界人 峻一
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4 始まりの街


 風の都パスカル。その門構えは、まるで昔話に出てくるようなお城の門だった。幅は馬車が三台くらいは通過できるぐらい広く、上から少し降りている鉄格子の柵は高さ三メートルにも及ぶ。その柵の先端は尖っていて、地面に空いた穴へ深く突き刺さる仕組みのようだ。ちなみに横に続く外壁は、さらに五メートル程の高さがあった。

 門の前では兵士達が人の出入りをチェックしていた。彼らはダリウスよりも大げさな鎧を装備し、当たり前のように剣を腰に差している。

 ダリウスは俺が不安そうにしている事に気付いたようで、「大丈夫だ。ついてこい」と声をかけてくれた。

「次ぃ!!」

 俺達の順番がまわってきた。ダリウスは軽い足取りで進んでいくが、俺の足取りは重かった。何せパスポートがないんだからね。

 門兵はダリウスの顔を見ると顔見知りなのか、親しげに談笑し始めた。俺はというと兵士の頭の上にある耳に目を奪われた。まるで犬耳? いや狐か? ……ていうか、本物なのか? だとしたら人、でいいのだろうか? いや人だよな!? 

「――それにしても早い帰りで。どうでした? 狩りの方は」

「スリーテイルが三匹。それと……」後ろにいる俺を親指で指した。「こいつだわ」

 兵士がダリウスの脇からぬっと顔を出して覗いてきた。咄嗟に挨拶しようと一歩足を踏み込めば、ほぼ同時にダリウスに肩を掴まれて強引に前へ引き出された。

 俺は門兵の不思議な耳から目を離して、しっかり門兵の顔を見た。至極普通の人間の顔……。もはやファンタジーだな。

「こいつ北の草原の魔素溜まりで倒れていたそうでな。身分証明もできないんだわ。オレが代わりに保障するから入れてくれ。頼むよ」

 兵士は俺を上から下まで見た後、抱えている植物に目をやった。

 げっ。まさか税関まがいな事もやってんのか? いや、むしろやってしかるべきか。最悪没収か高い税をかけられたりするのかもしれない。しかし、たったこれしかない唯一の手荷物ぐらい大目に見てくれと内心祈った。

「……気の毒に」兵士はやや心配そうな表情で俺を見直すと「ダリウスさんに出会えて良かったな」と言い、白いトランプカードのような物を俺に渡してきた。

 覚えておこう。【魔素溜まり】は便利ワードだ。

 渡された白いカードは一日経つと黒く変色する身分証とのことで、変色する前に各ギルドで身分発行するように薦められた。つまりこれはワンデイパスポートというわけだ。身分発行について気になるギルドとやらは、ゲームの仕事を携わった時に知った冒険者ギルドのようなものかと確かめると、やはりそういった類のもので、他にも商業、工業、魔業等があると教えてくれた。ということはギルドが行政機関の一部を担っている。もしくは行政そのものという可能性もあるだろう。

 その後、俺達は兵士にお礼を言って門へと足を進めた。入国審査が緩くて良かった。手荷物検査も身体検査もなく、植物を抱えたまま無事に通過できるようだ。




 門の中はアーチ状のトンネルになっていて意外と長かった。左右に扉がある事から、壁の中は兵士の詰所になっているのかもしれない。

 薄暗闇の中、向かう先の出口から差し込む光が眩しい。数十秒で抜けられるトンネルだがドキドキする。こんなのは子供の時以来だろうけど、問題はドキドキの内容が少々違う事で、歩くたびに緊張感が生まれているのがよくわかった。

 トンネルを抜けると途端に足が固り、周囲のあらゆる風景に目を奪われた。見たことも聞いたこともない街。そうだろうなとは思って心構えはしていたが、あまりにも自分の知っている世界とかけ離れていた。まず人が違う。門にいた兵士のように動物の特徴がある人々がたくさんいた。亜人、っていうのかな。もちろん普通の人もいるが、実に多種多様の亜人が往来している。亜人の中には人寄りではなく動物寄りの亜人もいた。つまり顔や体の造形がほぼ動物のままなのだ。亜人を初めて見た俺にとっては、動物が服を着て二足歩行をしている街という、なんとも奇妙な光景。まるで物語の世界だ。

 それから車が無い代わりに、ここでも馬車が走っていた。あの騎馬隊の馬車は文字どおり馬だったが、目の前を通っていく馬車は、馬車と言いつつ馬ではない。見たことのない動物で、例えるならサイとトラを掛け合わせたような動物だ。周りの建物は丘の上から見た通りで、円柱の形をしたものばかり。ほとんどは滑らかな石造りで、至る所にツタが程よく絡まって風情を感じる。

 そうして視線は街の奥へと誘う大通りへと移った。道は石畳で造られていて、左右から木々が枝を伸ばしている。この道に寄り添いあう建造物の連なりは、奥へ進むほど高く大きな建造物へと変わっていき、目線は自然と上っていった。そして最奥に見えてきたのは、丘の上で見た巨大ドームの天辺部分。それは目印のように分かりやすく、道の終着点を表しているように思える。 

 漠然と風景を眺めて足を止めていると、後ろから門をくぐってきた人が煩わしそうにぶつかってきた。ここは広場になっており、門を入出する人々がたくさんいる。その待合いもかねているのか、ベンチもたくさん置いてあった。いくつか屋台のようなお店も出ており、食欲をそそる匂いを僅かに漂わせている。

 腹は減っているが、それよりあれに興味が唆られてしまう。広場の中央に直径十メートル以上もありそうな巨大な穴があるのだ。穴からは何か小さなものが太陽の反射で光っていて、上空へ昇っているように見える。穴から出る風が何かを吹き上げているのかもしれない。

 穴の縁は柵や網で落ちないようになっていたので、俺は身を乗り出してその大穴を覗いた。

「……雨?」

 顔に穴から吹き上がってくる微風と共に水滴が当たった。言い得て妙だが穴から空へと霧雨が降っていた。名付けるなら逆さ雨と言ったところか。先ほど光って見えたのはこの雨だ。

 穴自体は真っ暗で、かなり深い。時折風の音が小さく聞こえてくる。

「おい。落っこちんなよ」

 いつのまにかダリウスが後ろにいて、半ば呆れ気味に説明してくれた。この穴は【大気穴】と呼ばれているそうで、風の都と言われる所以の一つだそうだ。この穴以外にも街のあちこちに大気穴はあるそうで、丘から見えたキラキラ光る凧は、この大気穴の風で舞っているらしい。風には魔素が含まれていて、街のエネルギーとして利用されていると饒舌に教えてくれた。

 魔素という単語はこれまで何度か聞いているが、統合すると恐らく魔法の源のようなものだと思われる。

 話を聞きながら穴を眺めていると、柵の手前に蓋があるのを見つけた。日本で見るマンホールとは違って形状が四角形。大きさから見て、人間が穴へと降りるためのものだろう。ダリウスが言っていたエネルギー利用に必要なのかな。きっと穴の中には不思議な装置でいっぱいかもしれない。




 その後、ダリウスとは広場で別れた。ダリウスは心配してくれたが、これ以上迷惑をかけるのは申し訳なかったし、彼にも用事があるようだった。あとは自分でギルドに向かうだけだしな。とはいえ超が付くほど不安だったので、彼が働いている宿の場所を聞き、もしもの事があったら図々しく頼る事を遠まわしにお願いした。ダリウスは笑いながら快諾してくれた。

 俺は丁寧にお礼を言って彼を見送ると、とりあえず広場のベンチに座った。

「……さて」

 脱力して俯き、今朝からの出来事を思い返す。

 光輝く幻想的な草原。魔物と魔法を目撃し、聞いたこともない謎の言葉。そして亜人。やはり世界が違う。

 ふと顔を上げて往来する人々を眺める。服装はどれも古めかしい洋服。マントをくるんだ人や、ダリウスと同じように鎧を着た人。上半身裸で大工のような人も歩いているな。しかし、これだけたくさんの人がいてもスーツ姿のサラリーマンはいない。スニーカを履く若者もいない。どうやらこの世界の服飾デザイナーは、ざっくり言えばオールドファッションが好きらしい。

 それにしても物珍しさゆえか、オールドな服装を着込んでいる亜人にどうしても目が行く。牙が顎から飛び出していたり、耳が頭の上についていたり、尻尾が付いていたり、狼みたいな人もいる。あれ? 今日は満月じゃないだろうな? などとアホな事を冷めた感じで考えた。

 そうして力を抜いて茫然と座っていると、自然と寂しさがこみ上げてきた。

 これが現実……なのか。

 隣に置いた植物。コイツだけが俺の事を、俺の過去を知っている唯一の存在だ。

「こんにちは」

 気持ちの良い音色が隣から聞こえてパッと声の方へと振り向くと、いつの間に座っていたのか、傍に置いていた植物を挟んでベンチに座っている女性がいた。

 一瞬植物が語りかけてきたのかと思って驚いた。そして彼女を一目見た後、間を開けないように意識して笑顔で答える。

「――やぁ。こんにちは」

 意識して早く返事をしたのは、彼女の変わった外見に驚いた事を悟られたら、とても失礼な事だと思ったからだ。その外見というのは、耳が横方向へ大きく伸びている所。きっとエルフですね。

「顔色がすごく悪いみたいだったけど、気のせいだったかな?」

「いや、その通りかも。ちょっと新しい朝を迎えてね。落ち込んでるんだ」

「新しい朝?」彼女は首を大きく傾げた。

 その仕草に思わず「耳が肩にぶつかっちゃいそうだよ」と言うと、彼女はキョトンとして反対方向へかしげてみせた。それが可愛くて自然に笑顔になった。彼女もこのやりとりが面白かったのか、とてもかわいい笑顔を振りまいてくれた。

 気にしたら悪いと思っていた身体的な事をあっけなく口に出してしまった。だけど、どうやらそれは杞憂だったみたいだ。

 彼女は植物に優しい眼差しを向けた後、俺に手を振って去って行った。





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