戦乙女
アリークの決死のよびかけにより、モハメッド側の兵は完全に2分された。
あらゆるところから銃声が起こり、多田野の元にも頭や腕などに止血帯をひらひらと巻きつけた兵が集まってくる。彼らが背後を固めてくれる為、状況は頗る改善しつつあった。
しかし、それ程、猶予はないなと多田野は足を見て考えた。アサマから連れてきた陸戦隊員は白兵戦や銃撃戦には慣れてはいないし、人数的な面からも強行突破は出来ない。反乱兵に当たれば迷路のような軍艦内を迂回していくしか無い。戦闘に迂回と、ただ後部甲板に行くだけで、ものすごい時間を消費していく。
すでに多田野の足の包帯は真っ赤に染まり、細く一筋、血が流れ、ぽたりぽたりと床に落ちてゆく。
銃声や人の気配に気を配り、気持ちを保っていようと強く思っても、時折、すっと遠のくように多田野の意識は希薄になる。
耳元では、ずっと、多田野を支えている作戦参謀の荒くなった息も聞こえてきている。陸戦隊を前衛に回すため、ハーフで身長が多田野とそれほど変わらない作戦参謀を多田野を支える役としたのだが、
ふと、多田野は眩暈を覚え、一瞬、意識を手放す。
急に多田野の全体重を預けられた作戦参謀がよろめく。
しっかりなさってくださいと作戦参謀は多田野の腕を抱え直した。多田野には作戦参謀が柔らかくほんのりと暖かく感じて、また意識を手放しそうになる。
「私もしっかりしなくちゃ。」
多田野を心配そうに見ていた伍長は自分を奮いたたせるが如く突然、大声でそういって、拳銃を構え、撃った。弾は見当違いの方へ飛んだが、敵の放った弾は、伍長からほんのに2,3センチ左の壁に当たり、伍長がペタっとへたり込む。誰かが麻里奈ちゃんを守れと言った。その声に反応して、アサマの陸戦隊はまるで人が変わったかのように猛射を始める。多田野は手を差し出そうとしたが、ふと、視界から色が消える。
「伍長はすごいですね。」
元気つけようと笑いかけてくれる作戦参謀の声を多田野はすごく遠くで聞いた。
もはや、多田野の身体にはどこにも力が入らなかった。




