開幕
一条は軍令部の執務室で、のんびりと知らせを待っていた。
程なく、例の黒服の男が1人、現れる。
「長官。コールトン王朝がアメリアに対して独立を宣言しました。と同時に将軍の艦隊がアメリア西海岸に残っていた艦隊の排除に成功。アメリアは急遽、我が方との講和を打診して参りました。」
「そうか。予定通り。いよいよ始まったな。」
一条は、ゆったりとタバコに火をつけ、くゆらせた。
「御意。全て手はず通り。帝都にいる我々も長官のご命令でいつでも。」
「やれるか。失敗すれば、我々の努力は水の泡だぞ。」
「御意。」
「では、行け。あいつだけは、くれぐれも丁重に扱えよ。」
男は無表情のまま、敬礼して消えた。
入れ替わるように、執務室にもう一人、男が入ってくる。
今度は、濃紺の仕立ての良いスーツを着て、襟元には真新しい貴族院議員のバッチが光る若い男である。
「モロ島が降伏しました。ただ、交渉の際、銃撃戦に発展、多田野提督が跳弾により負傷した模様。」
「ふっ。そうか。怪我したか。手こずっているようだから、これが突破口になるといいが。まぁ、これで、議会に籠もる政治家連中も引けなくなった。全く優秀な艦隊だよ。で、政治顧問団の件はどうなってる。」
「議会工作はすでに終了しています。予定通り、講和条約に関する一切は否決され、モロ島に送る政治顧問団には私が選出されるものと思います。北園も今回は、アメリアとの対応に追われているようです。」
「敵に『戦うな』って言ったり、第三国経由でアメリア製品を輸入したり、好き勝手してくれたからな。今回は黙っててもらおう。しかし、モロ島の件は、慎重に行なえ、属国だと思われると国際世論がうるさい。あくまで、『顧問団』だ。やり過ぎぬよう、生かさず殺さず資源を頂け。」
「心得ております。今回、せっかく頂いた機会、存分に働いてまいります。」
一条は大いに笑って、長嶺に手だけで出ていくように身振りをした。
長嶺は、左腕を自らの心臓の当たりににつけてから消えた。




