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左遷艦隊  作者: マーキー
南方の小艦隊
22/50

反応

「全く、克人殿下も人遣いが荒いですね。ようやく、潜水艦から逃げてきたら、今度は島々を解放しろなんて。」

 多田野達を廊下で待っていた本来の作戦参謀であるエルナは司令直々に作戦を聞いた様で開口一番、不機嫌さを隠すこともなくそう言った。

 多田野は彰子に山中との話は他言しないようにと耳打ちした。

「橘中佐。聞こえたらどうしますか。」

「聞こえるように言ってるです。殿下は『君が作戦参謀なんて。』って笑ったんですよ。それに、殿下、私にこんな髪留めなんか渡して。」

 エルナは手に持ったケースから、細かい宝石がステンドグラスのように散りばめられた花と蝶のゴムを出して手首にかけた。

 多田野は殿下の人の良さそうな笑い顔を思い出した。

 ずっと内地にいた殿下は艦とゴムの引き起こすこの反応を知らなかったに違いない。

 パーリル効果。

 船舶や飛行機は強度と重量の点から鉄ではなく、ジェラルトン鋼という合金が使われており、このジェラルトン鋼に塩分とゴムがつくと、ゴムが熱を上げて溶け、ジェラルトン鋼と結合する。車のタイヤなら、海風を浴びて船に乗っただけで、大変な事故が起こるため、港湾専用車というキャタピラの乗り物があるほど、海の仕事にとってゴムは大敵である。身に付けるゴムでも、乗り心地を重視し、装飾で飾られた旅客船であれば、それほど問題ないが、波しぶきを浴び、揺れで身体をむき出しの船体に打ち付けるかもしれない軍艦の乗組員にはゴム製品はご法度である。それでも新人の女性乗組員の髪が艦と一体化するという事故が何件かある。

「せっかく頂いたんだから、休みの時にでも使ったら。」

「そうですよね。休みなら何をつけても。」

 エルナが意味ありげにそう言った。

「中佐。艦隊に新しい艦が来ることは知っていますか。それに提督は今日が休みだとは言っていません。」

「せっかく逃げてきたのに休みもないのですか。休息も必要です。」

「いえ、訓練しないと間に合いません。それにあなたには作戦参謀としての職務もあるでしょう。」

 彰子の言葉にエルナが明らかに多田野に向けて、わざとらしくヘナヘナと崩れて見せる。

 皆、彰子のような『軍人』かといえばそうではない。死傷者が出たことで特に水兵達の精神的疲労は高いはずだと多田野はエルナに手を差し出した。

「ヨーテイの乗組員には一日の休暇を与えよう。他の3艦は半舷ずつ。そうすればヨーテイだけは1日早く訓練を始められる。僕は休息も必要だと思うな。」

 彰子も仕方なさそうに頷いた。

「さすが、提督です。どこかのお硬い軍人さんとは大違い。すぐに休暇にしましょう。」

 一瞬で顔が明るくなったエルナが多田野が止めるのも聞かないで意気揚々と伝令を探しに消える。

「まぁ、提督の言う通り、休息も大切ですよね。でも、新入艦もありますし、我々の休暇は会議の後ですよね。」

 彰子がいたずらっこのように微笑んだ。

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