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左遷艦隊  作者: マーキー
南国の司令官
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会談

いつも、お読みいただきありがとうございます。

本日、18時に『講義』を投稿しております。

まだ、お読みでない方は、『講義』から先にお読み下さい。

会談はきっかり、予定の時間に始まった。

元来、扶桑帝国貴族院は、軍事や財政または外交で帝国に多大なる貢献をし、領地を与えられ、貴族に叙せられた家が集まり構成された皇帝のための政策諮問機関である諸侯会議を祖とする名誉と権威ある議会であり、未だ世襲制が続が続いているため、貴族院の議員達は帝国において横柄であまり好ましくないものの代名詞として上げられるほどだが、モロ島に派遣された長嶺は短い手足にまるまると肥え太った胴体、すっかり薄くなり、テカリを見せている頭皮など、その特徴的な外見をして、非常に友好的に多田野の前に現れた。

「いやいや。多田野司令。傷はどうですかな。今回は運が悪かった。しかし、多田野司令のお陰で、モロ島は解放されました。後は任せて、ゆっくりと養生するといい。」

「わざわざ、いらして下さり、ありがとうございます。本来ならこちらから出向くべきところ申し訳ありません。閣下。怪我も良くなりましたし、艦隊も近衛を選抜されました。一層、職務に邁進したいと考えています。」

「なるほど。それは、殊勝なお心がけですな。陛下も多田野司令の働きに大変満足なされているご様子。お父様もさぞ、お喜びでしょう。」

「父をご存知ですか。」

長嶺は頷いた。

「伊戸大将には海軍大臣の顧問官を拝命した折にいろいろお世話になりました。伊戸大将にはまだまだ、頑張っていただきたかった。もっとも、これほどの息子さんがいれば、安心でしょうが。」

「私などは、大したことありません。」

「ご謙遜を。チャーラ沖のご活躍聞いております。さて、此度の戦争について、どう思いますかな。」

長嶺はいきなり、鋭い質問を投げかけてきた。

「どうとは。」

といったが、少し動揺した多田野は紅茶を跳ねさせて、ズボンにシミをつくった。

彰子がハンカチで少し叩くように拭いてくれ、

「よかったですな。しかし、紅茶とはいえ、シミは厄介だ。お気をつけを。」

ありえない失態にエルナの顔は厳しく光ったが、長嶺はそう言って微笑ましそうに笑った。微笑みを崩さぬまま、長嶺はごく自然に話を戻した。

「そうそう、多田野司令。私はね。今回の戦争には反対でね。無論、帝国がアメリア諸島を手中に収めたいというのは、古く建邦記に記されてもいた。私も陛下のご威光が増すことを喜ばしく思わぬわけではない。しかし、アメリアと戦端を開き、それを口実に南方攻略に乗り出すとは一条はやり過ぎた。陛下はその家柄と皇室への貢献を高く評価していらっしゃるようだが。」

長嶺は、多田野の答えを期待していたようだったが、エルナが代わりに口を開く。

「やり過ぎたとは。一条軍令部総長は、結果としてアメリア諸島の一部を帝国の版図に加えました。」

北園伯爵を見て培われただろう腹芸が思ってもいないことをさも当然のようにサラリと答えさせた。

長嶺はニコリとわらって、エルナに向き合った。

「橘君とか言ったね。妻の依里子から聞いてるよ。それは、君の本心かね。一条の妄執に付き合うつもりか。もっとも、モロ島が我が国に下ったことで、無能な文官どもも戦争継続を叫び始めたがね。」

「近衛艦隊は、陛下の御代を軍事面からお支えすること。私の心も陛下の御心のままに。」

「立派な心がけだ。しかし、それは逃げだな。では一条を止めるのも、忠臣の務めと思うが如何に。」

「アメリアとの戦争はどうやら一時休戦のようだがね。良いことだ。我が海軍兵力を無駄に消耗させることは陛下の意にも反する。」

休戦という言葉に、エルナ、猿渡、二階堂がどよめきの声をあげ、多田野は驚きながらも長嶺に尋ねた。

「一時、休戦とは。」

「知らんかったか。私もここに左遷された身だから、詳しくは知らんが、アメリアで内乱が起きたとか。近々、発表があるだろう。無論、アメリアとアメリア諸島の連合国は公式には、独立国同士ということで、連合国は帝国に徹底抗戦の構えを見せているそうだが。」

「つまり、主戦場がここ、南方に移ったと。」

多田野の言葉に長嶺はひどく面倒臭そうに頷いた。

「全く、軍部はいつも戦争など面倒なことを始める。さて、後の細かいことは我々でなく、事務方に任せるとしよう。」

長嶺はそういうと、一方的に会談を、打ち切る。

多田野がちらりと、エルナを見るとこれでよいと頷いているので、長嶺が出した手を多田野が握り、改めて後は事務方が詰めるという事を確認すると、会談は終わった。

長嶺がニコニコと愛想よく去っていったことで、しばらく多田野達は緊張が解けて、放心状態となっていた。

「休戦するのか。」

と多田野がつぶやきにも満たない声でいう。

「驚きましたな。我々はまだしばらく戦争に巻き込まれますが。」

猿渡が冷たくなった紅茶をすすりながら、応じた。

「そうですね。近衛艦隊があれば、帝国の支配権が及んでいることを内外に強くアピールできます。」

「え、神城大佐。私達まだ最前線にいるんですか。近衛艦隊になった以上、本土に帰れると思ったのに。」

唯一、気を保っているエルナが不満たらたらという声でそういって、神城や猿渡のため息を誘った。

気を利かせた井上が、黙々と紅茶を入れ替えていく。

紅茶の湯気が鼻に届き、多田野はハッと気がついた。

「大佐は、大本営に私の負傷の原因まで報告したか。」

「原因ですか…。いえ、司令の負傷は報告しましたが…。」

彰子は、多田野の考えに気がついたように口ごもった。

「長嶺議員は私が、跳弾で怪我をしたことを知っていた。」

「司令は長嶺議員が一条から送り込まれたとそう仰りたいわけですな。」

猿渡が多田野の意図を確かめるようにそういった。

多田野は頷いたが、二階堂は納得いかない顔をしていた。

「しかし、長嶺議員は一条は好ましくないと。」

エルナが二階堂を納得させるべく、説明してみせる。

「最初に『運が悪かった』といい、司令の紅茶が少し跳ねた時、『紅茶とはいえ』と言った。少なくとも、司令の行動を収集していることに間違いありません。気をつけた方が。」

そう言ったエルナの言葉が終わらぬ内に突如として基地内に銃声が響いた。


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