謁見
多田野たちがチャーラ島の司令から面会を求められたのは、ヨーテイをドックに収容してすぐだった。
チャーラ島の司令はなぜか多田野に大佐と作戦参謀の同道を求め、3人は揃って司令公室に行く事となった。
司令公室に座っていたのは舶来物だろう上等な四角いメガネを掛け、人懐っこそうな笑顔が印象的な軍人とも貴族ともなにか違う気配を纏っている男だった。
ただ、中将という階級にしては年は多田野とそんなに変わらないように見える事が多田野を緊張させる。
多田野は司令官の素性がうっすらとわかってきた。改めて敬礼する手に力を込める。
「北有栖川克人中将だ。多田野幸隆准将。そなたの父上には世話になった。」
チャーラ島司令は多田野の読み通り、皇族だった。
「おお。君が神城君か。よく伊戸についていた副官の神城の娘だね。一度会っておきたかった。」
大佐が緊張した声で光栄の極みでありますと頭を下げる。
「気を使うことはない。それに今は一軍人だ。」
それでも、多田野と中佐はもう一度改めて頭を下げる。北有栖川が困ったように微笑んだ。
「そうだ。第12独立艦隊は陛下から私の指揮下に移されるらしい。必要なものは副官の山中に言ってくれ。」
隣の部屋から音もなく髪を几帳面に七三分けに撫で付けた目つきの鋭い老軍人が出できた。
「多田野提督。山中寿一郎少将であります。」
実質的な司令官はこちらかと多田野は思った。
大佐もちらっと多田野を見た。
北有栖川はようやく、仕事の話を終えたと穏やかな笑顔になって、一歩下がったところにいた作戦参謀に話しかけた。
「エルナ。元気だったか。会いたかったぞ。」
その砕けた物言いに多田野と中佐が顔を見合わせる。
「克人王殿下。ご機嫌麗しく。」
作戦参謀は優雅に腰を折り、手慣れた様子で宮中式の挨拶をした。
「エルナ。いつも通りで構わない。」
いつも通りという言葉に作戦参謀へ大佐の鋭い目つきが刺さる。
「お二人はこちらへ。」
山中は多田野たちを隣の部屋に誘った。




