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左遷艦隊  作者: マーキー
南方の小艦隊
19/50

正体

 ヨーテイは機関損傷と浸水のせいで通常の倍以上の時間を掛けてようやくチャーラ港にたどり着いた。

 多田野は司令官席から立ち上がり、腰を伸ばした。

 亡くなった者達のためにもしっかりしなくてはと歓迎のために手を振る係員を見ながら決意を新たにする。

 多田野の左隣には目を覚ましたエルナが少し申し訳なさそうに立っていた。

「戦死者の葬儀はアヤセで行うことにして本艦は浸水と機関の修理をさせた方が良いかと。ドックが空いていば良いのですが。」

 多田野は彰子の意見に頷いた。

 チャーラは最前線基地である。

 ドックが満杯の可能性も十分あり、皇族直属の独立艦隊とはいえ、戦闘ではあまり役に立たない艦船数4隻の小艦隊に基地司令がドックを貸すかどうかは提督である多田野の腕前にかかっていると言っても過言では無い。彰子もそれがわかっていて、あえて最後の言葉を濁したようだった。

 だからといって、修理を延ばせば、皇族への忠誠心がないと取られかねない。

 手土産(ワイロ)を持っていくのが手っ取り早い方法だが、軍令部に目をつけられている今、下手な帳簿処理をすることは出来ない。書類上のどこをどう誤魔化すかと多田野は一つため息をついた。

「そんなことにはならないと思います。チャーラのドックは空いてるはずです。」

 エルナが自信あり気に言った。

「チャーラ港より、第三ドックを使うようにとの通信が来ています。」

 楢橋の報告に皆が驚いたようにエルナを見た。

「北園のお爺様がいろいろ手を回してくれたようですね。一応、侯爵様ですからね。」

 とエルナが得意気に笑ったが、艦橋には一瞬にして戦慄が走った。

 北園斉彬。

 扶桑帝国議会の貴族院議長で政府の要職にある者でも北園と話すには三ヶ月はかかるという噂もある政界の大物中の大物である。

「橘中佐は北園侯爵と知り合いなのか。」

「ええ。父が北園のお爺様のお孫さんの訓練教官をやってた関係で、よく北園家のパーティに呼ばれたんですけど、母はダンスなんか踊れないしパーティの雰囲気も苦手で。代わりに私が。私は向こうでパーティとか多かったんで。北園のお爺様も女の孫が欲しかったらしくて。つい仲良く。」

 多田野も彰子もエルナの話を聞いて少し気が遠くなった。

 日野以下は完全に世界が違いすぎると、わざとらしく声を上げながら接岸業務を遂行していく。

 多田野は初めて遠藤が自らの娘をこの艦隊につけた理由を知った。

 軍令部の外の政界と通じ、その工作を策略と思わずやってしまう絶対に裏切らない人物。遠藤の考える第12独立艦隊のエルナにこれ以上、相応しい人間はいなかった。

「それと、ここの司令は『少将』なので、その件も手を打っておきました。」

 エルナがまたも得意気に言う。

 タイミングを図ったように、艦橋までわざわざチャーラ島の伝令兵が来た。

「大本営より親書が届きました。」

 伝令兵は恭しく漆塗りの文箱を捧げ持ってきて、多田野の前に跪いて中から紙を渡す。帝国軍において皇帝から直接、親書がくるということは昇進辞令である。彰子にも昇進辞令が出たようだった。

 扶桑帝国軍の作法に習い多田野は親書を読み上げる。

「准将に任じる。」

 続いて彰子がそれに習う。

「大佐に任じる。」

 日野以下艦橋要員がおめでとうございますと敬礼し、准将旗の掲揚を命じる。

 エルナが多田野を見てニコッと笑った。

 大きな歓声とともに上がっていく准将旗を見ながら多田野は遠藤親子が怖くなっていた。


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