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幾つもの夜を超えて  作者: 七草せり
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幾つもの夜をこれからも。

向かった先は小さなレストランだった。 こじんまりとしていて可愛いお店。


やはりイタリアと言えばイタリアン。

ピザやパスタを期待していたが、出された食事は和食だった。


「このお店、 和食屋さん?」


「そう。 こっち来て見つけたんだ。 たまたま入ったら和食が出てきた」


「ふーん。 イタリアンな雰囲気なのにね」


「でしょ? でも美味いよ。 日本人のお店だし、 食材にも拘りがあるし」



テーブル席に座った私は、日本語で夕馬と話す。

向かいの視線が気になった……。



「マスターもいるし、 英語でお願いします。 マナーでしょう?」


イタリア娘は敵意剥き出しだ。


「構わないよ。 二人での会話なんだ」


優しくマスターが微笑む。

この子の知り合いって、信じられない。



まあ、気にしない。


出された日本酒でまずは乾杯。

異国の地でありつけるなんて、幸せだ。


「遠い日本から来てくれた風生に乾杯!」

マスターの言葉で食事が始まった。


前菜は小鉢に入った菜の花の辛味噌。小鉢も和を感じる。


早速口に運んだ。


「菜の花、 美味しい。 日本と変わらない

ね」


感動を覚えた。


次はブリの照り焼き。

脂ののったブリが香ばしい。


一つ一つが丁寧に作られていて、本当に感動した。 器にも拘りがある様だ。


素材から拘る事は、コーヒーにも共通する物があるのだろう。

だからこの店を選んだのか。 確かにイタリアにも拘りがあり、料理は美味しい。

けれど、敢えて異国の料理を出す店を選んだのだ。


夕馬の考えが少し分かった。



しかし先程から黙々とマスターの隣でイタリア娘が食べている。

美味しいものを食べているのだから、もう少し楽しくしようよ。


「マスター、 お口に合いますか?」


「ああ。 美味しいよ。 日本食は好きなんだよ」


「そうですか……」


マスターに話しかける平野さん。

益々不機嫌そうになる。



「そう言えば、 水瀬さん帰りの日程いつにしましたか? 先程お帰りになると……」


「え? 私話してないよ」


「ですが、 お帰りになると仰いましたよね? まあ、 まだ飛行機の予定見ていないから分からないのか」


一瞬静まった。

何をいきなり言い出すの? 気に入らないの分かるけど。


困惑する私に、夕馬が口を開いた。


「ねえ。 急に何を言い出すの? 風生は帰らないよ。 暫くこっちで暮らすし。 大体今日の食事は、 風生の歓迎会と……」


「二人のお祝い!」


最後の言葉はマスターが言った。


「おいわい……? え?」


平野さんは、完全に思考停止した様だ。


「友里、 聞いてなかったのか? 夕馬のお嫁さんの風生の歓迎会と、 二人の結婚祝いだよ? 」


「お嫁さん? 結婚……? 私聞いてない」


「……。 ごめん。 はっきり言わなくて。 イタリア来る前に籍入れたんだ。 バタバタしてたし式はまだだけど。 平野さんが良くしてくれて感謝してる。 イタリアでも助けてくれて……。 ただ、 気持ちには応えられないって言ったよね。 こっちに来る前に。 その時はっきり結婚の話すれば良かったけど、 傷つけたくなかっし、 気まずくもなりたくなかったから……。 いずれ風生がイタリア来た時に話そうと思って」


「騙してたの? 」


「気まずくなりたくなかった。 騙した訳じゃないよ。 はっきり言えば良かったんだ」



嫌な空気が漂いはじめた。


「有里……。 夕馬は決して騙してないよ。

君の気持ちに応えられない。 応えなきゃいけないのなら、 イタリアの話は無しでいいって

言ったじゃないか。 君も風生の事知ってたんだろ? 知ってたがイタリアに来れば振り向くと思ったんじゃないのかい? でもね。 二人は相思相愛。 分かっているだろ? 夕馬の指輪。 一度でも外したかい?」


急いで揃えた結婚指輪。二人の指にしっかりはめられている。


「きちんと言わない私達が悪かったわ。 でもね、 私も不安だったの。 もしかして二人がくっついちゃったら。 何て考えたり。 だけど夕馬は私を待っててくれた。 ごめんなさい……。 夕馬の隣は私だけなの」


きっぱりと言った。


平野さんの気持ちには申し訳ない。

けれどこの先何も言われたくない。


私達の間に割り込んで欲しくない。



「そうですか……。 ですが、 まだいきなりは無理です。 ……ずっと思ってましたから。 でも。 有休無くなるし、 日本に帰ります」


「平野さん……。 ありがとう」


私達は頭を下げた。


結局傷つけてしまったけれど、彼女のお陰で夕馬は一歩を踏み出せた。

だから、ありがとうと本当に思った。





家に帰り二人でソファに座る。


「貴方がはっきり言ってれば……」


「応えられないって言ったよ?」


「言葉が足りないのよ。 結婚の話だって言えば良かったじゃない」


「風生が来た時にと思ったから」


「全く……」


コーヒーカップを口に運んだ。


「結婚の報告は 二人でしたかったし、 お祝いもしたかった」


「少しは女心解りなさいよね」



だけど何だかホッとした。

正直あの子のアピールは激しい。


夕馬に言い寄ったのだろう。

可愛いし、気が利くし、少し気持ち揺らいだかな。


「ねえ、 風生? 日本のマンション解約しようよ。 働くのもこっちでいいし。 やっぱり夫婦は一緒にいないと。 引越しやら手続きあるから一度日本に戻ろう」


急に何を……。


「夕馬はいつも急なのね。 戻ろうって言っても日程つくの?」


「うん。 何とかね。 二週間あれば片付くでしょ?」


「私一人でも大丈夫だし、 会社もいきなりは辞められないよ」


「うん……。 その辺は何とかしたから。 会社に挨拶行って、 引越し準備して。 でまたこっちに帰ろう」


また何か色々決めたんだ。

私の意見はないの?


むくれる私に 「話進めないと、 風生はイタリア来ないからね。 夫として決めさせてもらいます」



夕馬の独断に従うのが妻なのだろう。

あの子が再来してもやだし……。


「で、 いつ頃日本帰るの?」


「明後日」


……。返す言葉もございません。



結局私達は急遽日本へ戻った。


「お宅の旦那様も強引ね」


会社の隣人の細やかな嫌味を聞き、デスクを片付ける。


「イタリア娘。 宜しく」


「何それ? やだよ。 あの手の娘は苦手なのよね。 若さ溢れてるでしょ」


「確かにね。 まあでも邪険にしないであげてね」


「人妻の余裕か」



等の話をし、皆さんにご挨拶をした。


上司にも丁寧に挨拶。


長年働いた職場を離れるのは寂しいし、ましてや日本を離れての生活は不安だ。


でも自分で決めた事。進むのみ。



マンションの引越しと解約を終わらせ、互いの両親にも挨拶を済ませた。


イタリアへ帰る前日。私達はホテルに部屋を取った。


「案外あっという間だったな。 忙しかったし、 風生大丈夫か?」


「慣れました」


「そうか。 良かった。 で、 病院行ったんだろ? 結果は?」


「うん。 平気みたい。 薬も変わったけど減ったし。 で 、 ちゃんと質問したよ。 子供産めるかって」


「お? それで?」


「大丈夫でしょう。 だってさ」



やはり夕馬の子供を生みたい。

でも生めるかどうか分からないので、改めて検査がてら質問した。


結果は大丈夫。 だから薬も変わったのだ。

子供に影響のないものに。



「良かった………。 色々安心したよ」


「もしイタリアで生むとかなったら、 ちょっと不安だな」


「大丈夫だよ。 マスターの奥さんベテランのママンだし。 オレ達の事も自分の子供だと思ってる。 それにオレがいるから、 安心しなさい」


「余計心配だよ」


夕馬との毎日はきっと楽しいのだろうな。


泣いて笑って、想い合ったり。


幾つもの夜を二人で超えてここまで来た。


幾つもの夜を二人でまた超えて。


私達は一緒に歩いていく。


出会えて良かった。


二人寄り添う夜は、幸せな夜で。夕馬と離れたくないっていつも思う。

夕馬も同じ気持ちでいてくれるの?


時々襲う不安な気持ちは、すぐに消える。

夕馬の温もりがあるから。


これからもずっと一緒にいようね。


私は夕馬を抱き締めた。


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