不安な気持ちと
夕馬の部屋は整然としており、私の男の人の部屋。と言うイメージとは違っていた。
基本散らかるのが嫌だと言うが、かと言って
綺麗好きな訳でもない。
私の部屋は、ごちゃごちゃしている。
性格が表れるのだろうか。
一人暮らし感のある部屋。
夕馬の癒しの空間。
コーヒーにこだわりがある夕馬。キッチンにはカフェにある様な、コーヒーの道具が揃っているし、あのカフェ同様。厳選豆も多種ある。
夕馬は料理をするが、得意ではないらしい。
私が泊まる時など、私に料理を任せる。
コーヒーは、淹れてくれるのに。
料理の手伝いはなし……。
男の人は、今時だろうがそうでなかろうが、
本当に人によりけり。
別にそういうのは苦痛ではないが。
育った環境が違うし、私の父親も基本料理などしないし。
まあ、苦痛なく。 それがいい。
夕馬と付き合い始めて、夕馬の事を少しずつ
理解し始め、もっと一緒にいたいと思う。
私の事も知って欲しいし、もっと好きになって欲しい。
そういう感情は、自然な事……。
時々私を襲う不安な気持ち。
色んな不安が心に宿る。
拭い切れないのは、自信のなさからなのか。
理由さえ、分からない。
夕馬はそんな時、私を抱き寄せる。
少しだけ、消える私のモヤモヤ。
だけど。 完全に消える時は来るのか。
自分の弱さが情けない。
夕馬とのこれからは、どんな物になるのか。
あてもない考えを巡らせる。
夕馬の夢。私の現実。二人のこれから。
胸によぎる。 頭はグルグル……。
何なんだ、私は。
いつからこんな弱気になった?
いつからこんな……。
お前のせいだ。夕馬。
夕馬の隣、私は一人考えた。
「あのさぁ。 さっきから、何を思いふけってるのかな? オレといる時、 それ禁止」
私の顔を覗き込んだ。
「顔! 近いよ……」
「いい加減、 慣れて。 何が恥ずかしいんだか。 風生の色々知ってるじゃん」
「オヤジ……」
何気ないやり取りが、くすぐったい。
「あ、 そうだ。 明日飲み会入った……。
断れなくて、 ごめんなさい」
「仕方ないじゃない? 仕事のひとつだし」
「うん……。 で、 その飲み会にさ。 あの子も来る……」
一瞬で、理解ある女から、理解ない女に
変わった。
「はあ? 何でよ。 あの子関係ないじゃん」
平野小娘。夕馬狙いのお嬢ちゃん。
何で事務の子が……。
「いや、 あの子人気あるし。 それに、部長のお気に入り……」
何なんだ。 うちね会社は。
私的感情で飲み会やるのか。
私はなるべく理解ある人でいたい。
夕馬は夕馬の付き合いとかあるし、ゴタゴタもしたくない。
でも。
あの娘は、嫌だ!
絶対に夕馬べったりに決まってる。
私の中の子供じみた感情。
大人になり切れない……。
「なるべく早く帰るから! 後。 不安にさせない」
夕馬は優しい。 でも、その優しさが、時々私を不安にさせる。
甘えるていいか、迷ってしまう。
大人同士、 どうやって付き合う?
束縛とかイヤだし、でも自由過ぎるのもイヤだ。
バランス良く付き合うのは、難しい。
「……仕事。 飲み会も仕事のうち。 まあ、 楽しんで」
「ほどほどに、 楽しむよ」
最近の私は、夕馬の部屋に帰る事が多くなった。
一緒にいたいし、会社近いし。
負担にならない程度、一緒にいる。
自分の時間も大切にしたいし。お互いに。
夕馬の飲み会の日。
朝からテンション高い女がいた……。
「高野さんっ。 今日楽しみですね! 私お酒強いんですよ」
だから。 仕事しなさいよ。
思わず言いそうになった。
「何なんだろうねぇ。 あの娘さんは。 全く
社会人として、どうだかって感じ」
「おばちゃま発言ですよ? お姉さん……」
隣の友人とそんな会話をしていても、私の意識はあちらにあった……。
「高野君も、本命いないのかね。 早く見つければいいのに」
ドキン。
一瞬心臓が……。
一応います。ここに……。
「さあ。 私は分からないや」
訳の分からない答えをし、仕事に集中した。
退社後、プラプラ買い物しながら、夕馬のマンションへと歩く。
「飲み会、 何処でするのかな……」
変な嫉妬?
あり得ないから気にしないでおこう。
急ぎ足でマンションまでと思った時。
「やーだ。 高野さん! くすぐったいです
よ!」
凄く聞き覚えのある声が耳に入った。
ふっと振り返る。
夕馬とあの子、二人が居酒屋の前にいた。
「二人だけ……? 」
そんな事はないはず。
聞いてないし。
私は他の人を探した。
……明らかに二人きり。 他にいない。
状況が呑み込めない。
二人だけで飲み会ですか?
仲良さげに店に入る二人は、まるで恋人の
様……。
追いかけて、問い詰めたい。
そんな事、できないけど。
まさかの光景とはこの事なんだろうな。
冷静になろう。
私はとにかく、落ち着こうとした。
理由があるはず。 確かに夕馬は女の子が好きだ。
でも、私と付き合い出して、他の子とは必要以上に話さなくなった。
私だけだと言ってるし。私も信じている。
理由がある。
私はそう思い、マンションへ帰った。
暗い部屋の中、電気も付けず、ソファでうずくまった。
「色々聞いたら、 嫌がるかな。 うるさいって思う? 子供の恋愛ごっこみたい。 私って
こんなだっけ……」
夕馬のばかやろう。
不安にさせないって、嘘じゃない。
でも、こんな事で不安になる私も私だ。
ドンとしてればいいじゃないか。
不器用な私。
心狭いな。
色んな感情がまた押し寄せる。
一人きりの部屋の中、私は私と闘った。