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左遷艦隊  作者: マーキー
提督の誕生
11/50

密議

 自室に帰った多田野を迎えたのは井上だった。

 多田野は早速、井上に遠藤を迎えに行くように頼んだ。

 そうして、ガチガチに緊張した井上が出て行くのを確認して多田野は切り出した。

「さっきの海域にあの規模の艦隊が出現した理由は何だと思う。」

「確かに。そうですね。海図上の規模の基地ではあの重巡艦隊は収容できないはずです。我々を待ち伏せしていたと考えるべきです。」

「流石だな。初めての艦隊指揮の旗艦艦長が神城中佐でよかった。」

「当艦隊には参謀がついていませんので、少しでも提督のお役に立てればと。」

 多田野にはそう言った彰子が少しだけ赤くなったように見えた。

 扶桑帝国海軍には3艦以下の艦隊には作戦参謀を付かないという規則がある。以下艦艇の数によって参謀の数も決まっていく仕組みだった。

 ちょうど、良いタイミングで井上がドアを叩いた。

「遠藤司令をお連れしました。」

 遠藤が満面の笑みでがっしりと多田野と握手をかわす。

「多田野君。今回は良くやったな。」

「ありがとうございます。遠藤司令。伍長。悪いけれど、しばらく誰も入れないで。」

 井上がまたガチガチの敬礼を返し、紅茶を用意してドアを出たのを確認して遠藤が紅茶を一口すする。

「可愛らしい従卒だな。君の好みか。」

「いえ、人員上の都合であります。」

 と間髪をいれずにそう答えたのは彰子だった。

 遠藤が笑った。

「さて、本題に入ろう。今回の作戦は軍令部は関知していないとの事だった。」

 多田野と彰子は顔を見合わせる。

「しかし、作戦命令書はここに。」

 多田野が作戦命令書を遠藤に渡した。

「君のことだ。無断出撃とは思っていない。しかし、長官自らがそうおっしゃったんだ。」

 つまり、誰が何と言っても作戦は存在しないということだった。

 その事実に多田野は少なからず驚いたが同時に納得した。

「そういうことですか。やはり、何かがあると。」

「しかし、当艦隊を襲わせても、無駄な艦艇の損失を招くだけです。何か得があるとは思えません。」

 彰子は膝を強く掴み、立ち上がらんばかりに抗弁する。

 多田野は彰子の腕を優しく掴んだ。

「我が海軍内もこの戦争について一枚岩でない。伊戸大将から軍令部を奪ったとはいえ、伊戸派の現場将校達は少なくともこの戦争に懐疑的だ。一条は君たちの死を利用して反対派を焚きつけようとした。」

「司令。我々は軍令部から狙われているということですか。」

 彰子が身内に狙われるのは許せないと立ち上がる。

 多田野は彰子の肩を押さえて座らせた。

「いや、今回の件で『戦争に協力している伊戸大将のご子息』という作戦に変えるらしい。それと、第12独立艦隊への新規配属も決定した。」

「それは、ありがとうございます。むこうも、同じ手が二度と使えるとは思っていないでしょうからね。」

 遠藤はそういうことだと頷いた。

「しかし、なぜここまで急に開戦に踏み切ったんでしょうか。国力の差から見ても議会が承認するとは思えません。」

「すまないが、こんな辺境基地の司令である私には中央の様子まではわからんよ。さて、堅苦しい話は終わりにしよう。話したように第12独立艦隊に4隻目の艦が配属される。それに伴い、第12独立艦隊にも作戦参謀をつけないとならない。さっきから待たせてるんだ。エルナ。入りなさい。」

 エルナと呼ばれた女性が部屋に入ってきた。

「橘エルナ中佐です。よろしくお願いします。」

 ポニーテールにした背中の真ん中まで届きそうな金色の髪。肌の色は多田野達と変わらなかったが深い湖のような青い瞳と高い鼻というはっきりとした顔立ち。ハーフの美女だった。

「私の娘だ。」

 遠藤はポツリとそう言った。

 彰子が危うく紅茶を吹き出しかけて咳き込んだ。

「親子ですか。」

 多田野も何の気なしに、そう聞いたが、彰子が遠慮がちに肩を叩き、自分が失礼な発言をしている事に気が付き、顔を伏せた。遠藤もバツが悪そうに頷く。

「ウエスタのドーチェン王国の駐留武官時代、向こうで我が国とのハーフの女性とちょっとあってな。彼女は母方の姓を名乗っているが、私とも連絡が取れる。」

 ウエスタはアメリアの更に西側に広がる基本的に自分の大陸内のことにしか興味のない保守派の小国がWA(Wesuta Alliance)連合を組んで統治している大陸で、ドーチェン王国はその中の一つだということしか多田野には知識が無かった。

「それから、エルナはドーチェンの上級士官学校を出ているし、多くの艦隊を巡ってきている。親が言うのもおかしいが、開戦の事やいろいろ役に立つと思う。それに軍令部の送ってくる人材よりは信用できるだろう。今のところ、私の出来る援助はこれまでだ。」

「司令。いろいろ、ありがとうございます。」

 なに、お安い御用よと遠藤は紅茶を丁寧に飲み干し、クッキーを一つ口に入れてから見送りはいいぞといって部屋を出ていった。

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