二人、秘密
夕馬との関係は、会社では内緒にしている。
外野が色々言うと思うし、いちいち答えるのは面倒だ。
「言ってもいいんじゃない?」
男の人は気楽でいい。
女は、そうはいかない。
結婚は?とか、いつから?とか。
下らない事を詮索されるし、モテる夕馬を
狙う娘……。
その娘にだけは、知られたくない。
色々嗅ぎ回られ、要らぬ事を言うだろう。
女子校じゃないの、分かってる?
私より若い、彼女は、人気がある。
色々な方面から……。
やだな。 大人社会は。
きっと彼女も自分の立場、分かっている。
したたかにすり抜ける。
私は、苦手だ。
そういう人とは、関わりたくはない。
なので、内緒。
「普通にしてよね? 会社では!」
夕馬に念を押した。
「分かったよ。 言う通りにします。 だけどさ……。 会社以外では、 仲良くしたい」
甘え上手。
だから、モテるのか?
そういうの、不安要素……。
夕馬と私。
会社では名字で呼び合う。
同じ部署だから、自然に夕馬が目に入る。
爽やかに、他の娘と話す。
仕事仕事! 邪念は捨てる。
「あ! 高野さんっ。 やっと見つけた。 この
書類、 訂正箇所ありますよ!」
……ムカつく話し方。あの娘か。
夕馬を呼び止め、必要以上に接近。
何でもなかった事が、いちいち気になる。
いつものオフィス、いつもの自分。
けど……。
夕馬との関係が始まった。
理性を保つの、疲れるな。
昼休み、私は公園ランチ。
そこへ夕馬がやって来た。そして、ベンチに
座る私の隣へ。
「ねえ! 誰かに見られるって」
「よそよそしくする方が、変じゃない?」
夕馬の正論を受け入れた。
二人でランチ。 コンビニのサンドイッチを
頬張る。
不思議な気持ちだ。
心地よい風が、私の中にも吹く。
「明日、 オレ残業なんだ。 だから一緒に
帰れない」
偶然を装って、私達は一緒に帰る。
駅まで送ってもらうだけ。
でも、帰り道さえ嬉しいと思う。
夕飯を食べて帰ることもある。
なるべく目立たない様に……。
「残業は仕方ないよ。 私は大丈夫だから」
笑顔を見せた。
「オレんちで、待つ?」
「え? でも……」
いきなり言われて、戸惑った。
付き合い出して日が浅いから、私はいつも
戸惑う。
「いや。 何かいつも駅までだし、 会社でも
あんまり話せないし。 今日残業だし」
寂しさとか、不安とか、夕馬も感じているのかな。
ポツリ呟く言葉が、愛しい。
「着替え、 ないし……。 急だし」
「そっか。 急だしね」
そう言った夕馬のスーツの裾を無意識に
つかんだ。
恋に不器用な私。素直になりたいのに。
何で素直になれないのよ。
「定時上がり。 服、 買いに行く……」
私の言葉に少し驚いたが、すぐににこっと
した。
「それじゃ……」
スーツのポケットをゴソゴソし、何かを
取り出した。
「はい、 鍵ね」
そう言って、私に手渡した。
「ふふ。 嬉しい」
多分私の顔はニヤニヤしているだろう。
こんなやり取りさえも、嬉しく思う。
「じゃ、 後でね。 この後会議だから」
手を振り、夕馬を見送った。
去っていく夕馬も、何か嬉しそう?
やだ。 うぬぼれだ……。
ランチを済ませ、私も会社へ戻った。