乱入者、行動開始。
夕馬は仕事を辞め、本格的にイタリアへ行く準備を始めた。
以前に増して、部屋にダンボール箱が多くなる。
私はまだ病院からイタリア行きの許可が出ない為、一緒には行けない……。
仕方ない。病気が良くなれば行けるんだと、自分を納得させる。
それに余り出発を遅らせる訳にはいかないし。
「風生。 きちんと病院行って、 早く治せよ。 一緒に行きたいの我慢してるんだから。
とにかく向こうで生活環境整えるよ。 だから、 早く来て。 あ、 でも無理しなくて……」
私の心配と、自分の進む道の間で揺らいでいる。
私はそっと夕馬の背中にしがみついた。
「待ってて。 早く行くから」
穏やかな夜を、二人で過ごしたい。
いよいよ夕馬がイタリアへ行く時が近づき、
会社の人達とのお別れ会が開かれた。
イタリア娘はテンション高く、夕馬の隣にべったり。
一応誘われた私は、テーブルの隅の方でジュースを口にした。
「何であんたが遠慮するのよ? 彼女でしょう? 」
「うん、 まあ。 でも主役は夕馬だし。 あの子にお世話になるしね」
小さく呟いた。
会社の同僚達は、私達の事を知っている。
だから敢えてこの場に誘ってくれたけど。
家で待ってた方が良かったな。
嬉しそうに夕馬に寄り添うあの子。
あからさまに邪険にできない夕馬。
まるで二人の門出を祝うみたい。
気分が悪くなり、私はそっと外に出た。
ヒンヤリ気持ちのいい夜風に吹かれて、ぼんやり星空を眺めた。
店の灯りが眩しくて、星があまり見えないけど。
「高野さん。 私と一緒にイタリアへ行きます。 彼女さんは知ってますよね?」
店からあの子が出て来て、私にいきなり話しかけた。
「あ、 うん。 貴女と行くんだよね?」
「それが……。 それが何を意味するかも?」
「え? えーと。 お世話になるって」
「私が! 私がただ着いていくかと?」
「あの。 意味が……」
私は混乱しそうになった。
どうにか理性を保ち、彼女の言葉を聞いた。
挑戦的な目。幼さがまだ残る顔は、余裕に満ちている。
「戦闘開始。 イタリアへ二人でいきます。 貴女はここに残る。 私達はイタリア。 高野さん、 優しいから。 貴女を気遣ってると思いますが……。 二人で住む部屋を決めました。 分かります? 私と高野さんの部屋。 貴女の入る余地、 ないんですよ?」
可愛らしい口から、毒を吐く様にそう言った。
私は完全に押され気味だ。
何も返せない。
夕馬は、私も一緒にと言ってくれた。
嘘なの?
目の前が揺らぐ。立っていられない。
この子は何を言ってるの?
「まあせいぜいお大事に。 病気が治る頃には、 素敵なお知らせがイタリアから届くかも知れませんね」
そう言うと店に戻った。
暫くその場に立ち尽くし、我に返った私は店に戻らず夜の街の中を歩き出した。
「夕馬……? 嘘だよね? ねえ。 あの子の言ってる事は、 嘘だよね?」
一人呟きフラフラ彷徨う。
カバン。お店だ……。まあ、いいや。
消えてしまいたい。
あんな娘の言葉に動揺するなんて、バカバカしいけど、でも……。
心が痛い。
夕馬のマンションの近くの小さな公園のベンチに座り、夜風吹く中星を眺めた。
涙など出ないけど、頭の中がいっぱいになる。
何を、誰を信じる?
夕馬を信じる? 信じたいけど。あの子は真剣だ。
私なんかより、役に立つだろう。夕馬の側で夕馬の為に。
「ほんと、 バカだな。 私……」




