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これが最初の魔法論  作者: 界人 峻一
23/25

23 あの日とその日。そして今日。



 そんな……信じられない。彼一人で倒せるほどゴーレムは弱くない、はずなのに。


 私はあの日、いつものように冒険者ギルドへ出かけた。ギルドには半年ぐらい通っているけど、未だあの依頼は出ていない。もう半ば諦めているけど一応、ねっ。

 掲示板をチェックした後は毎回街の外に出て、適当に遭遇した魔物で鍛えるのが普段の流れなんだけど、この日は街の東側で大量の魔物が出現したとの事で、急遽ギルド編成隊に入る事になってしまった。これで私が知るかぎり三度目。最近頻発に起こっている魔物の異常発生でギルド内は騒めいていた。

 私は他人と肩を並べて戦うのは得意じゃない。それに種族のことで不快にさせられる事があるから編成隊に入るのは嫌だった。でもギルド命令を拒否するのは色々と都合が悪くなるし、場合によってはこの街にいられなくなる事もある。【ギルドの掟は裸の掟】と言うくらいだもの。よっぽどの理由がない限り、ほとんどの人が拒否することなく受け入れるしかない。

 中には私と違って進んで働く人もいる。ギルド命令はギルドからの恩賞があって、他の仕事よりも割高だからね。

 それでも嫌なものは嫌。朝から憂鬱な気持ちでギルド編成隊の話しを聞いていると、運良く単独で西の偵察をお願いされた。東側の対応で人が集中する中、手薄な西側に問題が発生した場合を懸念したみたい。私を入れて4名程が単独で偵察するらしい。

 私が受け持ったのは北から西にかけて。なので最初に北から向かった。


 異常は特に見受けられなかったけど、とりあえず見かけた魔物はいつものように倒してお昼になった。お腹もすいたし、すぐ近くにお気に入りの小川がある。私は駆け足気味にそこへ向かった。

 この場所は森の中だけど、魔物が比較的少なくて穏やか。小川のせせらぎも気持ち良いし、少し開いた空間だから魔物が現れてもすぐ対応できるし、体も洗えて水も確保できる。寄るしかないよね。

 私は昼食の前に魔物の返り血や匂いを洗い落とすために小川に入った。

 今日のお昼ご飯はモチモチ包み焼きだ。モチモチ包み焼きっていうのは、トラビットのお肉を薄切りにしたビーコン、溶き卵、野菜クリームが入っている丸パンなの。

 作り方は割と簡単で、まず三枚のモチパン生地の上に、三つの具材をそれぞれ一つずつ満遍なく載せておく。モチパン生地は物凄くモッチリしていて良く伸びるから、それをニョ~ンと伸ばして具材ごと包み込んで袋にする。その袋を具材が乗った二枚目のモチパンの上に置き、それごと包み込んで再び袋状にする。その繰り返しで三枚目のモチパンもさっきの袋ごと包み込む。だから袋の中に袋があって、その中も袋になっている三層のパンなの。

 それを蒸し焼きにした後、外側をカラッと焼いてモチモチ包み焼きの出来上がり。外側はパリっとした食感だけど、中はモチパンの程よい歯ごたえ。加えて口の中に広がる三つの具材が、これまた絶妙な味でもう――。

 あ、一番の決め手は野菜クリームの層なんだよね。さっぱりしつつも程よい塩っ気が丁度よくて、三つの味をまろやかにしながら、それでいて襲ってくるかのように味が弾けて――。


「誰!?」

 お昼ご飯にわくわしながら小川で体を洗っていると、対岸から水音が聞こえた。想像のモチモチ包み焼きは一瞬で消え、私は勢いよく振り返って声を上げた。

 するとすぐに返事があって、その人は大分焦った口調で丁寧な言葉遣いで私を驚かせた事を謝った。木が邪魔でよく見えないけど、返ってきた言葉を素直に受け取れば敵意はなさそう。でも、それだけじゃまだ安心できない。

 様子を伺ってみれば、どうやら私と同じように体を洗いに来たみたいだけど……うーん。それにしても……あれは……。

 この人は危険な状態かもしれない。だってその人がいる付近から、赤くにごった水が大量に流れているから。私はその人より少し川下にいたからその様が良く見えた。さっきの謝罪の音色には、差し迫った危機感はなかったように思う。けれどこれ程流れる血を見て流石に知らんぷりできない。

 私は近くの岩場に置いておいた服をさっと羽織ったあと、木の枝から少し顔を出してその人を見た。そしてギョッとした。彼は全身を赤黒い血で染め上がっていた。

「……大丈夫ですか?」

「嗚呼――。ありがとう。大丈夫だよ」

 なんだか分からないけど、凄い感動しているような、とても深みのある感謝の言葉だった。しかも満面な笑み。

 ともかく、この様子なら大丈夫だよね。まずは安心。

 それにしても私に笑顔を向けるなんてちょっと変な人だ。私を見て嫌な感情を抱かないみたい。今は耳を隠してないから、エルフだと分かると思うんだけど……うーん。嫌悪されるどころか、その真逆の反応。嬉しいはずなのに、滅多にない反応だから妙な不安が入り混ざって複雑。

 いつもの私なら嘘や企み。または野盗の類かと疑いそうだけど、そうは見えないし思えなかったわ。あの血の量を見たから、本当に洗いに来ただけとしか思えない。

 顔は何となく子供っぽい感じに見えるけど、二十ぐらいかな。ひょっとしたら同年代? グレイのパンツに首を隠すように襟元が伸びた変わった黒い服。そして黒い髪に濃い茶色の目。

 ん? あれ? どこかで…………。んー?

 ――そうだ! 北門の広場で落ち込んでた人だ!




 その日、私は冒険者ギルドで試験に合格して三級から二級になれた。

 二級になれたことで仕事の幅が広がるから、これからは金銭面の都合もよくなる。私は久しぶりに奮発して、北門広場にあるスイーツのお店に足をのばした。お店の二階には見晴らしの良いテラス席があって、そこでちょっぴり贅沢なケーキを食べつつ、一人ゆったりとした時間を過ごしていたわ。

 もう少しお金を貯めればあの装備にも手が届きそう。装備が手に入ればギルドの掲示板は見なくても良い。それまでは万が一って事もあるかもしれないし、ギルドには通わないと。あとは解呪の魔法についてクリアできれば――。

 私は甘いケーキを食べ終え、外を眺めながら二杯目の紅茶を飲みつつそんなことを考えていた。すると、ふと広場にいる不思議な格好をした男の人に目が留まったの。その人は腕に植物を抱えていて、広場の中央にある大気穴を覗きこむために柵から身を乗り出していた。

 腰よりも高い柵にお腹を乗せて、体半分が穴の方へ出ている。あれだと吸気のタイミングで吸い込まれちゃうんじゃ……。

 大分ハラハラしたけど彼は落ちなかったし、持っている植物もしっかりと脇に抱えこんでいた。

 きっ、気持ちはわかる。これだけ大きい大気穴は中々ないし、子供はもちろん、大人でも珍しがるのを何度も見かけたことがある。あ、でも植物を抱えている人は中々いないような……。

 その後彼は一緒にいた人と別れ、一人広場のベンチに座った。手に持った植物を隣に置いて、悲壮感を漂わよせながら項垂れた。なにか悲しい事でもあったのかな。さっきまで元気に大気穴を見ていたのが嘘みたいだった。

 しばらくして彼は項垂れていた頭を上げ、周りを見渡した。そして隣に置いた植物を愛でるように葉を撫で始める。その滑稽な行動に笑いが少しこみ上げた。相当な変人か、植物を心から愛しているかどっちかだけど――。

 私にはその仕草から後者だと感じた。私もあんな風に撫でる事がある。エルフは皆、植物や森を愛する種族。なぜなら全ての恵みはそこから生まれると考えているから。

 ……あ、ひょっとして私と同じエルフ!? 


 彼に興味が湧いた私は会計をさっと済ませて外に出た。そして考えなしに彼が座っているベンチの前まで行くと、思い切って自分のフードを取ってみた。

 ちなみにフードをしていれば嫌がらせを受けなくて済むから、こんなところで取るのは少し勇気が必要だった。無難に過ごすためにフードは必需品だ。

 そして少し様子を伺ったけど、彼の視界に私は映っていないみたい。目の前にいるのに気にもとめない。何か声でもかけようかと思っていると、彼は大きく肩を動かして溜息をついた。まるで彼の周囲に大雨が降っているかのようだったわ。

「あっ」

 まじまじと見ていると彼がエルフではないと気がついた。耳ですぐに分かる事なのに、彼のその落ち込み具合に注目して忘れていた。

 自分の行動に笑いがこみ上げて来ちゃった。バカだなぁ。目の前に立ち続けるのも妙だし、私はそのベンチの端っこに腰掛けた。彼との間には器に入った見たこともない種の植物さん。

 何となく私は一声かけてみた。すると彼は頭をサッと上げて私を見た。

 あっ。フードを取って自分の耳を出したままだった。

 彼は一瞬驚いたみたいだったけど、すぐ笑顔になって気の良い挨拶を返してくれた。ついさっきまで落ち込んでいた人とは思えない笑顔。加えて可笑しな事を言うの。私の耳が肩に当たっちゃうよって。そんな事言う人は初めてで、本当に変な人だ。でも、変は変だけど、不思議と良い人に思えた。




 そして今日。森の中に小川で再会して、同じ笑顔を私に向けてくれた。嬉しい事に彼も私の事を覚えていた。あの日、一言二言交わしただけなのに。エルフの私を覚えていたのは当たり前かもれしれないけれど、久しぶりに会えた友達のような、屈託のない笑顔を返してくれて嬉しかった。

 小川で体を洗った後、服を乾かすために焚火を焚いた。その時、なぜか手元を凝視された。なんだろ?

 その後は彼も昼食がまだだったので、そのまま一緒に食べることになった。そこで私は血だらけになった経緯を聞いてみた。食事中に話す内容じゃないけどね。

 彼はレオドックの群れと戦い、不思議な魔道具によって一命をとりとめたと話してくれた。面白いのは戦う事になってしまったきっかけが、レオドックを尾行していたせいだったって事。

 私は笑いを堪えきれなかった。彼は準三級の冒険者。それなのに尾行なんて常識ハズレ。でもその行動を語る彼の口調が面白くて、呆れよりも笑いがこみ上げた。

 そんな感じで話しの内容はともかく、人と一緒に取る食事は久々で楽しかった。


 昼食を食べ終わり出発の準備。さっきまで晴れ間があったけど、少し雲行きが怪しくなってきていた。

 さっそく焚火で乾かした服を着てブーツを履いていると、彼は私の足をじぃーっと見つめてきた。それも堂々と。感じの良い人だと思っていたけど、ほんのちょっと良い人ぐらいに評価を下げる。

 準備を整えると、彼は冒険者として街の外に出たのが初めてらしく、しばらく同行させてほしいとお願いされた。詳しい理由を聞いてみると冒険者登録したのがつい最近で、冒険者として未熟だから私の行動を見学したい、とのことだった。

 ……嘘っぽい。

 尾行の件はともかく、返り血だらけだった姿を思い出すとそこまで新人のようには見えない。レオドックの群れも撃退したそうだし。あ、でも魔道具の事を知らない田舎者なのは確かだよね。

 でも、嘘っぽいと感じてしまった以上、一応その言葉の裏を読もうと彼を見つめてみた。すると彼は丸くした無垢な目を向けてきたの。私が感じの悪い人みたいになっちゃった。別に良いけどね。

 ホントは人と行動するのは嫌だけど、今回は承諾してみることにした。




 道中様々な魔物と出会ったけれど、私は危なげなく魔法と剣で対処した。

 その間、戦い方を本当にじっくり観察された。特に氷魔法を使った時は異常な程だった。氷魔法で凍らせた魔物の足を短剣で切り込み、内部の状態を確認するんだもの。

 もしかして氷魔法使えるのかな?

 それから彼は歩きながら、土属性の魔道具である手甲をこね回し、色々と試行錯誤して新しい武器を作ろうとしていた。

 私は素直に驚いた。一般的に土魔法は扱い辛く、イメージの定着が難しくて単純な物しか中々作れない。そのはずなのに、あそこまで器用に細かく作りこめるのは才能を持っている証拠だった。

 彼は作っては消し、作っては消しを繰り返す。私には何が気に入らなくて作り直すのかさっぱりわからなかった。

 ちょっとアレ欲しいな。この剣重いし、変形なんてもちろん出来ないし。でも、私があの魔道具を使ってもあんな風に自由には作れない。持ち主に恵まれた幸せな魔道具だよね。

 うーん。羨ましくなってきた……。あ、やめた。


 その後、休みを入れつつ一緒に西方面へ向かっていると、突然強い振動が起きた。振動は継続的で、段々と間隔を狭めている。

 何か巨大な魔物が近づいて来ていると分かり、どう行動するか迷いつつ横を見てみると、彼は何食わぬ顔のまま、まるで散歩しているかのように歩いていた。確実に彼の足も揺れているのに!

「警戒して!」

 強い口調でそう言うと、ようやく彼は危険を察知? してくれたのか、やや腰を落として身構えた。

 すると目の前の木々を荒々しくなぎ倒され、巨大な魔物がその姿を現した。

 ……そんな!? ありえない!!

 古代ゴーレムがこんな街の近くにいるなんて、絶対におかしい。ゴーレムは本来遺跡等を守護するために作られた、いにしえの魔物。こんな所で出くわすわけがなかった。

 目を何度も瞬かせて現実を疑った。けれど視界いっぱいに映る巨大なゴーレムの姿は消えない。しかも私たちが逃げようと踵を返せば、既に周囲をレオドックに囲まれていた。

 タイミングが良すぎる。ゴーレムに合わせてレオドックが待ち構えていた? ……まさか、魔人がいるの?

 一旦そう思うと、東の魔物の大量発生も魔人の仕業かもしれないと思えた。





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