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幾つもの夜を超えて  作者: 七草せり
3/36

離せない腕

彼の腕の中は、温かい。


でも……。 不安と期待は拭えない。



風生(ふう) って呼んでもいい?」


私の両腕を掴んだまま、高野君が聞いた。



「え……? あ、うん……」



恥ずかしい気持ちになる。


でも、受け入れた。


全てを受け入れる事になるのか。


彼の事を……。



頬が熱い。


名前で呼ばれる事なんて、何年ぶりになるのかな。



「オレの事も、 名前で呼んでよ」


甘えた声で言う。


何か、ずるい……。



「ゆう、ま……」



小さな声で呟くように名前を呼んだ。



これ以上、ムリ。



何でこんなに恥ずかしいの?



訳分からない。



「はは。 まあ、 段々慣れてね。 風生」



再び抱きしめられた。



高鳴る鼓動。


聴こえてるのかな。



彼の腕の中、 自分の鼓動を感じた。



この腕の中に、ずっといたい……。


私の中の本能が言う。



振りほどく事はできるはず。


だけど、離したくない。



二人で初めて過ごす夜は、お互いをもっと

知りたい。


そんな事を思う夜だった。




翌朝、私の隣で眠る彼の顔を、じっと見た。


不思議な感覚が、私を包む。



そっと支度を済ませ、キッチンへ。


別に……。 直ぐに恋人気分と言う訳じゃないけど、朝ご飯は。



誰に言い訳してるのか。


冷蔵庫を開けた。



「へー。 意外。 結構揃ってるんだ」


冷蔵庫の中は、意外にも食材が揃っていた。



卵やハム、幾つかの野菜。


「洋食好きかな?」



彼の事は、会社でしか知らない。


勿論プライベートなど聞かないし。



取り敢えず、オムレツと、簡単なサラダを

作った。



ご飯にお味噌汁。


日本の朝……。私の定番だが。



彼の好みが分からないから、ある食材で作れる物を。



モゾモゾと寝ぼけた彼が起きてきた。



テーブルに並べられた朝食を見て驚ろく。



「うわっ。 あさごはん……。 嬉しいなぁ。

あ、 コーヒー淹れるよ」


「先に顔、 洗ってきたら?」


「うん」



母親と息子の会話か……。



顔を洗った彼が、コーヒーを淹れてくれた。



「では。 いただきます」



行儀良く、食べ始める。



私はくすぐったい気持ちになった。


こんな風に朝を迎えるなんて。



「やっぱり美味しいね。 コーヒー」


カップに淹れたコーヒーを飲んだ。



「でしょ? 朝のコーヒーは、 夕べのとは

違うんだ。 ちょっとブレンド変えてみた」


「本当? 分からないや」



やっぱりコーヒーの勉強したいんだ。


何と無くそう思った。



「ね、 今日出かけようか。 行きたい所あるんだ」



オムレツを口にしながら、そう言った。



「いいけど、どこ?」


「行けば分かるよ」



サラダ、オムレツ。 それらを平らげ、満足そうにソファでくつろいだ。



「あー。 何かいいなぁ。 人の温もりを感じるよ。 幸せって言うのかなぁ」



キッチンで食器を洗っている私に向かい、

ストレートな発言。



やっぱり恥ずかしい。



でも、何気ない事が、幸せって思う。



後片付けを終えた私は、ソファへと。


彼の隣に座った。



「君がいてくれて、 良かった……」



急に真面目な顔つきになり、私の頬に手をあてた。


私の全部が、今を嬉しく思っている。


この人を、愛しいと……。

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