基地
多田野は第12独立艦隊の旗艦となるヨーテイの中に入った。
士官学校の練習艦以来の揺れに少し足を取られながら、多田野は司令私室を探し当てる。
司令とはいえ、基地を持たない多田野にとって、今日から、この艦が基地となる。
多田野は自らの居城となる部屋を見回し、質素ではあるもののベットに小さい書き物机、洗面台まであり居住性は良さそうだと少し安心した。
「失礼いたします。提督。神城です。」
提督という呼称にどこか、こそばゆさを感じながら、多田野はドアをあけた。
彰子の横にツインテールの可愛らしい少女が隠れるように立っている。軍服を着ているということは18才にはなっているはずだったが、まだ、学生だといっても通じるような幼い顔立ちをしていた。
「申し訳ありません。副官と男性の従卒は確保出来ませんでした。井上麻里奈伍長です。司令の従卒としてお使いください。」
彰子は申し訳無さそうに頭を下げた。
扶桑帝国海軍において、従卒は同性の下士官が務めるのが慣例となっていた。
「人員配置で、なにか問題が。」
「遠藤司令の仰ったように人員不足により、副官を務められる階級の者は皆、各部署の責任者を務めておりまして艦の運営ギリギリの人数しか…。僅かな補充兵も昨今の女性進出運動の高まりで女性ばかりでして…。」
井上が不安そうにこちらを見て、話の行方を見守っていた。軍令部も人員配置について黙認している以上、こんな辺境の艦隊に正規の人員自体回す気はないのだと、半ば自嘲気味に考えなおした多田野は、目の前のこの少女には何も罪はないと井上に微笑みかけた。
「自分は気にしない。井上伍長。よろしく頼む。」
「はい。提督のお役に立てるよう努力します。」
井上の顔が明るくなった。
彰子がほっとしたように井上の肩を叩き、それからまた姿勢を正した。
「司令。甲板上に当艦の全乗組員と他の2艦の艦長以下主だったものを集めました。着任の挨拶をお願いいたします。」
多田野は仕事が出来る部下を持ったことを嬉しく思いながらも、早速、提督という仕事に面倒臭さを感じ始めていた。