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左遷艦隊  作者: マーキー
動き出す影
35/50

督戦

フィリピヌ連合国第4守備艦隊とアサマ以下第12独立艦隊は互いに相手を警戒して機関を停止せず、微速前進を保ったまま、交渉の推移を見守っていた。

多田野が敵艦に乗り込んでから大佐は五分おきに時計に目をやっていた。

「全く断れば良いものを。」

思わず口から出た独り言を同じく心配そうに敵艦の方を見ていた副長が拾った。

「艦長も心配ですか、海の男は至誠を第一とする。伊戸大将の教えでしょうな。」

副長の言葉に航海長が乗っかった。

「旗艦を盾にするような提督ですからご無事ですよ。無事じゃなければ、あの旗艦にぴったり横付けしてやります。」

大佐は艦橋に満ちた多田野への気持ちに少し驚きながらも微笑んだ。

多田野はたかだか2ヶ月とちょっとでこの独特の空気感を作り上げたと大佐は感じている。副長や航海長が若輩の自分の指示に従うのも多田野が創りだした空気感に他ならないと思っている。

例えば、多田野が艦長達との初会談で、『どうせ、若い自分の指示など聞かぬだろうから艦長から兵まですべての意見を聞く』と言った時、大佐は多いに慌てたが、艦長達はあれで『海軍軍人』としての誇りと誠実な人となりに触れ、この提督の為にと奮起した。普通の提督なら目くじらを立てるような作戦行動中の副長の軽口も航海長の自慢話も黙って耳を傾け、キリの良い所で納める。だから、副長や航海長はのびのびと仕事し、提督の為にと行動する。

多田野の陽だまりのような穏やかさと戦闘の時、煙幕で沈没を誤認させたり旗艦を盾にするような大胆さ、海軍軍人なら皆がそこに惚れ込んでいくのかもしれないと大佐はもう一度時計を確認しながら思った。

聴音手の声が一気に艦橋の緊張度を上げた。

「ソナーに感。潜水艦。深度95。浮上中。」

ソナーに映った敵潜はアサマの左側面を完全に捉えていた。

しかし、潜水艦はその特性上、外界の様子は手に入りにくい。局地戦における降伏文書調印中の誤爆事故もあるため大佐は念の為の処置を講じた。

「水中探信儀を使って潜水艦に知らせて。前後マストにも白旗の掲揚を。」

通信長が慌てて聴音手の隣に座り、水中探信儀を使ったモールス信号で通信を試みる。

「送信終了。」

「敵潜より応答なし。」

通信長と聴音手から矢継ぎ早に報告がはいる。

「偵察機より、『潜望鏡見ユ』」

「注水音確認。」

大佐はちらっと誰も座っていない司令官席を見たが、迷っている暇はなかった。

「機関最大。緊急回避。同時にモハメッドに通信『我、所属不明ノ潜水艦ノ攻撃ヲ受ク。』」

大佐の命令でアサマは大きく傾き、増速しながら向きを変えた。

今回の作戦では敵水上戦力の撃滅が主目的だったためアサマとアヤセ以下軽巡2隻には爆雷は搭載されていない。

「駆逐艦隊を向かわせて。」

猿渡から2隻の駆逐艦をすでに潜水艦討伐に割いたとの連絡が来る。さらに足の速い駆逐艦隊で突撃し、提督を救うとの打電が入った。

戦闘中にも関わらず柄にもなくすこしだけ微笑んだ大佐は次に意識を魚雷に集中させたが、注水から発射まで時間が経ちすぎていた。

「魚雷はまだか。」

副長が緊迫した声を出した。

「撃ってきません。」

聴音手は不思議そうに言った次の瞬間、砲撃音が響き、観測手が上ずった声で敵艦の発砲を告げる。

第4艦隊は第12独立艦隊の動きを敵対行動とみなしたようだった。潜水艦に嵌められたと大佐は悟った。

「嵌められました。やるしか無いようです。」

副長が砲雷長に諸元入力の命令を出す。

「しかし、敵旗艦には提督が。」

そう言った大佐はもう一度、空席の司令官席を見た。アサマの前方に砲弾が落ち水しぶきを上げた。

大佐は一瞬、目を閉じて提督ならどう考えるかと思案した。

「砲撃戦用意。本艦はモハメッドに近づき状況の確認と提督の救助を優先します。」

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