被雷
ヨーテイの船体を爆音と振動が襲い、多田野は椅子の肘掛けをぐっと掴んでなんとか身体を立て直した。
ふと横に目をやると、すでに彰子は音にも振動にも動じず、伝声管を手に取っていた。
馬鹿になった耳に彰子の被害を報告してという声が響く。報告が飛び交い騒然としているものの艦橋要員達は無事のようだった。
「橘中佐が倒れてます。」
誰かがそう言った。
左隣の床にエルナが倒れていた。
多田野は立ち上がって、エルナの元にいき、口元に手を当てて息を確認する。幸い息はあるようだった。被雷した際に転び、床に頭を打ったのだろう。
「回避行動は続けて。」
「艦長。舵に問題はありませんが、速力は低下。10ノットがやっとかと。左舷の機関がやられたようです。」
南郷はそういったが、艦は巧みにジグザグを維持していた。
続けて日野が被害状況が報告する。
「敵魚雷2本が命中。内1本は船尾に当りましたが不発。もう一本は居住区画に当たりました。現在浸水中で応急班が作業中。また、機関部より左舷の機関が止まったとの知らせです。電気系統、配管が破損したのが原因とのこと。現在復旧作業中ですが、しばらく掛かるそうです。」
「応急班は浸水に対処して。機関部は左舷機関の復旧を急いで。敵潜水艦は。」
彰子がテキパキと指示を出して事態を沈静化していく。
「一路離脱を図っている模様。ミズホが追い回してます。」
とりあえず、危機は去ったのだと多田野は思った。
こうなれば司令に仕事はない。
「医務室より、2名が戦死。20名が負傷したとのことです。」
日野がそう告げた。多田野は自らの指揮で人が死ぬという事を初めて認識していたたまれない気持ちになった。
「司令のせいじゃありません。負傷兵を見に行きましょう。これも仕事の内です。」
何かを見ぬいた彰子はそう言ってエルナの片腕を抱えた。彰子はやはり出来る艦長だった。
多田野も慌てて反対側の腕を抱えて艦橋を出た。
南郷は彰子と多田野が居なくなったのを見計らって呟く。
「やっぱり、伊戸大将の息子だな。普通、旗艦を盾に使うなんて考えないだろ。」
日野が頷いた。
「確かに魚雷に当たりに行くなんて無謀だと思います。」
艦橋要員の中で一番若い楢崎が少しだけ楯突くように言った。
南郷は、一言バカと言った。
「楢橋。俺はああ言う男は好きだ。ああいうのを『船乗り』って言うんだよ。」
楢崎は南郷の意図を図りかねたようだった。
日野と金沢は少しだけ笑顔になって、ヨーテイはチャーラ島への航海を再開した。




