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左遷艦隊  作者: マーキー
動き出す影
34/50

反逆

修正の恐れのあるお話です。

モハメッドに乗船した多田野達はモハメッド側の陸戦隊の案内の元、公室に通された。

公室の前で双方の陸戦隊を待機は待機し、多田野は公室のドアを開けた。

多田野を迎えたのは、筋肉質で身長190センチを越えるかと思われるスキンヘッドが印象的な壮年の男だった。

モハメットの司令公室はアサマに比べ狭かったが、機能性重視の多田野とは異なり、アンティーク調の高級そうな家具によって、居住性は申し分なく高そうに見えた。

多田野をみた男が笑顔でどっかりと応接セットに腰を下ろし、対面を多田野に勧め、多田野がゆっくりと座る。そうして、通訳として作戦参謀と黒人の若い士官がそれぞれの側についたところで、スキンヘッドの男が口を開いた。男は眼光は鋭かったが物腰は非常に柔らかで軍人というより、政治家に近いなと多田野は思った。そして、降伏するのにこのようなやり方をとるこの男の自信に満ちた態度に多田野は軽く腰を触り乗船した時に伍長が差し出した銃の位置は確かめた。

「この度はご足労をおかけして申し訳ありません。私は司令のアリーク・マグスです。私はモロ島の長の息子です。モロ島は長年アメリアからの離脱を夢見てきました。アメリア本国艦隊の力が弱まった今こそ、チャンスだと思っています。扶桑帝国はチャーラ島にもある程度の自治権を認めていると聞きます。是非、降伏して、帝国の傘下に入りたい。」

作戦参謀の通訳を聞きながら奇しくも多田野は勘が的中した事に驚いた。

多田野はアメリア語は一切わからない。

しかし、そんな多田野の目からみても作戦参謀の訳は流暢にアメリア語を操る割にたどたどしく、高度に政治的な話をわかりやすく伝えることには成功しているように思えたが、通訳としてはうまいとはいいがたかった。

多田野も作戦参謀が翻訳しやすいように言葉を選んでいく。

「自治権については私の権限の範囲ではない。降伏の後自ら交渉をする必要がある。」

「わかっています。我が艦隊の降伏を第一歩にしたい。」

アリークはすがるようにまっすぐに多田野を見つめた。

しかし、多田野は降伏の意を確かめようと質問を続けた。

「何故このような方法を取ったのか。」

アリークは少し身体を前に倒し、小声で話し始めた。作戦参謀もアリークに習うように小声になった。

「督戦潜水艦の存在です。督戦隊は同胞の中で金の為にアメリアに魂を売った妄信者共で構成されています。老人の乗った手漕ぎの漁船ですら、無断で島から出れば撃沈されます。守備隊に身を置く我らも対潜能力に劣る払い下げの旧型艦ばかりです。また爆雷の装備は認められていません。」

先ほどの奇妙な降伏勧告はアリークがモロ島の住民を守る為に仕組んだ芝居だった。

「我々が降伏したことにしなければ、味方に撃沈される恐れがあると。」

「察しが良くて助かります。合流した時には爆雷を譲り受け、自らの手で督戦潜水艦を撃破します。そして、モロ島にご案内いたします。」

アメリアの潜水艦しかも同胞を殺すと言っているアリークの目に偽りがあるようには多田野には見えなかった。

多田野は笑みをつくり頷いた。

しかし、作戦参謀は鋭い口調で何か聞いた。

多田野には何を言ったかわからないが、黒人の通訳の顔がこわばる。

しかし、アリークは作戦参謀を見て、ニコリと笑ってみせた。それから、ゆったりと何かを喋った。通訳の顔は更にこわばった。

「念のため、そちらが投降するという証はあるのですかと聞いてみました。アリーク司令は私の身を人質として頂いて構いません。この艦隊はモロ島出身者だけで構成されています。影響力は少なくなくあるかと思いますと言っております。」

作戦参謀の声にはまだ疑いが多い。通訳の顔から見て、『でしょうか』などという生やさしい口調で聞いたわけではないことは多田野にはわかっている。だとすれば、あの場面でニヤッと笑ったアリークは相当な策士だと思った。これ以上突っ込んで艦隊の降伏以上に話が進むのは危険だった。後は百戦錬磨の外交官に任せるのがよいと多田野は話題を変えた。

「モロ島はどんなところですか。」

一転、穏やかな話題に作戦参謀は不満そうな顔をしたが、職務は果たした。

アリークは少し間を置いて喋り始めた。

「一昔前までは自然豊かな漁村でした。石炭が出る事がわかり、アメリアが秘密裏に人造石油工場を建ててから開拓が進み、我々の暮らしは比較にならないほど忙しく搾取されるものとなりました。」

人造石油工場という言葉に多田野は作戦参謀を目で呼び寄せる。

作戦参謀がアメリア語で何か言ってから、跪いて多田野と目線を合わせる。

「提督はご存知でしたか。」

多田野は首を振った。

督戦隊の存在理由は分かったが、多田野はモロ島に人造石油工場があることなど全く知らなかったし、作戦指示書に添付された偵察写真にもそのような施設は映ってなかった。

アメリアが隠蔽工作をしたとしても、工員の動きでわかるようなものだがと考えて、多田野はアリークを見た。意味深に笑っていた。モロ島側も帝国側につく材料として意図的に秘匿していたかもしれない。

「いずれにせよ、人造石油は帝国に限りなく有利に働くだけに、政府も無下には扱えまい。」

作戦参謀がそうですねと頷く。もっとも、無下の意味を作戦参謀が正確に取ったのかはわからない。

「光信号でも使って、大佐に潜水艦について知らせた方がよいかもしれません。陸戦隊の中に通信科の者がいたはずです。その者を使いましょう。」

伝えたところでどうなるかとも思うが大佐ならうまく処理してくれるだろうと多田野は了承した。

作戦参謀がドア近くで緊張していた伍長を呼び寄せた時、突然、艦内に乾いた音が響き、モハメットが速度を上げた。

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