いきなり結婚しました。
「風生! 何やってんだよ!」
汗だくの夕馬。片手にスーツと私のカバンとジャケットを持ち、息を切らして目の
前に現れた。
「夕馬……。 ごめん」
「何で急に帰った? オレの送別会。 何で帰る? 具合悪くなったかと思って、 すげー捜した。 カバン店に置きっぱだし」
呼吸を整え、私の隣へ座る。
「本当にごめんなさい……。 ちょっと夜風にあたりたくて」
「で? カバン持たずに帰った? 鍵ないのに?」
ジリジリ詰め寄る。
「いや……。 うっかりしてた」
まさか、イタリア娘に言われっぱなしで。何て言えない。
「隣人に蹴飛ばされたよ。 無神経って。 ごめん。 配慮なかった……」
「夕馬の送別会だよ? 私いなくても」
「皆オレ達の事知ってるけど、 きちんと言っておきたかったし。 オレ達の事。 なのにいないし」
「え? 何を?」
「風生休職中だけど、 いずれイタリア行く事と、 結婚すること……」
いきなりの言葉にビックリだ。
「休職中だけど……。 イタリア行くって言ったけど。 結婚って……」
しどろもどろになる。
頭が働かない。
だって、だって。夕馬そんな事一言も。
「先に行くけど、 ケジメつけたくて。 イタリア行く前にきちんとしないとって。 だから……。 お前の両親に挨拶して、 オレの家行って、 結婚の話しようとしたけど、 体調悪いからあんまり無理させたくなくて」
「だって……。 挨拶すること聞いてない。
結婚の話だって」
完全にショートした。
「風生の気持ち確かめられたから、 早くしなきゃって思った。だけど色々忙しくて。
ごめん……。 でも本気だから」
そう言うと、スーツの内ポケットから何か取り出した。
「二人で送別会やって、 で渡そうとした」
小さな箱を渡された。
白い箱。リボンが付いてる。
「色々予定狂ったけど」
小さな箱を開けた。
ジュエリーボックス……。
ゆっくり開くとダイヤの付いた指輪が入っていた。
「夕馬……。 これ」
私から指輪を取ると、左手の薬指にスッとはめた。
「結婚、 しよう。 イタリア行く前に籍入れよう。 ずっと一緒にいたいから、 態度で安心させたくて。 行動しなきゃって」
「いいの? 本当にいいの?」
夕馬に抱き寄せられた。
「それは確認済みだろ? 土曜日挨拶行こう。 お前の体調考えずにイタリア行くけど、 本気で離さないから」
きつく抱き締められる。
涙がとまらない。不安だけど、一緒にいたいから。 夕馬のケジメ嬉しい。
私の左手が温かい。
土曜日。
私達は私の両親へ報告した。
病気の娘を置いて行く事を心配したが、私の人生だからと納得してくれた。
そして、夕馬の両親にも報告。
家族の愛情を感じずに育った夕馬だが、両親は夕馬を応援してくれた。
イタリアへ行く前に私達は入籍を済ませた。
かなりバタバタしたけれど、夕馬と結婚できた。
「取り敢えず安心だな。 新婚生活はイタリアで満喫しよう。 しっかり治せよ? オレもちゃんとやるから。 最初は苦労かけると思うけど、 必ず幸せにする」
力強い言葉を残し、夕馬はイタリアへと旅立った。
夕馬のマンションに完全に引越した私は、寂しさを感じながらも、病気の治療に専念した。
イタリア娘は結婚した事はまだ知らない。
送別会で発表できなかったままだったから、
そのまま言うタイミングを逃した。
隣人曰く 「変に言って、 協力やめられたら困るでしょ。 だったらあんたが行くまで夢見せてあげたら? 一気に天国から突き落とされるの見たいし」
意地悪に笑った。
夕馬がイタリアへ行ってしまったので、私はパート扱いで復職した。
「敢えて苦労の道進むかねぇ。 まあ勝手だけどさ。 ちゃんと病院行きなよ? 早くしないと押されるかもね」
またまた毒を吐き、楽しそうに笑った。
全く……。
でも、早く行かなきゃ。
焦る気持ちが私を襲う。
夕馬の居ない部屋に一人帰る。
温もり感じたい。
メールは一日一回届く。
コーヒーの学校行きながら、あの子の知り合いのカフェで働いているらしい。
休暇中のあの子は、夕馬にベッタリらしい。
しかし、借りた部屋には入れないらしく、不満を漏らしていると、イタリア娘の友達が言っていたと隣人が話した。
「案外真面目ねぇ。 旦那様」
面白くないと言う顔だ。
当然の事でしょ?
私は心で呟いた。
「あの子の有休、後少しね。 このまま残ったりして」
「やめてよ。 本当に。 イヤなんだから」
「じゃあ、 さっさと行って 『宅の主人がお世話になりました』 とか言えば? 偵察がてら、 ちょっと行ってきなさいよ」
「え? だって……。 急に行っても」
「はーぁ。 何なの? その気弱さ。 自分の旦那に会いに行くのに、 遠慮いる?」
言われてそうだと思った。
イタリアにも病院あるし。
私はかかりつけ医師に相談した。
「イタリアねぇ。 飛行機の負担は多少ありますが。 まあ、検査結果もいいですし。まあ、 いいでしょう。 イタリアはナポリ? それなら日本人医師のいる病院があります。 紹介状かきましょう。 しかし、 まだ完治した訳ではないので無理せずに」
許可が出た。
夕馬に電話……。 いや、いきなり行こう。
驚くかな。
夕馬もだけど、あの子も……。
善は急げ。私はテキパキイタリアへ行く準備をした。
一人の部屋は寂し過ぎる。
はやる気持ちを抑え、飛行機のチケットを予約した。




